…私、何してるんだろう…。
しなきゃいけないことは、分かってる。
町に出て、旅人が集まりそうな所に行くこと。
そして、私の村の方へ行く人を探して、同行させてもらうこと。
町に出なくたっていい。ここは宿屋。旅人は大勢いるはず。
部屋から出て、廊下ですれ違った人に頼めば、即OKになるかもしれない。
…たったそれだけのことが…今の私には、できない。
……………。
宿の女将さん…下半身が蛇みたいな人が、一昨日から毎日、
私の様子を心配して、部屋まで見に来てくれている。
その度に、謝罪とお礼の言葉、それと宿泊日延長のお支払い。
病院に行った方が…と言う女将さんの言葉も聞かず、一日中ベッドで横に。
………本当、何してるんだろう…。
他人に迷惑を掛けてまで…なんで動こうとしないんだろう…。
早く村に帰りたいはずなのに…。みんなに会いたいはずなのに…。
ネスさんが、私のために置いていってくれたお金も…もう残り少ない…。
……どうして……?
ネスさんと、あんなに早くお別れになったから?
それなら、もっと一緒にいたメイさん達とのお別れの方が、辛いはず。
そうじゃない。それだって辛いことだけれど、それとは違う。
違うはずなのに、ネスさんとのお別れの瞬間が、頭から離れない。
…憂鬱な、昼下がり……。
……………。
……………。
コン、コンッ。
…ノックの音。
誰だろう…。女将さん? 今朝来たのに…。
もしかして、心配になって、また来てくれたのかな…。
……出にくい…。心配を募らせちゃうだけだから…。
………重い身体を動かして………ゆっくり、ドアノブに手を掛け……開く。
……………。
………え?
「ソラちゃんっ!」
…おねえ…さん……? どうして…。
「よかった…! 無事だったんだねっ!」
ぎゅうっ…と……私を包む、懐かしい感触…。
…お姉さんだ…。本当に、お姉さんだっ…。おねえちゃんだっ!
―おねえちゃんっ!
ちからいっぱい、抱き返す。
どうしておねえちゃんがこんなところに?
なんで私がいる場所が分かったの?
どうやってここまで来たの?
…いい。そんなの、どうでもいいっ。
おねえちゃんがいる。おねえちゃんがいてくれている。
それだけでいい。それ以外…それ以外、何もいらないっ…!
「ソラちゃん…。本当に、よかった…」
おねえちゃん…。ごめんなさい…。
心配掛けて、ごめんなさい…。勝手にいなくなって、ごめんなさい…。
「…あははっ。ソラちゃん見たら、なんだかどっと疲れちゃった」
その言葉にハッとして、慌てて離れ、お姉さんにベッドで休むよう促す。
「うん。ごめん、ちょっと横にならせてもらうね」
部屋に入り…ころんと、ベッドで横になるお姉さん。
…夢じゃない。お姉さんは間違いなく、私の目の前にいる。
「…ソラちゃん、こっちに来て。お話しよう?」
お姉さんの目が、私を誘う。
招かれるままに…お姉さんが寝転ぶ隣…頭側の方で、腰を下ろす。
「どれくらい、待たせちゃった?」
…否定と謝罪を含めながら、答える。
「そっか…」
お姉さんの口癖。
なんだか、とても久しぶりに聞いたような気がする。
私がいなくなって、まだ1ヶ月も経っていないはずなのに。
「ソラちゃん」
私を呼ぶ声…と、両手招き。
犬とか猫を呼ぶ時のようなしぐさ。
私にとっては、お姉さんが頭を撫でてくれるときのしぐさ。
もししっぽが生えていたら、ぶんぶん振っていると思う。
喜び隠さず、腕の中へ。
「よーしよしよし…」
シャンプーするときのように、くしゃくしゃと頭を撫でられる。
…気持ちが良すぎて…身体中の力が抜けていく……。
疲れているお姉さんに、だらけていた私が癒されている駄目っぷり。
癒してあげなきゃという気持ちはあっても、甘えたい気持ちに勝れない。
……しあわせ……。
「…髪、伸びちゃったね。でも、ちょっと大人っぽく見える」
ほんと? なら、髪、伸ばそうかな…。
あ、でも、お姉さんはどっちの方が好き?
お姉さんが好きな方の髪にしたい。髪型も、決めてほしい。
「お姉ちゃんね、歳かな〜…、この前、白髪が一本だけ生えてたの」
お姉さん、まだ21歳でしょ? たまたまだよ、きっと。
それとも…私が心配掛けちゃったせいかな? だとしたら、ごめんなさい。
「…よーし、ソラちゃんの若さ、吸い取っちゃうぞっ。がぶーっ」
あ、噛まれた。頭噛まれた。吸い取られるぅ〜っ。
「なんちゃって。あははっ」
あははっ。
「………ねぇ、ソラちゃん」
なに? お姉さん。
「本当に…私、ソラちゃんのことを…待たせてない…?」
うん、大丈夫っ。全部吹っ飛んじゃった。
「…その表情、勘違いしてるよ、ソラちゃん」
…? 勘違い?
「私が訊い
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