…ここはカイマの町、その中でもさほど人気のない酒場。
店の名前は『幼女の黄金水』。命名はダンナ。
改装せずにもう40年は経つもんで、至る所がボロボロだ。
蜘蛛の巣、デビルバグなんて装飾の一つ。背もたれがない椅子もある。
新築のころは、リンゴみたいに真っ赤っかだったレンガも、
今じゃ埃を被って、掘り出したばかりのサツマイモの色になっちまった。
あたしゃ、そんな店を切り盛りしてる、一人のドワーフ。
名前はワッフ。だのに、皆ワッフル、ワッフル呼ぶもんだから、
今じゃダンナもワッフル、ワッフル呼んでくる。もう慣れた。
ほら、また常連の客がワッフルって言ってるよ。
なんだい? ツマミが切れたかい? 何? 『ワッフルちゃんの黄金水が飲みたい』?
あんたねぇ、あんたにも奥さんがいるんだろう? 恥ずかしくないのかい。
アホの亭主が考えたセクハラ店名を、嬉々として言ってんじゃないよ。
ほら、黄金水だよ。泡だっぷりだよ。いっぱい飲みな。70Gね。
しかし、物好きな客も多いもんだね。
もっと良い店は他にあるだろうに、わざわざこんな辺鄙な店に来るんだから。
そんなにヨメに見つかりたくないか、ロリコンなのか。どっちかだろうね。
今いる3人と、更けた頃に来る6人。まったく、ありがたいことだよ。
おっと、お客さんだ。いらっしゃい。
店を間違えてはいないだろうね? ここは穴掘りワッフさんのお店だよ。
間違えていないなら、そこにお座りよ。この店で一番汚れてない席だ。
ほら、2丁目のアラクネんとこの旦那。ゲソ足齧ってないで。
馬の娘さんがあんたの後ろに座るってんだ。向かいの席に移ってやんな。
悪いね、男臭い店でさ。どいつも昼から飲んだくれのしょうがない奴さ。
ほら、水だよ。水はタダだ。好きなだけ飲みな。
悪いけど、おぼんから取ってくれないかい? あたしゃそこまで背が高くなくてね。
馬の娘さんはいいねぇ、天井の掃除も楽にできそうだ。羨ましいよ。
こっちは人間のお嬢ちゃんかい。珍しいね。魔界に惚れちまったかい?
まぁ、ここでは同じ客だよ。ほら、何か食いな。タコの刺身はもうないけどね。
おっと。はいはい、ワッフルさんだよ。何か用かい?
なんだ、まだ飲むのかい。あんた飲みすぎだよ。7杯目じゃないか。
その内あんたが黄金水漏らしちまうよ。ほら、水でも飲んでな。
しつこいねえ。奥さん呼んじまうよ? あんたんとこの、ドラゴンだろ?
まったく、元勇者様がなんて体たらくだい。しっかりおしよ。
え? 何? ヨメが怖いから帰りたくない? そりゃヨメも怒るよ。火吹くよ。
あんたねえ、ぐうたらな亭主を見て怒らないヨメがいると思うのかい?
ヨメってのはね、自分を引っ張ってくれることを夫に望んでるんだよ。
それがあんた、自分が引っ張られてるじゃないか。どこのヒモだい。
勇者時代のカッコイイあんたに、ヨメは惚れてくれたんだろう?
そんでぐうたらになった今も、見捨てず愛してくれているんだろう?
良いヨメじゃないか。今からでも帰って、誠心誠意謝っておやりよ。
明日から頑張って働きます、って。ドラゴンだって涙流すよ、そう言われたら。
愛してるとも言っておやり。女は好きな男から、その言葉が一番聞きたいんだから。
ほら、最後の一杯だよ。それ飲んだら、金置いて、さっさと帰るんだね。
ふぅ。また常連を一人失くしちまったかもしれないね。
やだよ、せっかく新しい包丁買いたかったのに。当分先になりそうだね。
おっと、デビルバグ。ほらほら、美味しいもんはここにはないよ。どっかいきな。
ちょっとあんたー。デビジェット切れてるよー。買ってきといてくれよ。
それと、クリブドウと、プッシーアワビと、ディックダイコンも。
あんたー、聞いてるー? はいはい、聞こえてるね。よかったよ。
お嬢ちゃん達、まだ食べたいもんは見つからないかい?
脂っこいものが多いからね。酒場だからさ、勘弁しておくれよ。
ミニチャーハンなんかどうだい? けっこう自信作だよ。食うかい?
はい、ミニチャーハン1つ。そっちのお嬢ちゃんも? はいはい。2つね。
えーと、チャーハンの素は……あったあった。ほい、ほい、ほいっと。
この足場もバランス悪くなってきたねぇ。包丁より先かね、こりゃ。
おっと。ほい、ほいっ。なかなかのもんだろ? これでも店長さ。
はい、できたよ。ミニチャーハン2つ。
熱いうちにお食べ。ほっとくとベトベトになっちまうからね。
…どうだい? 美味いかい? 美味い? そうかい、そうかい。そりゃよかった。
人間のお嬢ちゃんの方のは、魔界の食材使ってないから安心していいよ。
おばちゃん、こう見えても気が利くんだ。見習ってもいいよ、お嬢ちゃん。
なんてね。あっはっは。こんな寂びれた店の店長になんてなるもんじゃないよ。
おや、なんか表
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