第三記 -魔女-

…朝だ。今日もトーストと目玉焼きがおいしい。
新たに加わったホットミルクも、今まで飲んだ中でイチバン。
何より色々育ちそうな気がする。おかわり。

そんな朝食を済ませ、外に出る。今日も森は平和そのもの。
ストレッチしつつ、屋外生活希望なももちゃんの方を見ると、まだ朝ご飯中だった。
でもこっちに気付いて、手を振ってくれた。お返しする。かわいい。

このまま、ももちゃんとほのぼのとした生活も良いのだけれど…それはできない。
状況はあんまり進展していないからである。間違えた。ほとんど。
今だに仕事のしの字もこなせていないからだ。新発見ゼロ。
更に言えば、ホルスタウロスはその生態がほぼ解明されている魔物。
購入金も考えれば、むしろ後退かもしれない。お金がもうない。
今ある1週間分の食料がなくなれば、ももちゃんミルクのみの生活になる。

とは言うものの…ももちゃんが来て、早3日。
練習も、初日からこれなんだけど…最初は考えてやってみようとしてるのに、
最後は我慢できなくなって、思うがままにしちゃう…と、成果としては低め。
…我慢すればいいんだけれど。我慢すればいいんだけれど、それが一番難しい。
こまった。

………やっぱり、アルバイト?
町に行けば、ちょっとした仕事の募集ならいっぱいある。
服の修繕を手伝ったり、料理の配膳だったり、野の花をたくさん摘んできたり。
でも、そもそも教団の仕事をさぼっていたら、使者が怒りに来るかもしれない。
アルバイトする時間もない。仕事は行き詰まり。でもお金はない。
ちなみにももちゃんのミルクも飲む分しか出なくて、売る余裕もない。
本当に困った。

「あれ。あれ〜?」

…間の抜けた声。ももちゃんじゃない。
声のする方を見ると、獣道のところに魔術師の格好をした女の子が立っている。
赤系統の服に、逆プリンカラーヘアー。持主は小柄ながらも、その背丈と同じ大きさの杖。
寝ぼけ眼でも分かる。魔物だ。

「おねえちゃん、こんなところに住んでるの?」

杖をゆらゆら、帽子の下に笑みを浮かべて魔女が来る。
私の2、3歩前で歩みを止め、小さく会釈。そして私の後ろを覗き込む。
私と、ももちゃんとを交互に見比べて、とても不思議そうな顔。

「…マモノ、じゃないよね? 牧場でもなさそう」

「でも、マモノと一緒の生活」

「オトコのヒトでもないし…う〜ん?」

靴の先をトントンと鳴らし、魔女は考える。結び付けられた鈴がリンリン。
悩みが移れば、踵をトントン。時折杖もカンカン。柄先の骨はカラカラ。

「あ、でもおねえちゃん、すこしオンナのヒトが好きってキモチが見える♪」

どき、と胸が鳴る。小さな恐怖。

「おねえちゃんってどんなヒト? 『うー』に教えてくれる?」

……………

………



魔女。
少女の姿をし、様々な魔術を操る魔物。でも実年齢は分からない。
バフォメットを長に、男性へ『幼い少女の背徳と魅力』を植え付けるのが目的。
『法は破りたくなるもの』と誰かが言っていたけれど、それと同じ考えかもしれない。
一部は人里に紛れて生活していて、私の村でも魔女と噂されているコがいた。

「ふ〜ん、おねえちゃん、ケンキューシャなんだっ」

興味津々に私の話を聞く魔女…うーちゃんは、見た目相応の女の子に見えた。
最初、どう対応しようか迷ったけれど…悩んだ末、全部話すことにした。

理由は3つ。
1つめは、魔女が女性を襲うことは少ないということ。噂の範囲でだけれど。
2つめは、魔女として誘われることはないということ。最初に断っておいた。
3つめは、現状を相談できる知恵者が欲しかったこと。魔女は頭良い…ハズ。
…正直、全部綱渡り感は否めない。それくらい困ってる。

「すご〜い、ぜーんぶ気になるーっ♪」

きゃっきゃと嬉しそうなうーちゃん。本当に無邪気に見える。

「楽しそうだから、うー、いいよ♪ おねえちゃんにキョーリョクしてあげるっ!」

「…でも、おねえちゃんがうーにキョーリョクしてくれたら…ね
#9829;」

…一転。
うーちゃんの目が、サキュバスと同じになる。魔物の目。
身体の話をしたときにも、その目になっていたのは気付いていた。
協力というのは、私の身体を調べる類のことだと思う。
でも、構わない。もちろん、現状を変えたいということもあるけれど。
この身体のこと…、どうして、私だけがこんな身体なのかも知りたい。
今は、少ししか、恐くない。

席を立ち、テーブルをぐるりと回り込んで、私の横に立つ魔女。
椅子ごと身体をそちらに向け、向かい合う。誰かを見下ろすのは久々かもしれない。

「それじゃあ、みーせーてっ♪」

…抵抗は、やっぱりある。でもそれは、この魔物が最も好むもの。
なるべく相手を見ないようにして、何も考えないように、無
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