第三十四記 -アマゾネス-

「…男、だと?」

褐色肌の女性が、訝しげに呟く。

カーテンの余り生地を巻いただけのような、薄い身衣。
地肌には、全身に渡って幾何学的な矢印型の紋様。
もじゃもじゃの長髪に、異様に長い横毛。そこから飛び出た尖った耳。
腰からは蛇腹の尻尾。そして手に携えるは、私の背ほどもある大きな剣。

森の戦士、アマゾネス。
さっきシビさんが教えてくれた。

「………」

鋭い目つきで、じぃっと見つめられる。

…恐い。かなり恐い。守衛長さんより恐い。
にらめっこしたら、笑うんじゃなくて泣いちゃって負けそう。
シビさんと比べて色々正反対な印象があるのも、そう思う理由かもしれない。
でも、私のことを町まで送り届けてくれるらしいから、本当は良い人なのかも…。

「…騙すにしては、それを隠そうとする気が感じられない外見だな」

「お願いする身で、騙すなんて無礼なことは致しません」

そう言いながら、頭を撫でてくれるシビさん。
張っている気持ちが、少しだけ和らいでいく…。

「………」

……しばしの沈黙……。

と、急に剣を持った手を離し、砂浜にそれを倒すアマゾネス。

「証拠を見せてもらう」

そう言い……ただでさえ薄い衣服を…全部脱ぎ捨てた。

当然驚く、私とシビさん。

「な、何をっ…?」

「私は男だけを裸で晒すような、恥知らずではない」

「その子が衣服を脱ぎ、証拠を見せる間…私も恥を受け入れよう」

……なんだろう。よく分からないけれど……すごく漢らしい。

…シビさんを見ると、同じタイミングで、困惑した顔をこちらに向けた。
きっと私も、同じ顔をしてると思う。こんなこと、きっと最初で最後の経験。

「………ソラ…。恥ずかしいでしょうけれど…」

……頷く。

…裸で仁王立ちしたアマゾネスの前で……スカートをめくり上げ、
その中に手を伸ばし………ゆっくり……下着を下ろしていく…。

下に移る、鋭い視線。

「…成程。確かに、男の部分もある…」

そう呟いて……予想とは裏腹にやわらかい手が、下着を持った私の手に触れる。
一瞬、びくってしちゃったけれど…それを気にも留めず、掴んだ手を少し上げるアマゾネス。

「恥をかかせた。すまない」

するりと下着が戻り…そっと手が離れる。
先程までと同じ、強い語気の中に感じる…申し訳無さ。

…やっぱり、勘違いだった。この人、すごく良い人だ。

「人魚よ、約束だ」

「この子を男と思い、町まで送り届けることを誓おう」

布を身体に巻きつけながら、アマゾネスが約束を交わす。
その言葉に、ほっ…と胸を撫で下ろすシビさん。

「私の名はネス。お前の名を尋ねたい」

剣を手に取り、立ち姿が初めて見た時のそれに戻る。
でも…もう、恐いだなんて気持ち、これっぽっちも湧いてこない。

…笑顔で、答える。

「ソラ…か。分かった。よろしく頼む、ソラ」

こちらこそ、よろしくね。

……………

………



…そして、二人旅が始まって…5分も過ぎない頃。

「…ソラ」

話し掛けてきてくれたネスさん。
それだけで、なんか嬉しい。

「いつの間にかで、気が付かなかったが…」

「手を繋いでいるな」

頷く。

「大胆だな、お前は。初対面の私に」

…嫌だったのかな…?

「仲間への自慢話が増えた」

喜んでるみたい。よかった。

「…ソラ。お前はアマゾネスがどんな種族か、知っているか?」

首を横に振る。

「一言で表すならば、お前達人間と、男女の立場が逆転しているのがアマゾネスだ」

「女は家族や仲間を守るために戦い、男は家を守り女を癒す存在だ」

「女は老いも若きも戦士だが、一人前の戦士…『成人』を認められるには、条件がある」

「それは、番いを手に入れることだ」

「いくら剣の腕が良かろうと、男を持たぬアマゾネスは立派とは言えない」

「だから私も今、『成人』になるために番いを探す、成人の儀を行っている」

「本来は、ある年齢に達したアマゾネス達がまとまって、男狩りを行なうのだが…」

「私の代だけ、私しかいないくてな。こうして旅をすることになった」

「自由気侭ではあるが…話し相手がいないのが、なんともな…」

…意外と、寂しがり屋さん…?

「………ん…」

ふと、何かに気付いたような声。

…前を見ると……道の先から、こちらに向かって歩いてくる…2つの影。
目を凝らしてみると…一人は鎧にマントを羽織った、騎士風の女性。
もう一人は、右頬に大きな切り傷を付けて、斧を背負った、戦士風の男性。
夫婦か、恋人か、友達かは分からないけれど…きっと私達と同じ、旅人。

「………」

……向こうも、こちらに気付く…。
………あと数歩で…すれ違う距離……。

「…ソラ」

不意に…ぐいっ、と…私の肩を抱き、引き寄せるネスさ
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