「…男、だと?」
褐色肌の女性が、訝しげに呟く。
カーテンの余り生地を巻いただけのような、薄い身衣。
地肌には、全身に渡って幾何学的な矢印型の紋様。
もじゃもじゃの長髪に、異様に長い横毛。そこから飛び出た尖った耳。
腰からは蛇腹の尻尾。そして手に携えるは、私の背ほどもある大きな剣。
森の戦士、アマゾネス。
さっきシビさんが教えてくれた。
「………」
鋭い目つきで、じぃっと見つめられる。
…恐い。かなり恐い。守衛長さんより恐い。
にらめっこしたら、笑うんじゃなくて泣いちゃって負けそう。
シビさんと比べて色々正反対な印象があるのも、そう思う理由かもしれない。
でも、私のことを町まで送り届けてくれるらしいから、本当は良い人なのかも…。
「…騙すにしては、それを隠そうとする気が感じられない外見だな」
「お願いする身で、騙すなんて無礼なことは致しません」
そう言いながら、頭を撫でてくれるシビさん。
張っている気持ちが、少しだけ和らいでいく…。
「………」
……しばしの沈黙……。
と、急に剣を持った手を離し、砂浜にそれを倒すアマゾネス。
「証拠を見せてもらう」
そう言い……ただでさえ薄い衣服を…全部脱ぎ捨てた。
当然驚く、私とシビさん。
「な、何をっ…?」
「私は男だけを裸で晒すような、恥知らずではない」
「その子が衣服を脱ぎ、証拠を見せる間…私も恥を受け入れよう」
……なんだろう。よく分からないけれど……すごく漢らしい。
…シビさんを見ると、同じタイミングで、困惑した顔をこちらに向けた。
きっと私も、同じ顔をしてると思う。こんなこと、きっと最初で最後の経験。
「………ソラ…。恥ずかしいでしょうけれど…」
……頷く。
…裸で仁王立ちしたアマゾネスの前で……スカートをめくり上げ、
その中に手を伸ばし………ゆっくり……下着を下ろしていく…。
下に移る、鋭い視線。
「…成程。確かに、男の部分もある…」
そう呟いて……予想とは裏腹にやわらかい手が、下着を持った私の手に触れる。
一瞬、びくってしちゃったけれど…それを気にも留めず、掴んだ手を少し上げるアマゾネス。
「恥をかかせた。すまない」
するりと下着が戻り…そっと手が離れる。
先程までと同じ、強い語気の中に感じる…申し訳無さ。
…やっぱり、勘違いだった。この人、すごく良い人だ。
「人魚よ、約束だ」
「この子を男と思い、町まで送り届けることを誓おう」
布を身体に巻きつけながら、アマゾネスが約束を交わす。
その言葉に、ほっ…と胸を撫で下ろすシビさん。
「私の名はネス。お前の名を尋ねたい」
剣を手に取り、立ち姿が初めて見た時のそれに戻る。
でも…もう、恐いだなんて気持ち、これっぽっちも湧いてこない。
…笑顔で、答える。
「ソラ…か。分かった。よろしく頼む、ソラ」
こちらこそ、よろしくね。
……………
………
…
…そして、二人旅が始まって…5分も過ぎない頃。
「…ソラ」
話し掛けてきてくれたネスさん。
それだけで、なんか嬉しい。
「いつの間にかで、気が付かなかったが…」
「手を繋いでいるな」
頷く。
「大胆だな、お前は。初対面の私に」
…嫌だったのかな…?
「仲間への自慢話が増えた」
喜んでるみたい。よかった。
「…ソラ。お前はアマゾネスがどんな種族か、知っているか?」
首を横に振る。
「一言で表すならば、お前達人間と、男女の立場が逆転しているのがアマゾネスだ」
「女は家族や仲間を守るために戦い、男は家を守り女を癒す存在だ」
「女は老いも若きも戦士だが、一人前の戦士…『成人』を認められるには、条件がある」
「それは、番いを手に入れることだ」
「いくら剣の腕が良かろうと、男を持たぬアマゾネスは立派とは言えない」
「だから私も今、『成人』になるために番いを探す、成人の儀を行っている」
「本来は、ある年齢に達したアマゾネス達がまとまって、男狩りを行なうのだが…」
「私の代だけ、私しかいないくてな。こうして旅をすることになった」
「自由気侭ではあるが…話し相手がいないのが、なんともな…」
…意外と、寂しがり屋さん…?
「………ん…」
ふと、何かに気付いたような声。
…前を見ると……道の先から、こちらに向かって歩いてくる…2つの影。
目を凝らしてみると…一人は鎧にマントを羽織った、騎士風の女性。
もう一人は、右頬に大きな切り傷を付けて、斧を背負った、戦士風の男性。
夫婦か、恋人か、友達かは分からないけれど…きっと私達と同じ、旅人。
「………」
……向こうも、こちらに気付く…。
………あと数歩で…すれ違う距離……。
「…ソラ」
不意に…ぐいっ、と…私の肩を抱き、引き寄せるネスさ
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