第三十一記 -マーメイド-

「…御気分はいかがですか?」

………?

…どこだろう……ここ…。
お魚が空を泳いでる…。太陽は見えない。雲もない。
ゆらゆらと揺らめいて見える何かが、空にあるだけ…。

……私は……。

「メイ、メロ。この子が目を覚ましましたよ」

「まぁ。無事で良かったわ」

「男の子だったら、もっと良かったのだけれどね♪」

…横になっているらしい身体を…首だけ動かし、声のする方を見る。

………大きい…お魚?人間?が、3人。
一人は、白装束に身を包んで…ヒレの数も、体格も一番大きい、水色のお魚。
一人は、腰よりも長く伸びた髪と…頭に付いた…星?が特徴的な、青色のお魚。
一人は、ハートのペイントと泣きぼくろ、それと羽根帽子が目立つ、桃色のお魚。

そして3人とも、人間の上半身とお魚の下半身をした…奇妙な姿。

「そう思うのなら、いつまでもカリュブディスのおこぼれを狙うのはやめなさい」

水色のお魚が、桃色のお魚を叱っている…のかな?

よく分からない。
なんで水色のお魚は、桃色のお魚を叱っているんだろう?
なんで3人とも、腰から下が魚みたいなんだろう?
なんで空が、こんな…水みたいに、ゆらゆらしているんだろう?

なんで……私は、自分の部屋じゃなく…こんなところにいるんだろう…?

「どうして? シビ姉様。効率的じゃない♪」

…お父さん……お母さんは…?

頭の中に疑問が渦巻き……まずは動こうと思い立って、
両腕に力を込め…上半身を、ゆっくりと起こしていく…。

「あっ…、いけません」

青色のお魚に、上がる両肩を制される。

…わぁ……。
なんてキレイな人なんだろう…。
こんなにキレイな人、今まで見たことない。

人間って…ここまで綺麗になれるんだ…。

「もうしばらく、横になっていてください…」

背中とおなかに手を添えられ…また、ゆっくりと横にされる…。
それはなんだか…寝かし付けてもらっている、子供みたいだった。

「ここは私達の家です。何も危害はありません」

…家…?

……天井も…壁も…椅子も…何もない…。
あるのは…変な形をした石?植物?がたくさんと…貝殻のベッドが、2つ。
…よくよく見れば、今自分が寝ているこれも同じもの。貝殻のベッドが、3つ。
とても、家という表現からは掛け離れている場所…。

「メイ。その子のお世話を頼んでも構いませんか?」

「はい、シビ姉様」

端正な顔を後ろに向け、答える…メイさん。

メイさん、声も透き通ってて、キレイ…。
歌を歌ったら、とっても上手なんだろうな…。

「どこへ行くの? シビ姉様♪」

「この子の御友達や御家族も、溺れてしまっているのかもしれません」

尾びれを振り、ふわり…と宙に浮かぶ、水色のお魚…シビさん。
まるで、ここが水の中かのような動き。

どんな原理なんだろう…。魔術か何かかな?

「メロも、メイと一緒に、お世話を頼みましたよ」

「はーい♪」

翻り…瞬く間に遠く…見えなくなっていく姿。
シビさんが飛んだ後には、ぷくぷくと…小さな気泡だけが残っている…。

「…さて、と。メイ姉様ーっ♪」

それを見送っていた桃色のお魚…メロさんが、そそくさとメイさんに近寄る。

「なんですか? メロ」

「一緒に、カリュブディスのところへ行こっ♪」

「いけません。この子のお世話ができなくなります」

「一緒に連れていけばいいじゃない♪」

制止しようとするメイさんを横目に、ひょいっ、と私の身体が抱え上げられた。

「あなたも、行きたいでしょ?♪」

ウィンク。どきっ、とする。

「メロ。シビ姉様は、あなたを信頼して任せていったのですよ?」

「でもー、男探し、したいし♪」

「メロは、シビ姉様の気持ちが分からない悪い子ではありません」

「…ま、いっか。じゃあ、今日はあなたに付きっきりでいてあげる♪」

説得され…私をベッドに戻しつつ、隣に寝そべるメロさん。

…メロさんも、メイさんとは姉妹みたいだけれど…負けず劣らず、美人…。
落ち着いた雰囲気があるメイさんは、知的美人って感じだけれど…
どことなく子供っぽいメロさんは、小悪魔的美人って感じがする…。
それに…なんだろう、良い匂いがする…。香水かな…?

「…ねぇ、あなたはどんな遊びが好き?♪」

顔を寄せて…内緒話のように尋ねられる。

「シビ姉様も、メイ姉様も、遊んでくれるけれど…あまり積極的じゃないの♪」

肩口にメロさんの指が掛かり…親指が、するりと服の中に入る。

「…メロ」

「メイ姉様も、一緒に遊ぼ♪」

楽しそうなメロさんに対し、複雑そうなメイさんの表情。

遊ぶって…どういう意味でのことなんだろう?
なんでメイさんは、こんな困ったような顔をしているんだろう…?

「…この子の歳では、恐らく、まだ知らない
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