「…これが……オリハルコン…」
青い手の上に転がる、小さな石を食い入る様に見つめる3つの目。
「…ソラちん、これ、なんぼ?」
………言葉の意味に気付き、慌てて、売る気は無いことを伝える。
「ん〜…50万! どや?」
…首を横に振ると…開いた掌に添えられる、立てた人差し指。
諦めない商売人。それがポコさん。
「とは言うても…ぷーちん、こんな小石から何か作れるん?」
「………」
青く透き通る石を、じっと見つめ……ぼそっ、と呟き声。
「…指輪なら…」
「おぉ、それええやん!」
まるで自分の物のように話を進めるポコさん。
その手はすごい勢いでソロバンの珠を弾いている。
あれは無意識なのかもしれない。
…と、今度は何かを思い出したように、慌てて懐中時計を取り出し見る。
「あかん! もう出ぇへんと次のお客ンところに間に合わへん!」
「とゆーわけで、ぷーちん、ソラちん、ほなまたっ!」
しゅっ、と片手をあげて、厚底下駄をかっこんかっこん、爽快に去っていく。
…嵐が去り…改めて石を見直す、私とぷーさん。
「………」
……静かだけれど…ぷーさんのその大きな目は、光り輝いているようにも見えた。
きっと、この石はサイクロプスにとって特別なものなんだと…それを見て、感じる。
「…ありがとう」
私の手を取り…その平に、そっと石を返すぷーさん。
…石を見つめ……考える。
今日ここに来たのは、単に…石を見せてあげたいというのと、
ぷーさんと他愛のないお話をしたい、という想いから。
でも今、もうひとつの想いが生まれている。
この石を、どうしようか…という、想い。
「………ソラ」
と…隣に座ったぷーさんが、顔を近付ける。
「…良い匂い」
「……香水?」
…頷く。ばれちゃった。
ほほをかきながら、ちょっと背伸び…、とお返事。
「………」
顔を離し…机に手を組み置いて、一言。
「…似合ってる」
小さな声だけれど、まっすぐな意見。
…うまい返事が見つからなくて、照れ隠しで誤魔化した。
「…好きな人の、ため?」
頷く。
―もっと好きになってほしいから…。
「…うん」
―…ぷーさんは、好きな人…いる?
「………」
―……ヒミツ?
「…ううん」
「…いる」
―どんな人?
「……秘密…」
―気になるなぁ。
「………」
―…私の知ってる人?
「…ううん」
―じゃあ、さっぱり分からないや…。
「………」
―うーん…。
「………」
―………。
「………」
―………。
「………ソラ…」
―んっ?
「……内緒…」
―内緒…?
「…うん…」
―……教えてくれるの?
「…うん…」
―約束! 内緒にするっ!
「………」
―どんな人? ここに来たお客さん?
「…うん」
「…騎士の、人」
―王宮の騎士さん?
「…うん」
「…長髪の…青い鎧を着た人」
―ふんふん。
「……書く物、持ってる…?」
―書く物? んと……手帳とペンで大丈夫?
「…うん」
「………こんな…鋭角の多い鎧で…」
「……身体は……がっしり…」
「……頬に…傷……」
―………。
「……こんな人…」
―……えっと……この腰?にあるのは…剣?
「…うん」
―ぷーさんが作った剣?
「…うん」
「…とても…大事に使ってくれてる…」
―いつ見ても、傷一つ付いてない…ってくらい?
「…ううん」
「…その逆…」
「…いつも、ボロボロ」
「…研いでほしい、って…いつも持ってくる」
―…ね、ぷーさん。
「…ん…」
―それって…いっぱい使ってもらえて、嬉しかったから…。
―だから、その………好き、って思うようになったの?
「……うん…」
―そうなんだ〜。
「…胸の中が…」
「…炉に…くべられたみたいになる…」
―うん、うんっ。わかる。顔を見たりしちゃうと…ね?
「…うん…」
―どきっ、て、なる。
「…うん」
―この人は、ぷーさんのことをどう思ってるんだろう?
「………」
―ぷーさん、優しいし、スタイルもいいから…。
「………」
―きっと、好きなんじゃないかな。
「………」
―うん。好きって思ってる。
「………そう、かな…」
―そうだよ。私がこの人だったら、今すぐプロポーズしちゃうもんっ。
「………」
―『騎士の誓いに懸けて』…なんて、言ったりしちゃって。
「……でも…」
―?
「………」
「……ソラ」
―はいっ。
「……ソラは…」
「…私を見て……どう思う…?」
―ぷーさんを見て…?
「…うん」
―…んー……、思ったままでいいの?
「…うん」
―…優しくて…静かで…美人で…力持ちで…鍛冶が上手で…。
「………
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