第十四記 -ゴブリン-

…気付けば、ぐるりと周りを取り囲む、ゴブリンの集団。

「やい!」

「やいやい!」

「ここを通りたかったら、持ってるもん全部置いてきな!」

「置いてきな!」

「オンナみたいだから、服だけは勘弁してやる!」

「してやる!」

「さぁ、早く出すものを出しなっ!」

…10匹以上いるのに、みんな息ぴったりで喋る。
感心の声を漏らすと、ユニさんから落ち着き過ぎとたしなめられてしまった。

「あっ! こいつ、よく見たら馬じゃない!」

「ケンタウロスだ!」

「違う! ユニコーン!」

「なんでもいいよ。お前も何か置いてきな!」

「置いてきな!」

…どうしよう。
ゴブリンは力こそ強いけれど、身体も小さく、足もそんなに速くない。
性格は悪戯好きな子供と同じで、無邪気そのもの。
グリズリーやスフィンクスと同じで、女性に対してはほぼ無関心なのも特徴。
そして、うーちゃんメモによるオススメの魔物のひとり。

「ソラ様…」

目配せしてくるユニさん。
…飛び越えて逃げよう…と言いたいのかなと、なんとなく察した。
ユニさんの足なら、逃げるのは簡単だと思う。私を降ろせば、もっと。

「逃がさないぞー」

「自分から置いてかないなら、ひんむいちゃうぞー」

「うっへっへ〜」

じりじりと…少しずつ、取り囲む円を小さくしていくゴブリン達。
それを見て、ユニさんは私の腕を掴み、今にも跳ぼうとする体勢。

…その腕を掴み返し、すとん、と地面に降りた。

「!? そ、ソラ様…!?」

二、三歩、進みたい方向を塞いでいるゴブリンへ近付く。

「お。置いてく気になったかーっ!」

ちがうよ、と答える。…ざわめくゴブリン達。

「やっぱり逃げる気かー!」

「それともやる気かー!」

「負けるもんかー!」

「やっちゃえーっ!」

「ソラ様っ!!」

全員が、一歩、踏み出そうとする刹那…リュックを逆さまに、中のものを撒き落とす。

…一歩。……また、ざわめくゴブリン達。

「どういうこと?」

「置いてくってこと?」

「でも、さっき違うって言ってたよ?」

「なんだろう?」

「なんだろうね?」

落ちた荷物の中から…ひとつ、拾い上げ…目の前のゴブリンに、それを渡す。

「…? なにこれ? くれるの?」

笑顔で、頷く。
きょとん…とした顔のまま、受け取るゴブリン。

「なになに?」

「なにもらったの?」

「飲み物?」

「ミルクかな?」

「おねーさん、これなにー?」

わらわらと、皆が集まってくる。
…ユニさんも近付いてきて、後ろから覗き込む。

「…それ…ハチミツミルク、ですか…?」

「ハチミツミルク?」

「おいしそう!」

「ちょうだい!」

「やー! あたいがもらったんだもん!」

「あたしもほしい!」

「わたしもーっ!」

ひっつきめっつき、取り合いになった場をなだめつつ、
ユニさんに、背中に積んであるミルクを降ろしてもらうよう頼んだ。

「えっ…。ですが、これはジパングまでの大切な…」

手で、大丈夫、と返し…ミルクを渡したコに、向き直る。

「ねぇ、どうしてくれたの?」

心を、表情に映して。

―お話したいから。

……………

………



「まもののけんきゅう…」

もうほとんど底が見えるくらい飲んだ瓶から口を離し、ゴブリンがオウム返し。

…大分前に、うーちゃんの協力によって媚薬効果も取り除かれたので、
このハチミツミルクは、子供から大人まで安心して飲めるものになっている。
ただ、こっちのハチミツミルクだと、ももちゃんのおちちがたくさん出るような
効果はなくなっちゃうので、一応元の方も別にとっておいてある。
今や我が家では欠かせない飲み物のひとつ。それがハチミツミルク。

…難点は、材料である、グリズリーから貰ったアルラウネの蜜が残り少ないこと。

「それって、あたいは何をすればいいの?」

……言われて、悩む。
ゴブリンも、人間の社会にだいぶ溶け込んでいる魔物のひとり。
そのため解明されていない部分は少なく、研究が煮詰まり気味。
ホルスタウロスほどではないにしても…ぱっとは、出てこない。

………考え方を変えて、何か、人間にも秘密にしていることがないか、尋ねる。

「ん〜…」

飲むわけでもなく、瓶に口を付けながら…宙を見るゴブリン。

「…あたいだけのヒミツでもいいの?」

…少し悩んで……頷く。
瓶から口を離し、まだハチミツミルクを飲み終わっていない
仲間達をきょろきょろ見て…そっと、私に耳打ちした。

「あたいね…、オリハルコン持ってるのっ」

…オリハルコン。なんだろう。
それって何?と耳打ち返し。

「んーと…おかーちゃんは、世界で一番カタい石って言ってた」

「サイクロプスしかカコー?できない石なんだ
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