…気付けば、ぐるりと周りを取り囲む、ゴブリンの集団。
「やい!」
「やいやい!」
「ここを通りたかったら、持ってるもん全部置いてきな!」
「置いてきな!」
「オンナみたいだから、服だけは勘弁してやる!」
「してやる!」
「さぁ、早く出すものを出しなっ!」
…10匹以上いるのに、みんな息ぴったりで喋る。
感心の声を漏らすと、ユニさんから落ち着き過ぎとたしなめられてしまった。
「あっ! こいつ、よく見たら馬じゃない!」
「ケンタウロスだ!」
「違う! ユニコーン!」
「なんでもいいよ。お前も何か置いてきな!」
「置いてきな!」
…どうしよう。
ゴブリンは力こそ強いけれど、身体も小さく、足もそんなに速くない。
性格は悪戯好きな子供と同じで、無邪気そのもの。
グリズリーやスフィンクスと同じで、女性に対してはほぼ無関心なのも特徴。
そして、うーちゃんメモによるオススメの魔物のひとり。
「ソラ様…」
目配せしてくるユニさん。
…飛び越えて逃げよう…と言いたいのかなと、なんとなく察した。
ユニさんの足なら、逃げるのは簡単だと思う。私を降ろせば、もっと。
「逃がさないぞー」
「自分から置いてかないなら、ひんむいちゃうぞー」
「うっへっへ〜」
じりじりと…少しずつ、取り囲む円を小さくしていくゴブリン達。
それを見て、ユニさんは私の腕を掴み、今にも跳ぼうとする体勢。
…その腕を掴み返し、すとん、と地面に降りた。
「!? そ、ソラ様…!?」
二、三歩、進みたい方向を塞いでいるゴブリンへ近付く。
「お。置いてく気になったかーっ!」
ちがうよ、と答える。…ざわめくゴブリン達。
「やっぱり逃げる気かー!」
「それともやる気かー!」
「負けるもんかー!」
「やっちゃえーっ!」
「ソラ様っ!!」
全員が、一歩、踏み出そうとする刹那…リュックを逆さまに、中のものを撒き落とす。
…一歩。……また、ざわめくゴブリン達。
「どういうこと?」
「置いてくってこと?」
「でも、さっき違うって言ってたよ?」
「なんだろう?」
「なんだろうね?」
落ちた荷物の中から…ひとつ、拾い上げ…目の前のゴブリンに、それを渡す。
「…? なにこれ? くれるの?」
笑顔で、頷く。
きょとん…とした顔のまま、受け取るゴブリン。
「なになに?」
「なにもらったの?」
「飲み物?」
「ミルクかな?」
「おねーさん、これなにー?」
わらわらと、皆が集まってくる。
…ユニさんも近付いてきて、後ろから覗き込む。
「…それ…ハチミツミルク、ですか…?」
「ハチミツミルク?」
「おいしそう!」
「ちょうだい!」
「やー! あたいがもらったんだもん!」
「あたしもほしい!」
「わたしもーっ!」
ひっつきめっつき、取り合いになった場をなだめつつ、
ユニさんに、背中に積んであるミルクを降ろしてもらうよう頼んだ。
「えっ…。ですが、これはジパングまでの大切な…」
手で、大丈夫、と返し…ミルクを渡したコに、向き直る。
「ねぇ、どうしてくれたの?」
心を、表情に映して。
―お話したいから。
……………
………
…
「まもののけんきゅう…」
もうほとんど底が見えるくらい飲んだ瓶から口を離し、ゴブリンがオウム返し。
…大分前に、うーちゃんの協力によって媚薬効果も取り除かれたので、
このハチミツミルクは、子供から大人まで安心して飲めるものになっている。
ただ、こっちのハチミツミルクだと、ももちゃんのおちちがたくさん出るような
効果はなくなっちゃうので、一応元の方も別にとっておいてある。
今や我が家では欠かせない飲み物のひとつ。それがハチミツミルク。
…難点は、材料である、グリズリーから貰ったアルラウネの蜜が残り少ないこと。
「それって、あたいは何をすればいいの?」
……言われて、悩む。
ゴブリンも、人間の社会にだいぶ溶け込んでいる魔物のひとり。
そのため解明されていない部分は少なく、研究が煮詰まり気味。
ホルスタウロスほどではないにしても…ぱっとは、出てこない。
………考え方を変えて、何か、人間にも秘密にしていることがないか、尋ねる。
「ん〜…」
飲むわけでもなく、瓶に口を付けながら…宙を見るゴブリン。
「…あたいだけのヒミツでもいいの?」
…少し悩んで……頷く。
瓶から口を離し、まだハチミツミルクを飲み終わっていない
仲間達をきょろきょろ見て…そっと、私に耳打ちした。
「あたいね…、オリハルコン持ってるのっ」
…オリハルコン。なんだろう。
それって何?と耳打ち返し。
「んーと…おかーちゃんは、世界で一番カタい石って言ってた」
「サイクロプスしかカコー?できない石なんだ
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