突然ですが、皆さんは『スキン』というものを御存じでしょうか?
コンドームとも呼ばれる、家族計画に欠かせないもの。所謂、避妊具です。
今、巷では、このスキンが話題になっていました。
スキンが話題になる…というのも、何か妙ちくりんな話ですが、
そもそも、多くの人は、まずスキンの存在に対して首を傾げることでしょう。
皆さんもご存知の通り、教団は淫らな行為を禁じています。
子作り自体は尊ばれますが、しかし、それ以外を目的とした性交、
特に、性的快楽を得るために身体を交えることは、重罪とされています。
故に、スキンを用いるのは、法に縛られぬ一部の特権階級の人達や、
あるいは、精を魔法の触媒として用いる魔法使い…その極少数に限られていました。
では、なぜそのスキンが、こうして噂になっているのでしょう。
それは、ある商会が開発した、大変画期的なスキンの効果にありました。
そのスキンの名を、『無精のスキン』といいます。
ぶしょうのスキン。むせいのスキン。どちらの呼称でも間違っていません。
前者は、商会が定めた正式名称。後者は、冒険者達の間で使われている俗称です。
僕もその例に漏れず、この話題のスキンを、後者の名で呼んでいます。
ええ、そうです。この無精のスキン、冒険者に大人気の商品なのです。
当然、僕も持っています。一家に一台ならぬ、一人に一個、無精のスキン。
先にも述べた通り、この無精のスキンは、ただのスキンではありません。
魔法により、とある効果が秘められていて、それが人気の秘訣なのです。
気になるその効果とは、いったい何なのか。
それはずばり、『無精のスキンを着けている限り、射精しなくなる』のです。
これを聞いた人は、再び首を傾げることでしょう。
スキンを付けているのだから、射精したって何の問題ないだろう、と。
しかし、冒険者、あるいは教団の兵士ならば、
すぐにその素晴らしさが理解できるはずです。
また、このスキンのもう一つの効果を聞けば、
尚更に感動し、諸手を上げて喜ぶことでしょう。
無精のスキンが持つ、もう一つの効果。
それは、『着用者以外に、無精のスキンを外すことは出来ない』というものです。
ここまで聞けば、一般の人にも、その効果の意図が分かることでしょう。
そう、皆さんの御想像の通り。
これは、対魔物用に作られた、鉄壁のスキンなのです。
魔物。それはこの世界に蔓延る、僕達人間の仇敵です。
彼女達は、総じて人間の女性に近い姿を持っており、かつ淫らな恰好をしています。
そして何より、彼女達は人間を襲い、
その精を啜って力を増すという恐ろしい性質を持っています。
おまけに、魔物は人間の精を得ることで子を成すこともでき、
その数を増やすことさえできるのです。
だから、僕達男性は、魔物に敗北することがあっても、
万が一にも精だけは奪われてはいけないのです。
そして、それを最大限にサポートしてくれるのが、この無精のスキン。
これさえ着けていれば、例え裸にひん剥かれても、急所だけはガッチリと守られます。
彼女達が、どれほど鋭い爪を持ち、解呪の魔法を唱えても、徒労に終わることでしょう。
主神様の聖水に浸して作られたというこのスキンには、強い破魔の力が宿っています。
魔物はそれに触れることは出来ても、傷つけることだけは、如何にしても叶いません。
どうです、すごいアイテムでしょう。
この夢のスキンは、教団の後押しも受け、あっという間に世界中に広がりました。
精が無ければ、魔物は数を増やすこともままならず、力を増すこともありません。
魔物にも寿命がある以上、このまま拮抗した力関係が続けば、
いずれ彼女達は数を減らしていき、絶滅の道を辿ることになります。
刃も火薬も用いぬ、無類の兵器にして無敵の鎧。噂になるのも当然というものです。
しかし、その優秀な効果の一方で、問題が一つありました。
それは、無精のスキンが、時間による劣化に弱い…という点です。
不精のスキンは、残念ながら、一度買えばそれっきりという代物ではありません。
使わずにいても、三日程度で効果が薄れ始め、
一週間も経てば普通のスキンと同じになります。
そのため、僕達は定期的に無精のスキンを買い直す必要がありました。
値段こそ、お手頃ではありますが。
一部では、金儲け主義の商会が、
わざとそのような欠点を持たせたのでは…との噂も立っていますが、
真偽は不明であり、その効果自体は確かなものである以上、
僕達は都度買い直す以外にありませんでした。
「毎度あり! 今後もどうぞ、たんたん狸商会を御贔屓に〜♪」
さて、前置きが長くなってしまいましたが。
僕は今、ちょうどその無精のスキンを新たに買い直し、お店から出たところでした。
外に出れば、そこは芸術の街シロビネガが
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