第十三記 -ユニコーン-

…見慣れた、天井。

筋肉痛でガッチガチな身体は、肘と膝から先を動かすのがやっと。
首も45度くらいまでしか回せないほど痛い。まるでお人形。
こんなにひどい筋肉痛になったのは、当然生まれて初めてで。
天井板の節目を見ながら…筋肉痛って、こんなに痛くなるんだ…って、考えた。
………あと…お尻も。

…ピラミッドに行って、あーちゃん達と会ってから…まる2日。
ずーっと…それこそ寝食もそこそこ、ほとんど…あんなことばっかりだった。
スーフィちゃんがことあるごとにしようとして、それを止めるあーちゃんも、
最終的には加わっちゃって…最後の頃には、雀の涙ほどしか出なかったくらい…。
その中でも一番ひどかったのは、真珠のスカラベ…って名前の、
丸い虫を象った宝石が5個くらい繋がった棒を…あそこに、入れられたこと。
さすがに痛くて、泣いちゃったら…あのスーフィちゃんも反省してくれて、
それを使うことは二度となかったけれど…まだ、かなり、トラウマ。夢に出そう。
ふたりとも、また遊びに来てって言ってくれたけれど…よく考えてから、行こうと思う。

ただ、研究については、約束通り惜しみなく協力してくれた。
どんな術が使える…とか、ファラオを筆頭とした組織の仕組み…とか。
その中で、あの遺跡にはもうひとり、守護者がいることも教えてくれた。
遺跡の東口側にある大迷宮…そこの主、ミノタウロス。
今度来た時に、遠目で見せてくれるって約束してくれた。
…なんで遠目でなのかは…教えてくれなかった。

…というわけで、成果もいっぱい、疲労もいっぱいだった砂漠の遺跡調査。
筋肉痛だけじゃなく、ずっと砂の中を歩いていたせいか、目もしぱしぱする。

でも…疲労困憊は、悪い事ばかりじゃなかった。
ももちゃんが、つきっきりであれこれ看護してくれるのだ。
ドラちゃんも、プランターを枕元に移して、いつでも私の話し相手をしてくれる。
…身体は痛いけれど………とても、幸せだなって…思った。

「ご主人様〜っ」

廊下を早足で歩く音と、私を呼ぶももちゃんお声。
なんだろう…。まだ、ご飯の時間には早い。おやつもさっき食べたばかり。
…草刈りでもして、指を切っちゃったのかな…。外の掃除をするって言ってたから…。

不安な考えを巡らせる中…がちゃりと開く、部屋の扉。

「ご主人様〜、お客様が見えていますよ〜」

…お客様? お客様…。
ポコさんが次に来るのは来月のはずだし…、他に家に来そうな知り合い…。
……あっ、そっか、うーちゃんかな? 砂漠に行っている時に来たって言ってたし。
エプロン姿のももちゃんに、うーちゃん?、と聞くと…首を横に、ふるふる。

「いいえ〜。え〜と……角が生えてて〜…4本足の綺麗な方でしたぁ♪」

…角? 4本足?
角…といえば、ぷーさんだけれど……4本足…?
たぶん、魔物だってことは分かる。でも、4本足の知り合いはいない。

………ハッ!? まさか…遺跡のふたり!? 4本足に見えなくもないし!
金の蛇の冠も、ももちゃん目には角に見えたのかもしれないし!

…2日間の出来事が、脳裏によぎり…くらっ…とする。
それに気付いたのか…心配そうな顔をするドラちゃん。

「お通ししてもいいですかぁ?」

………どうしよう。
確かに、こっちにもいつでも遊びに来て、とは言ったけれど。
特製ハチミツミルクをごちそうする、とも言ったけれど。
家族のみんなのことも紹介する、とも言ったけれど。

……………悩みに、悩んだ末………答えた。

「は〜い♪ お通ししますねぇ♪」

とてとてと、しっぽを振りながら玄関まで走っていくももちゃん。

………どうしよう。
ふたりに加えて、今度はももちゃんとドラちゃんもいる。
特にももちゃんは、最初の頃と比べてスタミナが格段に上がってきている。
ドラちゃんも、私より全然上手になってきているし…。

……指先まで動かなくなるのを覚悟しよう…。

「こちらです〜。どうぞ〜♪」

…蹄の音が、いくつも。
ももちゃんの歩く音とも違う。顔を上げ、扉の方を見る。

「御丁寧にありがとうございます。…失礼します」

「………」

ぺこり、と…頭を下げて入ってくる…ふたりの魔物。

…白い肌と、白い毛並、それに溶ける様な…ウェディングドレスのような衣装。
下半身は馬のそれで、背丈が小さいコの方は、ポニーほどの大きさ。
額には、サイクロプスのものよりも細身な螺子状の角。

純潔の乙女を体現する、神秘の魔物…ユニコーン。

「お初にお目にかかります、ソラ様。わたくしはニコ…」

「この子は、ユニと申します」

母親と思われるユニコーン…ニコさんが、背中に隠れるコに目を向ける。

「ユニ。隠れていないで、御挨拶なさい」

「………」

…ちら、と母親の影から出てきて…目が合う
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33