第十二記 -スフィンクス-

…ふかふか。

「………」

…もふもふ。

「………」

…なでなで。

「…ソラ」

振り返るあーちゃん。

「…あまり触るな」

…怒られた。しぶしぶ、しっぽを離す。

「忘れるな。私は確かに、お前と約束はした」

再び前を向き、先の見えない階段を登り始める。

「しかし、私はファラオ様に忠誠を誓った身だ。本来ならば、貴様のような外部の者を…」

…狭い階段で、肩を寄せるように、横に並ぶ。

「こうして私の部屋に案内するなど…」

肘の部分の、少しだけ色が薄い毛を、そっと握る。

「本来はありえないこと…、しかも人間の牝とあらば特に…」

にぎにぎする。

「だがしかし、約束…つまり契約の重きを知り得ているからこそ私は…」

にぎにぎ。にぎにぎ。

「………ソラ」

振り向くあーちゃん。

「先刻から、何だというのだ。何故、耳や、尾や、掌などを、そう触る」

「特に耳の触り方は何だ。わざわざ跳びながらまで触るものなのか」

「何度も言うが、私はこの遺跡に於いて高位の務めを任されている」

「その身に執拗に触れるのは、常識を踏まえ、逸した行為だと…」

「………」

「…ソラ」

めいっぱい背伸びして、のどを、なでなで。

「……………」

ひょいっ、とお腹から持たれ、脇に抱えられる。
…あれ。届かない。触りたいところまで…手が、届かない。

「…最初から、こうしておけばよかったか…」

あ、違う。届く。肘毛だけは届く。
…もふもふ。もふもふ。

「………」

……………

………



「…さて」

金の装飾が施されたグラスを置き、あーちゃんが向き直る。

「研究と言うが、何に協力すればいい?」

…私も、水の入ったグラスを置いて…考える。
今居るあーちゃんの部屋には、天蓋付きの豪華なベッドや、呪術的な道具?が並んだ棚、
常時水が蛇みたいな彫像から流れ出る水場、包帯ロールが入ったバスケット…などと、
物珍しいものがたくさんあり、これだけで研究の成果にはなりそうに思える。
でも…せっかく協力してくれるのに、それだけなんて、もったいない。

「…先に言っておくが」

少し、目つきが鋭くなるあーちゃん。

「私の身体に、理由もなく、無闇矢鱈に触れるような案は断る」

…さっきのが、余程不服だったらしい。
わんちゃんには、迂闊に触っちゃいけないところがあるって
本屋さんで立ち読みしたときに見たけれど…、その場所は鼻以外、覚えていない。
もしかしたら、撫でていた場所の中に触っちゃいけないところがあったのかも…。
…それとも、わんちゃん扱いされたって思って、怒っちゃったのかな…。
喜んでもらおうと思ったけれど…失敗しちゃった…。反省しよう…。
………喜んでもらうついでに、もふもふできたらなぁ…って考えも一緒に…。

「加えて、私の権限から逸すること、我が主に関することにも応じない」

淡々と、禁止事項を挙げていくあーちゃん。

「それと…」

「アビッちぃーーーーんっ!!」

ガゴーンッ!と、5回くらい響いて返ってくるほどの音で、石扉が開かれる。
…そこに立っているのは…スフィンクス。

「人間にょ牡をサーチしましたにょでデピュトロイしました!
 そんでもってアヘアヘのホニェニュキーンッにしました!
 でもすぐシワシワーンににゃっちゃった上に、
 お腹周りがちょっぴりラヴュンじゃにゃかったので、
 マミーちんどもにょエサにしてあげました!
 あとにゃんか人間のちっこい牝が来た気がする! 何か質問は!?」

「………」

…すごい例え難い表情をするあーちゃん。
それでも例えるなら…コップを買おうとして、でも自分のイメージ通りのものがなくて、
しぶしぶイメージに近いものを買ったんだけれど、次にお店に行った時に、
よくよく見てみたら2つ隣くらいに理想通りのコップがあったときの表情…みたいな。

「…ない。出ていけ」

「ラジャッ! 早速次の牡をサーチ………って」

目が合う。

「…ぺろぺろ…。ごしごしごし」

手を舐めて、目を擦る。かわいい。

「…じー………」

見つめられる。…ぺこっ、と会釈。

「アビッちん! ズィス! ズィスイズさっき話した牝!」

すごい勢いで、あーちゃんの横まで滑るように移動し、ズビッと指さす。
もふもふの共演。さわりたい。

「何で!? 何でここにいるにょ!? どういう関係!? A・B・C!?」

オーバー気味なリアクションで、私の顔を何度もビシビシ指さし、
あーちゃんの頭を何度もバシバシ叩くスフィンクス。
…あわてんぼうさん、なの…かな?

「………客人だ。お前には関係ない。出ていけ」

「ガーンッ! こ、こにょ魔物でにゃし! 略してマモでにゃし!
 質問したんだから、ちゃんと答えてくれにゃきゃヤダー
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