知求恥痴

私の名前はリィ・C・ヨル。朽ち果てぬ知の追求者、『リッチ』の眷属です。
身長148センチ。体重36キロ。血液型はAB型。歳は、先月で2812歳になりました。
好きな異性のタイプは、意志の強い方です。体力自慢な健康体ですと、尚良いです。
とはいえ、さほどこだわりはありません。私を好いてくれる方ならば、どなたでも大歓迎です。

職業ですが、魔王軍の最暗部、『拷問陵辱部隊』の器具開発部長を務めています。
名誉ある役職ではありますが、残念なことに、当開発部は私一人しか所属していません。
上司と部下という関係に、密かに憧れを抱いているだけに、現状が残念でなりません。
私と一緒に働いてくださる方、絶賛募集中です。経験は問いません。気軽に御声掛けください。

あぁ、そうです。募集といえば、つい先ほど、嬉しいニュースがありました。
私がここの所属となったとき、軍内に、『被験者募集』の公募をしたのですが、
ほんの30分ほど前、第三奇襲部隊『ケモナズ』の副隊長コンさんから、応募があったのです。

なんでも先日、東の高原地帯にて、人間の騎士団と遭遇し、激しい戦闘が起こったそうです。
結果は圧勝とのことですが、その際、逃げ遅れた少年兵がいたので、捕まえたのだとか。
その少年がまた、非常に口が堅いそうで。駐屯地を聞き出そうにも、頑なに答えないそうです。
逃げた兵の中に、隊員好みの男が多くいたので、なんとしても口を割らせてほしい…と、
応募用紙に添付された手紙には書かれていました。つまり、代わりに尋問しろ、ということです。
気前の良い話には、何かしら裏があるものです。私の仕事は、あくまで器具開発のみの筈なのですが。

とはいえ、彼の尋問後の処遇については好きにしていいとあったので、ここは良しとしましょう。
2800年近く生きて、男の被験体を手に入れたのは、これが初めてなのですから。
これまでの被験者は、人間の女が7割、軍内の物好きな者が2割と、その全てが雌でした。
残り1割は、城の周りにいた野良犬です。拷問を掛けたら、すぐに魔物になってしまいましたが。

さておき、押し付けられた仕事とはいえ、やっと念願の被験体が手に入りました。
この報告を聞いてから、私もう、待ちきれず、先刻から部屋の中を行ったり来たりしています。
どの器具から試そうか。どんな反応をするのか。想像と期待は膨らむ一方。留まるところを知りません。

「離せよっ! 触るな、気持ち悪い!」

…おや。どうやら、例の彼が運ばれてきたようです。
足音が扉の前で止まったところで、私は一張羅のローブを正し、席に着きました。
胸中こそ、興奮で満ちていますが、我々リッチという種族は、常に冷静でなくてはいけません。
相手の一挙一動を見逃さぬ目、そこから読み取れる心理を分析するのが、私の生きがいです。
ひいては、趣味でもあります。そういった人間観察が好きだからこそ、この仕事に就いているのです。

「なんだよ、ここ。独房か?」

さあ、いよいよです。いよいよ、長年の夢が叶うのです。
この悲願の生贄として選ばれたのは、どのような男性なのでしょう。

姿勢を正し、咳払いをひとつ。
私は鉄の扉に向かい、一言、言葉を掛けました。

「…うわ……」

風邪を引いた魔界鳥のような音を立て、開きゆく分厚い扉。
すると、そこには、部屋の中を見て、呆然と立ち尽くす一人の少年がいました。

「ご、拷問……部屋…?」

………好い。

好い。好いです。なんて素直な、感情を顕わとした表情でしょう。
先ほどまで強がっていたその少年は、一瞬にして、戦慄した猫のような顔になりました。
その表情は、私の背後にある、数々の拷問器具を見て湧き上がった心理…恐怖でしょう。
彼がポーカーフェイスのできる人間ではないということが、容易に読み取れます。
更に、彼は捕虜という立場を、大分甘く見ていたようです。楽観的な性格なのでしょう。
そうでなければ、拷問されることなど、容易に想像できます。それが当然。常識です。

「…は、離せって言ってんだろ。座るよ、ここに座ればいいんだろ」

付き添いの兵の指示に従い、私の対面の席へと腰を下ろす彼。
相変わらず、口調は強気ですが、先程と比べ、覇気がまったく感じられません。
加えて、進んで指示に従う旨の発言をしています。これも恐怖心からでしょう。
これからの行為に、少しでも手心を加えて貰えれば…という、一種の降伏の表れです。
つまり、犬が仰向けになって、お腹を見せるアレと一緒です。これ以上酷いことをしないで、と。

なるほど。つまり彼の本質は、ひどく臆病な人間…ということです。
これが歴戦の戦士ならば、鼻で笑い飛ばすか、沈黙を保ったままでいることでしょう。
そんな強者さえ、ひとつ、ふたつと拷問を続ければ、薄皮が剥がれ、本音
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