…遺跡に響く、石踏み音。
「あの駄猫め…。牝と見れば、報告すらせん」
焔火に伸びる、高い影。
「…また包帯が足りなくなるな…」
漆黒と黄金、織成す双極。
「さて、貴様は宝に目が眩んだ賊か…。あるいは、我が主を狙う戦士か…」
しゃらんと鳴くは、天秤の蛇。
「どちらにせよ…逃がしはせん」
彼の者、王間の裁定者。
……………
………
…
灼熱の太陽。
砂の海。
ここは地獄の一丁目。
…そんな唄を口ずさんでいた、キャラバンのおじさんを思い出す。
きっと、暑がりな人だったんだと思う。そこまで暑いとは思わない。
これならまだ、冬の朝の方が地獄に近いと思う。
結露の硝子。雪の音。そこは地獄の一丁目。
…地図を広げ、コンパスで位置確認。
目的地…トートリ砂漠一大きい遺跡まで…あと、2キロ。
ハムナプタイガーと名付けられたその遺跡は、
地下迷宮が複雑に入り組む、歴史家から盗賊まで御用達の秘境。
そして、数々の罠と魔物がひしめく、魔境でもある。
金銀宝石や、伝説の武具、古代の王のミイラ、星空へと飛ぶ船…。
ロマンチックな噂も絶えない、冒険者垂涎の場所なのだ。
私の目的は、もちろん魔物の研究。
今回は目標を高く、ふたり以上は、帰るまでに研究しちゃおうと思っている。
そのための装備はばっちり。テントに、たっぷりの水と食料、他色々。
シー・スライムの研究が思った以上に高く評価されて、
予想の3倍近く出たお給料を崩して揃えた装備は、まさに隙無し!
ホームシックとかにならない限り、2週間はどんと来い、な万全ぶり。
………あぁ、でも、お宝かぁ…。
偶然、見つかっちゃったりしないかな。しないよね。お宝っていうくらいだもん。
………もし、もし見つかっちゃったら、どうしよう? 特大のダイヤとか…。
うーん…、飾っていてもしょうがないし、やっぱり、売る…?
でもなんかもったいないなぁ…。どうせなら何か工夫を…。
あっ、そうだ。ぷーさんに頼んで、ダイヤのカウベルとプランターを作ってもらう、とか。
それ…いいなぁ。ふたりとも、すっごく喜んでくれそうだなぁ…。
……えへ…。えへへへ………。
―あぴっ!?
ごちん、と、現実に戻される。
…おでこを押さえ…見ると、大きな大きな石柱。
辺りを見回すと、遺跡の入口と、木の看板も。
看板に付いた砂を払うと…浮かび上がる、掠れた文字。
『ハムナプタイガー遺跡・西口』
……………
………
…
…松明の火が、暗い…道なき道を照らす。
通路や部屋があった2階までと違って、柱以外はほぼ砂で埋まっている3階。
それまでとは別の意味で、どっちに進めばいいのか悩む構造。
松明を前にやり、少しでも奥の様子を伺えるようにしながら、歩く。
…ちなみに、ランプも持ってきてはいるけれど、雰囲気とコストを考えて、松明。
でも、こうなっていると罠の心配が少なくて、安心できる。
…1階はひどかった。何度も足紐の罠に引っ掛かって、転ばされた。
別にそれだけではあったんだけれど、罠の近くに矢の残骸や骨が
ころころ落ちていたから、本当は矢に刺される罠なんだったと思う。
そう考えると運が良かったけれど、この遺跡に着いてから、
異様におでこに集中砲火をあびてて、へこむ。そんなに広くないのに…。
…ふと、砂の中から顔を覗かせる何かに気付く。
近付いて見ると………手帳? たぶん、手帳の頭。
引き抜くと…やっぱり、そうだった。かなりぼろぼろになっている。
中身を見ようと開く。
と…ほとんどのページが、砂と一緒にパラパラと舞い落ちてしまった。
かろうじて残っているのは…たったの2ページ。まずそちらから読む。
『遺跡に轟く、猛き咆哮。
縛りを放つ、手枷の鎖。
野生と本能、滾る血潮。
がらんと鳴くは、鋼鉄の剛角。
彼の者、迷宮の狂戦士』
…斧を担いだ、牛のような絵…。
ページをめくる。
『遺跡に木霊す、石の囁き。
陽光に輝く、其の金毛。
問いと答え、帰れぬ葦。
ちがうと鳴くは、砂鑢の舌。
彼の者、砂漠の謎掛碑』
…獣と人が混じったような姿の絵…。
隣のページへ目を移す。
『遺跡に響く、石踏み音。
焔火に伸びる、高い影。
漆黒と黄金、織成す双極。
しゃらんと鳴くは、天秤の蛇。
彼の者、王間の裁定者』
…二本脚で立つ、犬の姿…。
近くの柱に背を預けつつ、ページをめくる。
『遺
ガクンッ。
…何故か、柱が、動いた。
スローモーションになる世界。浮く右足。
後ろを振り向く。倒れゆく、寄り掛かろうとした柱。
下を見る。柱の中が、空洞。お尻が、その、真上。
前を見る。何もない空間に、必死に腕を伸ばす。当然、何も掴めない。
落ちるお尻。焦る私。太ももが柱の端に当たる。左足も浮く。
折り畳まれていく身体。声
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