鬼姫爛々

皆様、本日は当講義に御出席頂きありがとうございます。
人と魔物がより良い関係を築くための団体、『MAOW』。
我々が主催となって行う講義も、今回で早87回目となります。
これも皆様のおかげであります。重ねて、お礼申し上げます。

さて、御手元に資料はございますでしょうか。
もし見当たらないようでしたら、近くの係員にまでお知らせください。

今回の講義は、『ウシオニの花嫁修業』です。
ウシオニの生態等については、旦那様である皆様の方がお詳しいことでしょう。
自由奔放に、力強く生きる彼女達の魅力は、一言二言で語れるものではありません。

しかし、その一方で、彼女達はある欠点を持っています。

それは『家事』です。炊事、洗濯、掃除…。
女の仕事ともいうべきものですが、ほとんどのウシオニはこれを苦手としています。
皆様のご家庭でも、家事は旦那様が受け持っている方が多いのではないでしょうか。

資料の4ページ目を御覧ください。
こちらには、皆様から寄せたお悩みのいくつかが掲載されています。
代表例として、一番上のSさんお悩みを読み上げさせて頂きます。

【僕の愛する妻は、『ド』が付くほどに料理がヘタで困っています。
 いえ、あれはもうヘタというレベルすら超越しているように思えます。
 
 例えば『ゆでたまご』です。
 お湯を沸かして、その中に卵を入れるだけ。至極簡単な料理です。
 ですが、彼女の場合、卵をお湯の中に入れる段階でアウトなんです。
 
 投げるんです。遠くから、ポイッとお鍋に投げ入れるんです。
 本人曰く、その方が早いから…と言うのですが、私には理解できません。
 お湯は跳ねるわ、卵は割れるわの大惨事。衝撃で鍋自体が吹っ飛ぶことも。
 コントロールも決して良くはないので、たまに僕の頭にもぶつかります。
 ちゃんと謝ってはくれますが、僕よりも、割れた卵達に謝ってほしいです。

 ここまででも、もうゆでたまごとしては不合格モノなのですが、
 彼女の場合、むしろここからが本領発揮というのが恐ろしいところです。

 ゆでたまごというのは、出来上がるまでに少々時間が掛かるものです。
 黄身は半熟が好みな我が家であれば、だいたい10分ほどでしょうか。
 台所には時計が飾ってあるので、それを見れば簡単に茹で上げることができます。

 しかし、短気な彼女は、秒針が一周する間さえ待っていられません。
 沸騰したお湯の中に手を突っ込んでは、卵のひとつを割って、中身を確認します。
 これを30秒毎にするものですから、茹だるまでに19個もの卵が犠牲になります。
 投げ入れる時にも10個ほど犠牲になるので、総数は約30個。実に3パック分です。
 また、運が悪いと、完成品をお湯から出す時、グチャリと握り潰されてしまうことも…。
  
 このように、我が家では多くの犠牲を払った上で、ゆでたまごが出来上がります。
 ですが、まだです。料理が完成した後に、もう一人の犠牲者が現れるのです。

 その犠牲者というのが、他ならぬ僕です。

 原因は、彼女の味付けにあります。
 塩を付けるだけなのですが、その量が度を越えているんです。
 子供の時に、『砂山崩し』という遊びをやったことがあるのですが、
 僕の食べるゆで卵の上では、まさにその『砂山崩し』が再現されていました。
 味は濃い方が良いだろう…という彼女の発想により生まれた、小さな塩の山。
 口の中に入れれば、ジャリジャリするほどの量です。涙目になること必至です。
 
 それでも、僕は彼女のゆでたまごを完食します。
 もし残してしまえば、彼女がヘソを曲げてしまうからです。
 正直、辛いです。愛ゆえに夫は悲しまなければいけないのです。

 どうにかして、彼女には料理の腕を改善してほしいと思う次第です】

…心中お察し申し上げます。
皆様、どうか涙をお拭きになってください。

このように、ウシオニは家事を非常に苦手としています。
また、本人はそれを自覚してはいるものの、改善しようと思うことはありません。
彼女達にとって一番大事なのは、旦那様とのセックスなのです。それ以外は雑多です。
家事の練習に時間を取られるくらいなら、子作りしていた方がいいという考えなのです。

旦那様方の中には、奥様の改善を試みた方もいらっしゃいますことでしょう。
教材本を買って読ませ、自らが例としてやって見せ、手取り足取り教えて…。

ですが、その全ては失敗に終わってしまったものと推察致します。
先に述べましたように、彼女達はセックス以外に時間を取られることを嫌います。
恐らく、教えている最中に、辛抱堪らなくなった奥様に押し倒されたのではないでしょうか。
それが普通の反応です。ウシオニに限らず、オーガやミノタウロスにも同じ傾向があります。

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