誰かの存在によって、僕が生かされているように。
僕の存在も、きっと誰かを生かしているのだろう。
「はふっ…、ん…、ちゅっ
#9829;」
焼けるような刺激を感じ、濁った意識が目を覚ます。
朦朧とする思考。おぼろげな視界。映る世界は大半が闇。
ここがどこかを思い出す前に、僕の耳が聞き慣れた声を捉える。
「…なんだ、起きたのか」
額を撫でる、柔らかな感触。これも憶えがある。
とても優しい手。でも、母親のでも、父親のでもない。
僕を世界で一番愛してくれている人の手。大丈夫、憶えている。
僕はまだ、彼女のことを憶え続けることが出来ている。
「はむ…。んむ、んぅ……ちゅぅぅっ
#9829; ぺろ…
#9829;」
重い頭を上げると、淡い光の中に、彼女の長い灰色の髪が見えた。
ゆらゆらと動き、水音を立てる彼女は、いったい何をしているのだろう。
憶えているような、思い出せないような。ああ、なんとももどかしい。
記憶の断片が集まらない。何が原因なのか。この身を襲う刺激のせいなのか。
「寝てなよ…、んっ
#9829; ちゅ…
#9829; あたいはあたいで楽しんでるからさ」
ぐいと、左手が持ち上げられる感触。無意識に移る視線。
瞳に映るのは、褐色の肌、赤い衣服を纏った女性の姿。
僕の薬指を口に含み、丹念に舌を這わせて味わっている。
それは異様な光景でもあり、でも、見慣れた光景にも思え。
当然のようにそうしている彼女を見るに、きっと…。
「…なあ、おい」
不意に、彼女が僕を見つめ呼ぶ。
掠れた咽に息を通し、返事を返す僕。
「あたいのこと、忘れちまったんじゃあないよな…?」
細めた目に浮かぶ、不安の色。僕の腕を握る手に力が篭る。
そんなことはない。ちゃんと憶えている。
君の名はグゥ。僕がただ一人愛する女性だ。
そうさ、僕達は愛し合っていた。今も。世界中の誰よりも。
君のお父さんは…なんていったかな。ごめんよ、そちらは忘れてしまった。
でもね、君のお父さんが手塩に掛けて育てた娘が、君だってことは憶えている。
お金持ちの御令嬢だったよね。好きなものは従順な人と猫、それとアップルパイ。
乗り物に乗るのがとにかく下手で、大人しい子馬にさえ振り落とされていたっけ。
「んっ…」
硬い右腕を動かして、彼女の頭を撫でる。
指触りの良い、彼女の髪の感触。ふんわりと柔らかい。
艶もあり、一本々々が生気に満ちている。麗しい。
…なぜだろう。自分でも分からないけれど。
こうしていると、とても安らかな気分になる。
「…なんだよ、子ども扱いすんな。憶えてるんならいいんだ」
口端を吊り上げながらも、ぶっきらぼうな言葉を返す彼女。
照れているんだな…と思った。なんとなくだけれど、分かる。
きっと、僕がそう思ったことを、彼女も分かっているんだろう。
「そんなモンより…ちゅっ、ちゅぅ…
#9829; コッチをくれよ…
#9829;」
不敵な笑みと共に、ぎゅっ…と握られる僕の睾丸。
妖しい手つきに合わせ、ころころと転がるふたつの玉。
それにより生まれる新たな刺激に、僕は思わず呻き声を上げてしまう。
「ゾンビみたいな声上げんな、白けるだろ。あむ…、ちゅ
#9829;」
再び僕の指をしゃぶりながら、彼女が文句を垂れる。
謝罪の言葉にも耳を貸さず、一本の指を執拗に舐り続ける。
「んぐっ……ん…、はむ、はむ…
#9829; あむ…っ
#9829;」
舌での愛撫に混じり、彼女の歯が、僕の肉に浅く喰い込む。
感じる、ほんの僅かな痛みと、全身に響くほどの甘い刺激。強い快感。
彼女の唾液が歯跡に染み込み、僕の全身に媚毒となって回りゆく。
「あぁ、美味い…
#9829; ちゅるっ…
#9829; 今まで食べた、どんな料理やお菓子よりも…
#9829;」
薬指に沿い、腕を伝って、彼女の唾液が流れ落ちる。
ほんの僅かな滴。彼女の体液。それを見て、僕の咽が急激に渇きを訴える。
昂ぶりに押されるがまま、僕はめいっぱい首を伸ばし…その滴を舌で掬った。
「…
#9829; この変態…
#9829;」
彼女の罵声を聞きながらも、僕は滴をごくりと飲み込んだ。
瞬間、潤いを感じる咽、満ちゆく欲望。幸せが胸に宿る。
しかし、すぐにそれらは反転してしまう。
再び渇く咽、飢える欲望。もっと、もっとと心が叫ぶ。
それに従い、僕は何度も舌を伸ばし、流れる唾液を掬い取った。
潤い、渇き。満ちては、飢え。果てのない想いが、ただただ輪廻する…。
「そんなに飲みたきゃ、飲ませてやるよ…
#9829;」
ふと、彼女が髪をかき上げ、僕の薬指から口を離した。
水飴のように粘り、指と舌とを結ぶ唾液。てらてらと輝き。
それがぷつりと切れ、僕の胸に落ちた時には、彼女の顔は既に目の前に
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