瞬星輝命

夜空にいくつもの星が瞬いているように。
地上ではいくつもの命が輝いています。

貴方は『ハニービー』という魔物をご存知ですか?
まるでミツバチのような姿をした、可愛らしい魔物です。

基本的に大人しく、温厚な種であるハニービー。
その姿は、主に森の中や花畑の近くで見ることができます。
目撃例、及び被害例は多く、決して人畜無害な魔物ではありませんが、
彼女達の生成する蜂蜜を目当てに、友好を交わす商人等もいます。

では、そんなハニービーの生活を、こっそり覗いてみましょう。

ええと…あっ、ほら、いましたよ。あそこを見てください。
あのキョロキョロと辺りを見回している女の子がハニービーです。

ハニービーは昆虫型の魔物の中でも、特に鼻が利きます。
あれは決して迷子になったワケではなく、餌を探しているのです。
ほら、鼻をヒクヒクと動かしているでしょう。花の匂いを嗅ぎ付けたようです。

飛んでいきましたね。後を追いましょう。
彼女達は飛ぶ際に、背に生えた四枚の羽をせわしなく動かします。
これは鳥人型や妖精型と違って、羽の一枚々々が小さいためです。
小さい羽で身体を浮かせるためには、高速で動かす必要があるのです。
耳を傾けると、「ブーン…」という独特な音が聞こえるでしょう。
あれは羽の振動音です。団扇を早く扇ぐと、パタパタと音がするのと一緒ですね。

彼女達は飛ぶ音が特殊なために、その存在にすぐに気付くことができます。
そのため、ハニービーが近付いていることを察知し、逃げるのは比較的容易です。
ですが、先程のように、彼女達は常時飛んでいるというワケではありません。
賢い個体ですと、ひっそりと歩いて近付いてくることもあるのでご注意ください。

ところで、今彼女は一人ですが、ハニービーは集団で生活する魔物です。
一つの大きな巣に、女王蜂を筆頭として、百匹ものハニービーが暮らしています。
というのも、彼女達は皆家族だからです。女王蜂を含め、彼女達は姉妹なのです。
彼女達は、唯一生殖能力を持った女王蜂のために、あのように個々に分かれ、
餌となる花の蜜を集めたり、女王蜂の夫となる男性を探したりするのです。

…おや、彼女が降りましたよ。餌を見つけたのでしょうか。

どうやらそのようです。それも、大当たりのようですね。
彼女が見つけた花は、特に大好物な蜜を持つアルラウネのようです。

アルラウネというのは、植物型の魔物の一種です。
大輪の花の中に、甘い蜜と麗しい女体を宿した妖美な魔物です。
今はあのように花弁を閉じていますが、それは危機を察知したためでしょう。
ハニービーに蜜を取られまいと、彼女は必死になって身を守っているのです。

あのようになってしまっては、ハニービーも手が出せません。
アルラウネの花弁は、冬の冷気を凌ぎ、積雪に耐えられるほどに頑丈です。
彼女の弱い力では、閉じた花弁を僅かに開くこともできないでしょう。

しかし、自然界というものは、強者の上に更なる強者を築きます。
向こうの草薮を見てください。背の高い草の中に、何者かの姿があるでしょう。

ほら、出てきました。森の力自慢、グリズリーです。
彼女もアルラウネの蜜を狙うハンターの一人で、一番の天敵です。
ぼんやりとしていることが多い彼女ですが、狩りの時は非常に俊敏です。

岩をもたやすく砕く彼女の力の前に、アルラウネの花弁は障害にもなりません。
いとも簡単に開かれてしまいましたね。あの狼狽している女性が、アルラウネのめしべです。
しかし、アルラウネは強気な個体が多く、あのような状況でも必死に抵抗を続けようとします。
花粉を撒いたり、蔓を絡み付かせたりと、空しいものではありますが…。

そこで出番となるのがハニービーです。
彼女を見てください。身体に何かを塗っているでしょう?
あれは彼女が以前に採取した、純度の高いアルラウネの蜜です。
純度の高いアルラウネの蜜には、触れたものを発情させる効果があります。

さて、なぜ彼女は、自身の身体にそのような媚薬を塗りつけているのでしょうか?
その答えは、彼女の次の行動を見れば分かります。よ〜く見ていてください。

…御覧になりましたか? あれこそがハニービーの蜜採りです。
彼女は蜜を塗りたくった自らの身体を、アルラウネへと擦り付けるのです。
そうすると、アルラウネ自身も蜜に対する免疫は低いので、発情してしまいます。
それは抵抗を失くするだけでなく、純度の高い蜜を採取できるという効果もあります。
アルラウネは興奮が高まるほど、その身から濃ゆい甘さを秘めた蜜を滴らせるのです。

いつの間にか、グリズリーまで一緒になっていますね。
皆々蕩けた表情を浮かべ、とても気持ちよさそうです。

今回は協力体制となったハニービーとグリズリーですが、
お腹を空かせ
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