魔物娘愛

あの不思議な体験を、どこから語ればよいのでしょう。
私の願望が生み出した幻か、はたまた一夜の夢なのか…。

まずは、私という人間から紹介させて頂きたいと思います。

さして得意も苦手もないことが特徴な、成人を迎えた男性です。
ごく平凡な人生を送っており、山も谷も人並みと言えるでしょう。
嗜みも程々。趣味らしい趣味といえば、ネットサーフィンくらいのものです。

しかし、私には特殊な性癖がありました。
公言することではないのでしょうが、私は普通の女性以上に、
『魔物娘』という…この世には存在しない女性に強く惹かれるのです。
具体的には、鳥のような翼や、魚のような下半身を持った女性です。
他にも、神話に登場する天使や悪魔、竜をモチーフとしたもの等々…。

私は別段、人ならざるものに興奮するワケではありません。
お恥ずかしながら、大人になった今も、虫に触ることができません。

ですが、彼女達には不思議な魅力がありました。
例えば、『アラクネ』という、下半身がクモの魔物娘がいます。
クモといえば、私が大の苦手としている生き物ではありますが、
この『アラクネ』に関しますと、その想いは逆転してしまいます。
彼女の肢体に触れてみたいという、強い想いが湧き上がるのです。

なんともおかしな話ではありましょう。
私自身も、どうしてこのような想いを抱くかは分かりません。
『妖狐』を見れば、その柔らかな尻尾で全身を包まれたいと望み、
『インプ』と聞けば、その小さな身体に馬乗りにされる自身を想像します。
狂っていると言われてしまえば、そうだと答える以外にないでしょう。

さておき、私はこの『魔物娘』という存在に恋焦がれていました。
趣味のネットサーフィンも、主に巡るは、彼女達に関するサイトです。

今までにどれほどのサイトを巡り歩いたでしょう。
多くの魔物娘と出会い、彼女達の様々な一面を見てきました。
その度に私は、胸に熱い想いを宿し、はしたなくも興奮しました。
ディスプレイに映る、人ならざる者の淫らな姿に、幾億の子孫が奪われたか…。

気付けば、お気に入り覧は、人外の息衝く魔境を記した地図となり、
マイピクチャは、身を白濁に染めた淫魔達に占拠されてしまいました。
しかし、私はなお新天地を求め、広大なネットの海を彷徨いました。
リンクを辿り、同好の士との出会いを繰り返しながら、果てしなく…。

運命の出会いとは突然です。

ある日、私がいつものように電子の世界を冒険していた時です。
検索サイトにより選出された、『魔物娘』に関するサイトの一覧。
その中のひとつに、見慣れない…興味深い単語があることに気が付きました。

『魔物娘図鑑』。

はて、図鑑…とはどういうことでしょう。ピンと来ません。
魔物娘に関するサイト等を掲載した、いわゆる情報サイトでしょうか。
首を傾げながらも、興味を惹かれた私は、そのサイトを覗いてみることにしました。

…その後に訪れた衝撃を、私は今も鮮明に覚えています。
私の来訪を喜ぶかのように、微笑みを浮かべた彼女の姿を…。

私を出迎えたものは、『サキュバス』という魔物娘でした。
皆さんも恐らく御存知のことでしょう。淫魔として有名な魔物です。
私自身も、今までに『サキュバス』と名付けられた魔物は多く見てきました。

しかし、これほどの胸の高鳴りは、ついぞ経験したことがありません。
恋愛事を知らぬ私です。それが恋だと言われれば、信じて疑わないでしょう。
それほど彼女の姿は美しく、妖しく、異性と人外の魅力を併せ持っていました。

しばし私は放心し…、ふと、画面の上部へと目をやりました。

『クロビネガ』。

我を取り戻した私は、すぐさま地図へと現在地を記しました。
そして脇目も振らず、メインコンテンツの『エロ魔物娘図鑑』をクリックしました。

新たに開くページ。そこにずらりと並べられた魔物娘達の名前。
百をも超えるその数には、目の肥えた私も驚かずにはいられませんでした。
逸る気持ちと共に、上から順々に魔物娘を選択し、姿を拝見しました。
そのどれもが、なんと愛らしいこと。添えられた詳細文も素晴らしい。

私はたちまち、『クロビネガ』のファンになりました。
まずしたことといえば…いえ、述べるほどのことでもありませんでした。
御推察の通りです。ティッシュが、一週間で三箱も空になるほどに…。

ある程度気持ちが落ち着いたところで、私はその他のコンテンツを覗きました。
魔物娘を題材としたSSが掲載されたCGI、雑談やなりきりで盛り上がる掲示板、
魅麗な絵が飾られたギャラリー、各々が愛する魔物娘を語り合うチャット…。
一通り目を通して、私はこの魔物娘図鑑が、多くに人に愛されていることを知りました。

早速、私は愛好者達の輪に混ざろうと、掲示板の雑談
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