「……また来てんのか」
買い物から帰った義朗は玄関に学生靴があるのを見て美香が部屋にいることを悟った。
出かけている時に入れ違いで訪れたのだろう。美香には合鍵を渡しているのでそういう場合は先に部屋に入っている事も珍しくない。
(大丈夫なのかあいつ……)
人の心配ができるような身分ではないのだが思わずそう考える。近頃美香が義朗の元を訪れる頻度が明らかに増えてきている。
そうして掃除やら炊事やら義朗の世話を焼いていく、以前からたまに顔を出す事はあったがここの所は通い詰めていると言って過言でない。
「暇だから」と美香はいつも言う、しかしそんなにいつも暇なはずはない。
成績がいい美香は勉強も真面目にしているし人付き合いも多い、仕事の方もますます人気が出てきて忙しくないはずはないのだ。
「……」
「すう……すう……」
部屋に上がると美香が布団の上で身体を丸めて寝息を立てていた。
テレビがついている所を見ると部屋を片付けた後も義朗が帰ってこないのでテレビでも見て待っていようと考えたのだろう。
「ほら見ろやっぱ疲れてるんじゃないか……」
ひとりごちながら毛布をかけてやる。
(ありがたいけど……コイツのためにならないよな……)
正直助かっている、だが疲れている美香の負担になっているのだとしたらそれに甘えるのは戸惑われる、いや、すぐに遠慮するべきなのだろう。
(でも……なあ……)
助かっているのは食事や身の回りの世話ばかりではない。精神的な面でも美香には大きく救われているのだ。
受験は一人の戦いだ、どうしても孤独になりがちで精神的なストレスが大きい。
誰か腹を割って話せる友人か受験仲間でもいればいいのだろうが生憎義朗に親しい友人はいない。
最大の助けになってくれるはずの両親はもはや自分の事を諦め気味で顔を合わせるのも辛い。
実質美香の訪問が唯一の心の支えと言って差し支えない。
その美香に「もう来なくていい」と言うのは辛い、何より自分が苦しい。
ワハハハハ
考え込む義朗の思考を現実に戻したのはテレビから聞こえる芸人の笑い声だった。
気付けば寝ている美香のそばに立ち尽くしてぼんやりとしていた、これでは美香の言う通り怪しい兄だ。
「んん……んぅ……」
寝返りをうつ美香を見てどきっとする、みじろぎした拍子に胸元がはだけてブラが見えている。
咳払いをしてそっと胸元を直してやる。
「……」
眩しい、眩しいくらいに白い肌だ、ミルクを練り上げて出来ているんじゃないだろうか。
(……エステ、続けてるんだっけか)
確かにその話を聞いた時から美香は更に綺麗さに磨きをかけている、そりゃあ人気も出るだろう。
それは肌の色艶や髪質だけの問題ではない、何か、全身に纏う雰囲気が少しづつ変化している気さえする、妖艶、というか……。
気付けば胸元を直してやった義朗の指は美香の髪を払いのけてその頬に触れていた。
吸い付く感触が指に伝わる。
その心地いい感触をもっと楽しもうと指が徐々に頬を滑り降り、首筋に届く、なんて滑らかな感触だろう。
「んー……ん……」
と、美香がくすぐったそうにみじろぎした、我に返って慌てて指を引っ込める。
「んんぅ……んふふ……」
何の夢を見ているのか口元に微笑が浮かぶ。
義朗は呆然として立っていた、呆然として美香のその笑顔を見た後に視線を下に向けた。
はち切れんばかりになってズボンを押し上げる自分のモノが見えた。
(……嘘だろ)
もう一度美香の方を見る、起きている時には見せないあどけない表情。
「……」
記憶が遡る。
自分が何歳の時か覚えていない、でもベッドの中で眠る赤ん坊の美香を覗き込んだ時の事をよく覚えている。
こんなに人形みたいに小さな生き物がやがてはお父さんやお母さんみたいに大きくなるというのがすごく不思議だと思った。
子供ながらに頑張ろう、と思った事も覚えている。
自分はお兄ちゃんになるんだ、妹を守ってやるんだ、と。
もう一度見下ろしてみる。
下半身に蠢いているのはむき出しの獣欲。
あどけない美香の、妹の顔を見て、性欲を覚えている。
性欲を。
義朗の全身からどっと冷たい汗が吹き出た。
・
・
・
(……寝ちゃってたや)
美香は布団から身体を起こして目をごしごしと擦った。
「んー……」
何かとてもいい夢を見ていた気がする。内容は思い出せないが……。
部屋を見回してみると机に向かう義朗の背中があった。
ちゃぶ台の上には空になったカップ麺が置かれている。
「もう夕飯食べたの?」
「ああ」
振り返らずに義朗は答える。
「起こしたら作ってあげたのに」
「ああ」
「……?」
美香は違和感を覚える。
「兄さんどうかした?」
「なあ、美香」
「うん?」
「もうここには来るな」
ずっと振り返らないまま義朗は言った。
「何で?」
「お前も忙しいだろ」
「そ
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