「……よし……」
荻須は固唾を飲んでデスクトップにある「ダークネスロード」のアイコンをクリックした。
いつもしているログインにどうしてこんなに緊張するのか。原因はわかっている。
あのオフ会以来、互いの顔を知った上で初のログインだからだ。
無論、オフ会で顔を合わせながらプレイはしたが、その時は目の前に相手が居る故の社交辞令的な意識も働くだろう。
いや、そんなに裏表のある人々には見えなかったがあれから期間を置くうちに荻須の中で勝手に不安が増幅してしまったのだ。
いつもと同じに接してくれるだろうか?よそよそしい態度を取られたらどうしよう?三人から一人ハブられたらどうしよう……?
こういう時、自分の対人関係における臆病さがつくづく嫌になる。
画面上に広がるメインタイトル。自分のキャラクター「オギス」が読み込まれ、いつもの街角に降り立つ。
冒険の拠点になる場所なので周囲は自分と同じように待ち合わせをしているプレイヤー達で賑わっている、とりあえず見回してみてもその中に三人は見当たらない。
(まだ来てないのか……うん?)
その喧騒の中から一人のプレイヤーがこちらに向かって歩いてきた。
見覚えのないキャラクターだ。長い髪を後ろに纏めた金髪碧眼の女性。純白の鎧にマント、腰に下げている剣を見るに騎士であるようだが……。
「……えっ……まさか」
表示されている名前をみた瞬間思わず声が漏れた。
「アストレイ」
言われてみれば顔立ちはあのアストレイそのものだ、元々が中性的な美少年というデザインだったので女性になっても全く違和感がない。
呆然とするオギスの前に立ってアストレイは声をかけてきた。
アストレイ:こんばんは
オギス :こんばんは……アストレイだよな?あの
アストレイ:そう、そのアストレイだ、驚いたかい?
オギス :驚いたも何も……キャラの性別って途中で変更できないはずだろ?
アストレイ:ふふふ、実はね……最初から女性だったんだよ、このアストレイってキャラ
荻須は思い出す。そういえばこのゲームは装備品に男性用女性用という括りがなく、見た目がどんな物でも誰でも装備できる。
お陰でウケ狙いの変態装備キャラも見かけたりするが……。
オギス :装備品で男装してたって訳か……何でそんな手の込んだ事を
アストレイ:まあ、ナンパ避け、かな?でも最近ずっとオギスとペア組んで男避けの必要もなくなったし……リアルもバラしたからイメチェンしようかなーって
アストレイはオギスの前でくるくるっと回って見せる、纏めた金髪が小動物の尻尾のように揺れる。可愛い。
アストレイ:どうだい新生アストレイは、あ、勿論ステータスも以前と遜色ない物を揃えたからゲームに影響はないぞ。
オギス :何というか……
荻須はそのアストレイの姿に既視感を覚えていたが、一瞬考えてその正体に思いついた。
オギス :リアルそっくり
アストレイ:だろう?意識して作ったんだ、リアルと同じく超絶美少女だろう?
オギス :自分で言うかね
アストレイ:HAHAHAHA
話の流れで突っ込んだが超絶美少女というのは実際その通りだと荻須は頭の中で思った。無論、そんな歯が浮くようなセリフは実際には吐けないが。
ミステラ :こんばんは
ルビィ :あー!アストレイちゃんイメチェンしてる!ずるい!
と、アストレイと会話していると残りの二人も到着して会話に加わってきた。
アストレイ:ふふふ、悔しいか、普段とのギャップで攻めるという長年温めてきたアイデアだ、これでオギスもイチコロって寸法よ
オギス :イチコロてw
ミステラ :イメチェン……いいですね、私ももうちょっとお洒落な装備探してみようかな
ルビィ :じゃあわたしももっとセクシーなの探す!
オギス :今でも既に下着より露出しとるがなw
(よかった……)
荻須はパソコンの前で胸をなで下ろしていた、皆いつもと変わらない。
実のところは今までとは違って皆アプローチが積極的になっているのだが、そこのあたりの経験値も鋭さも足りない荻須は全て冗談として受け取っているのだった。
・
・
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オギス :ルビィは、まだいける?
ルビィ :明日は休みなのであります
オギス :じゃ、もうちょっと素材集めするか
ルビィ :おけーぃ
その日の狩りを終えて皆が解散した後、オギスは次の日が休みでまだ眠気もなかったのでもう少し続けようと考えた。
それに付き合ってくれたのがルビィだ、一人でやるよりは当然二人の方が効率がいいので一緒にせっせと素材集めに精を出す。
ルビィ :ねえ、リーダー
オギス :うん?
二人で鍾乳洞の壁をツルハシでカンカン叩いているとルビィが話してきた。
ルビィ :ダクネ始めてどのくら
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