オフ会はお深い

「長さではなくて密度ですよねリーダー?」
荻須は混乱しはじめる。
(何?どういう状況?呼び捨てにする事がそんなに重要なのか?というか、目立つからあまり騒がないで欲しいんだけど……)
ただでさえ三人は人目を引く容姿をしている、その上冴えない自分一人がその三人に混じっているものだから余計だ。
「えー、あー、まあ!それは置いておいて!はい、皆コップ持って!」
何とか場を収めようと自分もコップを持って言うと三人は素直にジュースの入ったコップを持ってくれる。
「えー、それでは、えー、そのっ……パーティー初のオフ会を記念して、乾杯!」
「かんぱーい!」
「はい、乾杯」
「乾杯」
完全に酒の席のノリだが幸い皆も乗ってくれた、かちんかちんとテーブルの上で杯を合わせ、きゅーっとジュースを煽る。
「ぷはー!オレンジうめー!」
「ふふ」
「ふー」
「ええと、それじゃあ改めて自己紹介、とか……あ、えーっと、だいたい皆把握できていると思いますけど……」
荻須は咳払いをした。
「えー……一応、リーダー務めさせてもらってます「オギス」……です、あー……」
(本名って言うべき?)
「本名はえー……まんまです、荻須といいます……」
一瞬悩んだが、本名と変わらない自分はともかく他の人は顔を合わせてゲーム内の名前で呼ぶのもどうかと思ったので名乗る事にした。
「私は魔法担当させてもらってます、「ミステラ」の市野巴(いちのともえ)といいます」
ふわふわの髪を揺らして市野は頭を下げた。
「えー、踊り子の「ルビィ」です!京橋るい子(きょうばしるいこ)と言います!よかったらるーちゃんって呼んでやって下さい!」
小柄な少女、京橋はぺこぺこと頭を下げながら言う。
「聖騎士「アストレイ」の……あまり変わらないけど「ウォートニー・アリストレイ」です……」
金髪の少女は背筋を伸ばしまま言った。
「あー、今後共よろしくお願いしますー」
「お願いしますー」
「お願いしまーす」
「お願いします」
四人揃って頭を下げ合うというとても日本人らしいやり取りの後、荻須は鞄をごそごそ漁ると携帯ゲーム機を取り出した。
「持ってます?」
「あ、持ってますよー」
他の三人もそれぞれに、ゲーム機を取り出した。
「集まってまでやる事がいつもと一緒ってのもアレだけど……」
「チャットいらないから連携取りやすいですよ」
「キダム砂漠行きましょーよ」
「キグ神殿の方が……」







 ガチャッ
「……」
ドサッ
荻須は自宅のドアを開けると無言で鞄を投げ出し、ベッドに身を投げ出した。
「た……」
慣れ親しんだ自分の布団の感触に包まれて脱力する。
「楽しかった……」
いけないことを言うようにぼそっと呟く。
女性である事で最初はどうしようかと思ったが画面を挟んでプレイをすると自然にいつものノリになり、そうなると自然に緊張も解けた。
緊張が解けると徐々にいつも喋っているメンバーと目の前の女性が一致し始めた。
いつものゲーム内のやりとりをするうちに「ああ、やっぱりこの人あいつだ」と思えるシーンがあるのだ。
元々画面内のキャラとあまり剥離のない容姿をしていたのでスムーズだった、アストレイは流石に慣れるのに時間がかかったが……。
そうして時間いっぱいまでとても楽しく過ごしてしまったのだった。
女三人男一人という普通なら居心地の悪くなりそうな構成で……しかも全く女性慣れしていない自分がこんなに肩の力を抜いて楽しめるとは予想外だ。
「あー、ほんとに……みんなめちゃくちゃ可愛かったなあー!性格も良さそうだったなー!ごぉぉぉぉめっちゃ自然に女の子と喋っちゃったよ……!」
ぱち、と布団の中で携帯を開き、写真を表示する。
そこに写っているのは自分とあの三人、ファミレスで寄り合って撮った一枚だ。
すごい構図だ、自分を中心に添えて三人が周囲に纏わり付くように身を寄せてピースサインなんかしている。
中心の自分が全然イケメンじゃないのに周囲の女の子のレベルが高すぎるので何か雑誌裏の胡散臭い成功者みたいだ。
自分はこの三人と楽しく過ごしたのだ、夢のようだが確かな確証がここにある。
(こんな可愛い子たちと俺が一枚の写真に収まる日がくるとは……)
しばらくにやにやと眺めていたが、ふと表情が暗くなる。
(あんな可愛いかったら……彼氏とかいるのかな……いるんだろうな……あ、やばい、鬱になってきた)
冷静になると浮かれていた自分が悲しくなってきた。
(……深く考えるのはやめよう、楽しかったのは事実なんだ……あ、これ以降ぱったりオフ会の誘いが無くなったらショックかも、あの場ではちやほやしてくれたけど実際は……あー、やめやめ)
ごろん、と寝返りをうって顔をごしごしと擦る。
(また誘ってくれたらいいな……)







 月も出ない都会の夜の路地
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