「カロロロロ……」
恐ろしい竜だった。
鋼よりも固い鱗に無数の切り傷を負い、満身創痍になりながらもその目に宿る闘争心は一向に失われた様子がなく。見る者の背筋を凍らせる殺意を撒き散らしている。
「あと一息です……頑張って!」
紫色の光の輝きを放つ杖を掲げ、風に紫紺のローブをたなびかせながら大導師ミステラが言う。
「いきます!」
掲げた杖が一際輝きを増し、竜を照らす。
「グォルルルルル!!」
竜が忌々しげな唸り声を上げる、如何なる魔法も武器も通用しないはずの強固な鱗がこの光によって弱体化されている事に気付いているのだろう。
「よーっしゃ!これで仕上げだよっ!」
腰布をひらめかせ、踊り子のルビィがステップを踏むと全身から真紅の光の粒子が放たれる。
中空を清流のように流れるその粒子は二人の戦士を包み込んだ。
「よし……!」
戦士の一人、黒い髪に切れ長の鋭い目を有した東洋の戦士オギスは全身に力が漲るのを実感し、絶刀「オロチ」の柄を握り締め、構えを取る。
「うん」
もう一人の戦士、白馬を思わせる純白の鎧を纏った騎士アストレイは金髪碧眼の端正な顔立ちに決意を表し、闘剣「アレス」を静かに構える。
「いくぞ」
「ああ」
二人が同時に腰を深く落す。
大きく足を開き、刀をかざすようなオギスの構え。
前後に大きくスタンスを取り、刃に指を添えるようなアストレイの構え。
発祥の違う技術体系でありながらその二人の動きは鏡のようにシンクロしている。
「「クロス」」
同時に呟いた瞬間、二人は閃光と化した。
空気を引き裂くような音と共に閃光となった二人の戦士が竜を貫く。
「ギュァァァァァァォォォォ」
地を揺るがす断末魔と共に轟音を上げ、遂に竜は倒れ付した。
「……」
「……」
長い戦いの終焉を感じながら二人の戦士は剣を収める。
もうもうと立つ土煙が晴れてくると地に長々と身を横たえた竜とその足元にあるものが見えてきた。
古びた大きな宝箱。
オギス、アストレイ、ミステラ、ルビィの四人はその宝箱へ歩み寄ると互いに顔を見合わた。
一度頷きあうと、全員で蓋に手を掛けて持ち上げる。
ギギギギギィ……
古めかしい金具の音を立てながら宝箱が開く。と、開いた宝箱の底から眩い光が溢れ出た。
「おお……!」
「これは……!」
・
・
・
「っしゃぁー!」
荻須隆文(おぎす たかふみ)はパソコンの前で思わずガッツポーズと同時に声を上げ、我に返って口元を抑えた。
時刻は深夜3時、あまり大声を出すと隣の部屋に迷惑になる。
「うわっ……て言うか3時か……長かったぁー……」
椅子にもたれてぐぐっと伸びをすると全身の関節がぽきぽきと鳴った、3時間も延々画面に集中していたのだから全身が凝っている。
「あー……でも……やったぞぉ……!」
ぐいっと画面に顔を戻して思わずニヤける。
画面に写っているのは一振りの長大な剣。
「神剣レーヴァンテイン」レア度★★★★★★
遭遇率が極端に低い上に最上級の強さを誇る「冥竜イデオン」から極希にドロップするマニア垂涎の一品である。
荻須はとりあえず仲間の賛辞に返信する。
ミステラ :おめでとうございます!
ルビィ :おめおめぇぇぇぇぇ!
アストレイ:やったね!
オギス :いやーありがとうございます!皆のお陰です!疲れた!w
ミステラ :まずい……明日仕事……w
オギス :あちゃー、付き合わせちゃってすいません
ミステラ :いえいえ、この機会逃したらいつエンカウントできるやらですからね
オギス :ミステラさんの援護無しだと絶対倒せなかったですからね……!しかし話に聞いてたけどマジで三時間も掛かるとはw
アストレイ:途中でバフ効果切れて体力ドットになった時は目の前暗くなったよ……三時間が水泡に帰するかと
ルビィ :てへぺろ♪
オギス :まあまあw三時間も集中してたらミスも出ますよw
アストレイ:にしても、やはりオギスさんは持ってらっしゃる……まさかレヴァがドロップするとは
オギス :びっくりだ……w運を全部使い果たした感
ルビィ :運を吸い取った感……!これからもついていきますぜ旦那うへへへへ
ミステラ :うへへへへ
アストレイ:うへへへへ
オギス :任せなさい(白目
荻須がプレイしているのは「ダークネスロード」というオンラインゲームだ。
昔はこの類のゲームを敬遠していた荻須だったが数年前ちょっとどんな感じか覗いてやろう、とログインしたのを皮切りに今では生活の一部のようになってしまった。
ゲーム内でもすっかりヘビーユーザーの一員である。
つい時間を忘れてのめり込んでしまう作りもそうだが、やはりそこはオンラインの特徴としてゲーム内での見知らぬ人々とのコミニュケーションが長くプレイさせる要因だ。
ミステラ :
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