ノーケンはスイを見ていた。
場所は街に借りている宿のそばにある森の中のちょっとした広場。
木漏れ日の朝日の中でスイは槍を持ち、構えている。
打ち込みを終えた所らしく練習着にたっぷり汗をかいている。
しかし呼吸は乱れておらず、その表情は凛としている。
「……スイ」
「ん」
「朝飯だぞ」
「おう」
ひゅひゅん、と槍を回すと肩に乗せた。
「大分馴染んできたんじゃないか」
「動かしてて気付いたんだけどな……この体、以前よりも動く」
「……そういや、魔物は人間よりも身体能力が優れてるんだったな」
「へっ……こいつも違和感あったんだが、やっと思うように重心とれるようになってきたしな」
そう言うとスイの背後の尻尾がゆらりと揺れる。
「……」
「どうした?」
「あ、ああ、いや何でもない」
元々美貌の持ち主だったが、ここ最近のスイはどんどん美しさに磨きが掛かってきている。
ちょっとした仕草でいちいち惑わされてしまう。ノーケンにしたら気が抜けない所だ。
「じゃ、俺は水浴び行ってくる」
そう言ってぐい、と額を拭う。
その拍子に顎をつたった汗の雫がすぅっと細い首筋を通り、練習着の合わせに滑り落ちる。
そういえば最近、胸元も大分目立つようになってきた。
「……」
「……」
「はっ」
気が付くとそこに視線が釘付けになっていた、それをスイがじーっとジト目で見ている。
「ごほん」
咳払いをして誤魔化そうとする。
「……覗くんじゃねえぞ?」
「覗かん!」
・
・
・
「ふぅ……」
スイは泉の水に火照った体を浸して息をついた。
この街は農産業が盛んというだけあって、中心部以外は豊かな自然に囲まれている。
この泉も街から出てすぐにある場所だ。
そしてどうやらこの泉はただの泉ではなく水の闇精霊ウンディーネの加護をうけた泉らしい、なので魔物の体にとっては非常に心地いいのだという。
確かにここに浸かると何かが補充されるような気がしてとても心地いい、そしてそれはスイの魔物化が定着していることを示す。
スイは何も纏っていない自分の体を見下ろす。
滑らかに白い肌、鍛えても華奢な肩幅や骨格は以前と大きく変わらない。しかしその胸は男と言い張るには無理がある程度にふっくらと膨らみ始めている。
そして足の間から下がっていた物がなくなり、代わりにぴっちりと閉じた割れ目が股間に出来ている。
男だった頃の名残というべきか、一般と比べて少々大きめの陰核が備わっている。
少し前までスイは変わってしまった自分の体を直視する事ができなかった。
こうやってまともに見る事が出来るよになったのはつい最近の事、具体的に言うとあのデュラハンとの一件以来だ。
認めるのは愉快ではないが、あのデュラハンとの会話がやはり影響しているのだろう。
(変化しても俺は俺か……いや……変化、というなら……)
濡らした長い髪に指を通しながらスイは物思いに耽る。
そうして沐浴をしているといつもあの時を思い出す、確かあの時も水浴びをしていて……。
「……」
自分でもあの時の事は不思議だ、以前のスイは女性のみならず性的な事柄にはすべからく嫌悪を抱いていた。
セックスとは汚らわしく、おぞましく、性欲は醜い。それまでの経験からそういった観念があった。
だからあの時ノーケンが自分を求めて来た時に自分は本来「結局はコイツもなのか」という感想を抱き、失望や落胆を覚えるのが普通だったはずだ。
ところがあの時スイの胸に去来したものは何か今まで感じたことのないものだった。
言葉にするなら許容とか、甘受と言えるものだったかもしれない。台詞に置き換えると「しょうがねぇなあ」とでも言うべき受け入れの気持ち。
それに混じって感じた嫌悪を伴わない羞恥。恥辱とは違った「照れ臭い」という感覚。
生まれて初めての感覚だった。
(そうだ……魔物になる以前からも俺は変わり続けているんだ、アイツに出会って変わったんだ)
「……んっ」
ぴくん、とスイの体が震える。
あの時を思い出すとこの体はすぐに反応し始める、下腹部がもやもやし始めて乳首がツンと勃ち上がり、肌がうっすらと紅色に染まり始める。
尻尾がうねり、水面をぱちゃぱちゃ叩く。
「くっそ……魔物の体ってやつは……」
この時はいつも言う事を聞かない自分の体に恨みがましい気持ちが沸く、しかし最近ではこの疼きに対する考えも変わってきた。
こういう感覚に陥るのはノーケンの事を考えている時ばかりだ、性的な事柄であっても幼少時の事を思い出すと体温が下がるのは昔と変わりない。
(だけどこれも……そういや……)
無意識に自分の体に指を這わせながら思い返す。
ノーケンとの二度目の出来事だ。
珍しく酒に酔っ払ったノーケンをからかってやろうと思い、足元の怪しいノーケンを宿の一室に引っ張り込んでそれっぽいロケーションを作ってやっ
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