「作戦志願か」
「はい」
教団領の兵舎前に建てられている小さなテント、その中の受付に座っている教団兵はテントの前に立つ二人を見た。
受付の前に立っている男は自分用に手を加えて軽量化した形跡の見られる銅の鎧を纏っており、腰には一振りのブロードソードを下げている
金の髪は綺麗に整えられており、貴族の血筋を思わせる品のいい顔立ちをしている。
しかしその手は剣を握る者らしくごつごつとしており、体格もそこそこいい。
何より温和な目の上にある眉を斜めに両断するような古い刀傷が年の若さによらぬ歴戦を伺わせる。
(……この男は問題ない)
受付の教団兵は思った。
魔物討伐の作戦は随時行われており、報酬を掲げて自由に参加を募っている。
参加の条件として面接を通るのだがあまり豊かとは言えないこの国周辺では報酬目当てに参加する者は多く、一人一人の経歴やら素性やらを詳しく詮索している暇は無い。
よって面接はほとんど試験官の第一印象で決まってしまう。
この目の前の男にはまず落とす要素は無い。問題は……。
教団兵はその男の後ろに立っている人物の方に目を移した。
どこかの民族衣装なのか見たことのない文様が描かれている衣装を纏い、肩に長い槍を引っ掛けて退屈そうにぶらぶらと足を揺らしている。
髪は草原を連想させる淡い緑、さらさらと手触りの良さそうなそれはかなり長い、腰まで届くのではなかろうか。
その髪の下にある顔はネコ科の生き物を連想させるつり目に鋭い三白眼、体の方も細いが獣のしなやかさを備えているのがわかる。
かなり若い、まだ成人する年を迎えていないように見える。
そして……。
「名前は」
「ノーケン・ブレヒンド」
目の前の男はすぐに答えた。
背後のは黙っている。
「……ぉぃっ!……」
前の男……ノーケンが後ろ手でせっつくとようやく口を開いた。
「スイ……スイ・ユンジュク」
ぼそりと言った。
「それでは二、三質問させてもらうんだがその前に……その、失礼を承知で聞くが、君は男かね?女かね?」
「く、くくっ」
背後の少年か少女かわからない人物はそう言われて小さく笑い出す。
ずっと地面に向けていた視線を初めて兵の方に向けた、正面から見てみると目付きは悪いが顔立ちは非常に整っているのがわかる。
「どっちだと思います?」
「それは……」
兵は困った顔になる、眼光の鋭さを見ると男っぽくも見えるが、全体を見ると美しい少女の顔にも見える、全体に華奢な体つきを見ると女っぽく見える、しかししっかりと引き締まっている様を見ると男っぽくも見える。
その声も高めなので女のような気がする、しかし声変わりを迎えていない少年ならあり得る声質で……。
「男です」
「あー、答え言うなよつまんね……」
兵が答えを出す前にノーケンが答えた。スイがぶつぶつ抗議する。
男である、と断定されたならなるほど少年だと認識できる、しかし言われなければ男だと答えられたかと言うと兵は自信が持てないのだった。
・
・
・
「俺もアレがいいな……」
「何が?」
「受付だよ、適当に人見て選べばいいんだろ?アレ、楽そうでいいからアレやりたい」
「面接を傭兵に任せる部隊がどこにいるんだよ……」
「ケチ」
「俺に言ってどうする」
兵舎の並ぶ駐屯地をぶらぶらと歩きながらノーケンとスイは駄弁る。
「他の仕事に比べりゃ魔物討伐も大分楽な方だろ、文句言うな」
「へーへー」
ちっとも真面目さの感じられない口調と態度でスイは同意する。
周囲には応募で集まった兵達が行き来している。経験豊かそうな兵からいかにも新米らしい兵、そして自分達と同じ素性の知れない傭兵達。
「はははっ!魔物なんぞこの斧で真っ二つにしてくれる!」
「いいや、一番の戦果を上げるのは俺だね!」
気勢を上げる兵達の一団をスイは冷めた目で見る。
「初々しいねえー……」
「……何だと?」
結構大きな声で言ったので耳に届いてしまったらしい、ノーケンは溜息をついて首を振る。
「あらぁん、聞こえちゃった?」
スイはけらけら笑う。
顔色を変えたその一団はぞろぞろと二人を取り囲んだ。
「初々しい、とはどういう事かな?」
一番体格の大きい男が剣呑な表情で聞く。
「あー、その、すまない、コイツ口が減らない奴で……後で言い聞かせておく」
「まっぷたつにしてくれるー♪」
どうにか穏便に事を済ませようとするノーケンだが、その背後からスイがニヤニヤしながら煽る。大男のこめかみにびきびきと青筋が浮かぶ。
「いい度胸だ女ぁ……いや男、か?」
「どっちでもいいじゃんウスノロ」
「な、何だとぉ!?」
「こらあ!そこっ!何をしている!?」
大男が斧に手を掛けようとした所で騒ぎを聞いた教団兵が駆けつけた。
「争い事を起こすなら隊から外れてもらうぞ!」
「すいません大丈夫です、ちょっと作戦を前に気が
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