コツッ……コツッ……コツッ……
チャラン、チャラン、チャラン、チャラン、
薄暗い階段に軽快な靴音と金属音が響く。
「〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜♪」
その音と同時にちょっと調子の外れた口笛も響く。
その明るい調子は石造りの壁に紫の魔力灯がともる重々しい場所の雰囲気に似つかわしくないくらいだ。
鼻歌の主は一人の女性、と言っても普通の女性ではない。
きっちりと礼服を着こなした体のそこかしからきのこがにょきにょきと生えている。そう、不思議の国の狂気の淑女ことマッドハッターだ。
チャラン、チャラン、チャラン
金属音を鳴らしているのは礼服の腰から下がっている大きな鍵束。
磨き抜いたようにぴかぴかで一本一本にやたらと凝った装飾が為されている。
そのマッドハッターが手元にある書類の束に目を通しながら石の階段を下りているのだ。
どうやら城の地下室に向かう階段のようだ。周囲の空気は風通しの悪い場所特有の湿気に満ちている。
コツ……
階段を下り切った所には扉が一つあった。
処刑道具「鉄の処女」を思わせる無慈悲な女性の顔が刻み込まれたその鉄の扉は密閉性が高く、中の様子は伺えない。
「〜〜〜♪」
マッドハッターは口笛を吹きながら腰に下げた大きな鍵束から扉と同じ女性の顔の装飾が彫り込まれた鍵を選び、差し込んだ。
カチャン……ギィィィ……
滑らかな回転で開錠が為され、重々しい音と共に扉が開く。
ぶわっ
と、扉の内側から濃密な魔力が生ぬるい空気と共に溢れ出た。
魔力だけではない、その空気に混じる匂いは性臭……男女のまぐわいの際に発される汗、精液、愛液の匂いも多分に含まれていた。
密閉されている空間の中に充満していたらしいそれはたちまち扉を開けた淑女を包み込む。
「♪」
しかしマッドハッターはその空気をまるで清風でも浴びるように涼しい顔で受け流し、扉の内に足を踏み入れた。
・
・
・
部屋はそれ程広いものではなかった、丁度宿屋の一室くらいだろうか。
壁はやはり石造りでそこかしこに設けてある窪みに置かれた魔力の蝋燭が薄暗く、怪しい光を室内に投げかけている。
ぴちゃ……ぺちゃ……ぬちゃ、にちゃ……くちゃ……
その部屋の中央に場違いに豪奢な大きいベッドがあった。
大人が五〜六人は余裕で寝転べそうなサイズのそのベッドには天蓋が設けられており、薄いカーテンでもって内側が隠されている。
ベッドの四隅では香が焚かれており、何とも言えない香りを放っている、魔界のハーブのお香だ。
ぐちゅ……ぴちゃ……にっちゅ……ぬちゅ……
そのカーテンの中からひっきりなしに水音が聞こえて来る。
どうやら部屋を満たす性臭も魔力も発生源はそこらしい。
「お、やっているな」
マッドハッターはそう言って微笑むとすっとベッドに近づき、天蓋から垂れ下がる紐を引いた。
するすると幕が上がり、中の様子が露わになる。
淫惨、そう称していいような状態だった。
豪奢な見た目に違わぬ柔らかそうなシーツの上では一見して何人かわからない程の人間が一つの肉塊のように絡み合い、蠢いていた。
どうやらベッドの上の一人の男性に複数の歳若い女性が群がっている様子だった。
特に股間に重点的に群がっている。
見れば大きく開かれた両の足に体を擦り付けながら肉柱の両側からじゅるじゅると横咥えにする少女が二人。
その足の間に小柄な少女が二人、左右の睾丸を分け合うようにしてころころと舐め転がしている。
両腕にも乗しかかる少女が二人、この二人は男性の両乳首に舌を這わせている。
そして男性の頭に逆さに覆い被さる形の女性は男性にキスとも呼べないような舌の交わりを行っている。
総勢七人、七人の女性と一人の男性が絡み合っている。
さらに観察してみるとその女性たちには例外なく羽と尻尾……サキュバスの特徴が備わっていた。
いずれもそのサキュバスの肢体に肌を隠す役割を放棄したような衣服を纏っていた。
肌が透けて見える薄い素材であったり、殆ど紐のような物であったり、乳房や秘所だけを露出するような物であったり……。
どれもこれも娼婦であっても着るのを躊躇うようなものばかりだ。
そのように淫らに着飾った女達が一人の男性に奉仕をしているのだ。
女性達は肌の色も髪の色もまちまちであり、統一性は無い、しかしそれぞれに美しい。
一見すると金に飽かせた豪族の淫らな遊戯のようにも見えるがそれとは決定的に違う箇所がある。
それは組み敷かれている男性の両手足がベッドに大の字に括りつけられている所だ。
肌を傷付けないように柔らかな布の上から紐で縛られているが、それは男性に一切の抵抗を許さない戒めの役割を十分に果たしている。
そしてもう一点が女性達の目、雇われた娼婦では有り得ない心の底から心酔した目。
唯一無二の恋人に対するような夢中の目をしていた、そしてそれぞれの奉仕に一切
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