「雰囲気違うなぁ……」
大島宏樹(おおしまひろき)は呟いた。
時刻は深夜一時、場所は学校の廊下。
普通、生徒が校内にいる時間では無いのだが大島は今日、ちょっとしたトラブルで校内に取り残されてしまったのだ。
説明するのも馬鹿らしい話だが友人と放課後にふざけて隠れんぼをして清掃用具入れのロッカーに入っていたらそのまま眠りこけてしまい。
携帯の振動で目を覚ますともう夜中だったという訳だ。
慌てて携帯で親に事情を説明し、「アホかあんたは」と小言を貰ったが今から教師に連絡してどうこうも面倒なので一晩そこでやり過ごす事になった。
ロッカーの中でぼんやりしていても何なので夜の校舎を散歩している所という訳だ。
「ん?」
と、窓の外を見た大島の目に何か動くものが映った。三階から見える学校のプールだ。
「……え、誰……?」
最初は水面で月光が揺れているだけかと思ったが、目を凝らして見ると確かに何かが水面の下を動いてるように見える。
「……」
こんな時間にプールで誰が泳いでいるのか。
大島はぶるるっと体を震わせた。恐怖心と好奇心が同時に湧き上がる。
(……だめだ、こういうのは正体を確かめないから怖くなるんだ……)
そして大島の中では好奇心が勝った。
・
・
・
一階の教室の窓を開け、こっそりと乗り越えて校庭に出る、何となくプールにいる存在を意識して音を立てないようにする。
校庭を中腰でそろそろと横切り、プールに向かう。
ぱしゃん
水音が聞こえて足を止める、やはり何かがいる。
心拍数が上昇する。
ちゃぷん……。
水音が止む。
プールは校庭よりも高い位置にあるので大島の姿はプールにいる存在には見えない、大島にもプールの様子はわからない。
「……」
足を止めたまま大島はさらに腰を落とし、地面を這うような姿勢でそろそろと足を進める。
ぽちゃん
また音がして足を止める、目の前にあるコンクリートのちょっとした階段をのぼればプールを囲う金網まで辿り着く。
階段に足を掛け、一段一段音を出さないように細心の注意を払ってのぼる。
ぱちゃん
どう聞いても何か大きなものがプールで泳いでいるような音だ。
大島は階段に這いつくばるようにしてこっそりと段差の上に頭だけを出して覗き見てみた。
青白い月光に照らされるプールサイドが目に入る、音の発生源は今、水中に潜っている最中だろうか。
腰が痛くなりそうな姿勢で大島はじっと顔半分だけを段差から覗かせて金網の向こうのプールを見つめ続ける。
「……」
「……」
どのくらいそうしていたか、随分長くそうしていたように感じる。実際にはそうでもないかもしれないが、大島の額には大粒の汗が浮かんでいた。
(……気の……せい……?)
いい加減そう思い始めた時だった。
ちゃぷん
プールの水面から飛沫があがった。
大島はひっ、と声を上げそうになるのを堪えた。
いた、何かが……。
全身から汗がどっと噴き出る。
ぱしゃあん
「……っっ!」
「それ」が水面から姿を現した。
女性だ、一人の女性が飛沫を上げて水面から上半身を出したのだ。
青白い、とても青白い肌をしていた、最初は月光に照らされてそう見えるのかと思ったが、違う。
肌が青白い色をしているのだ。
月光の中でその女性はプールサイドに肘を付いてほう、と息をついた。
「ぁ……ぁ……」
大島は思わず声を漏らした、その声にぴく、と反応して女性がこちらを向く。
濡れて光る長い黒髪、人形のように奇麗に整った顔立ち、普段どこかとろんとしたような瞳が今は驚きに大きく見開かれている。
「う……魚住(うおずみ)さ……」
「……おおしま……く……」
それ以上何と言葉を発していいかわからなかった。
同級生の女子生徒が夜中にプールで泳いでいて、なおかつ青白い肌をして頭から奇妙な角のような物を複数生やしているのを目撃してしまった時。
何と言えばいいかなんて若い大島にはわからなかった。
若くなくても多分わからなかった。
例えばこの時、この異形のクラスメイトがプールから飛び出し、こちらに向かって這い寄って来たならば大島はホラー映画のような悲鳴を上げて逃げ出した事だろう。
しかし、そのクラスメイト……魚住清(うおずみ きよ)がその時取った行動はと言うときゃっ、と声を上げて胸元を隠す、という年頃の女の子そのものの行動だった。
なので大島も年頃の男の子らしく「ご、ごめん!」と謝って後ろを向いて魚住の方を見ないようにした。
「……見ました、か」
「み、見てないよ、はっきりとは……!丁度手に収まりそうな綺麗なおっぱいとか……!」
「み、見てるじゃないですか……あ、いえ、そっちではなくて……いえ、そっちも恥ずかしいですけど……」
うろたえた声が背後から聞こえる、その声を聞きながら大島も果たして自分がどきどきしているのはクラスメイトの裸を見て
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