ソランは広いベッドの上で目を覚ました、手を一杯に広げても端に届かないくらい広いベッドだ。
こんなに柔らかいベッドで寝るのはどのくらい振りだろう。
「・・・」
夢見心地だった脳に沁み入るように記憶が蘇り始める、魔物だ、自分はあの美しい魔物に倒されたのだ、・・・何故戦っていたのだろう?確か・・・そうだ、あの魔物はコンラッドを攫ったのだ、だから取り返そうと・・・戦う前に魔物は何か言った、その一言に自分は激昂したのだ、あの魔物はコンラッドを・・・コンラッドを・・・。
ソランは身を起こした、いつも燃えるような輝きを放っていた蒼い瞳は輝きを失い、人形の目のようだ。
ここはどこだろう。
見回してみると知らない寝室だった、自分が寝かされていたベッドは思った以上に大きく、しっかりとした造りのものだった、ベッドの傍らにはサイドテーブルがあり、その上のランプが部屋全体に優しい光を投げ掛けている。
あの状況からどうやって助かったのだろう。
そこでふとソランは気付いた、体の何処にも痛みを感じない。
掛けられていたシーツをどけて自分の体を見てみるとパジャマのような衣服を着せられていた、自分の知らない服だ、そしてあんな傷だらけだった体は最初から何もなかったかのように完治している。
そこでソランは状況を理解した、恐らく自分もあの魔物に捕えられたのだ、このように短時間で跡形もなく傷を完治させるような治癒魔法を使える者は滅多にいない、そして恐らくあの魔物なら可能だ、何故自分の怪我を治療し、拘束もせずにベッドになぞ寝かせていたのかは分からないが。
その時部屋のドアが開き、空色のセーターを着たジュカが現れた。
「おはよう・・・まだ夜だから今晩はかな、気分はどう?」
「・・・」
ソランは何も答えない、ただ、ジュカに虚ろな視線を寄こしただけだった、体中から生気が抜け落ちている、肌は青白く血の気を失っており、美しいだけに精巧にできた人形のようにも見える。
ジュカはそのソランの目をしっかり見ながら言った。
「コンラッド君は生きているよ」
ぴくり、とソランが反応を示す、しかし瞳は虚ろなままだ。
ジュカはそっと半開きだったドアを開ききる。
部屋の外に、コンラッドがいた。
「コン・・・」
掠れた声でソランは呟いた、目の前の状況を理解しきれない様子だった。
「ソランさん・・・」
コンラッドが呟いた。
その瞬間、ビー玉のようだったソランの瞳に蒼い輝きが灯った。
「コンラッド、君」
みるみるソランの体に生気に満ち始め、霞掛っていた頭が目覚めたように回転を始める。
「コンラッド君!」
叫ぶと同時に先程の青白さが嘘のように全身に血が通い、艶やかな肌色を取り戻す。
ジュカは嬉しそうにその様子を見ていた。
ソランは胸が喜びと安堵で一杯になり、一瞬何もかもが決壊しそうになる。
しかし、思慮深さを取り戻した頭脳が感情の爆発を押し留める、コンラッドは無事だった、無事だったからこそ二人で生きて帰るために冷静に思考せねばならない、未だ危機は去っていない、再会を喜ぶのはこの危機を脱した後だ。
ソランはコンラッドの姿を観察した、見る限り危害を加えられた形跡はない。
「ふふふ、安心した?」
ジュカはそう言うとコンラッドを部屋に入れてドアを閉めた。
この魔物は一体何を考えているのだろうか・・・?
ソランは相手の意図を読もうと思考を巡らせるが、見当もつかない。
その時、コンラッドが言葉を発した。
「どうして・・・来たんですか・・・」
ソランははっとしてコンラッドを見る、悲しそうな顔をしている。
「何で・・・」
ソランは痛い所を触られたように顔をしかめ、俯く。
独断で先行し、無謀な戦いを挑み、挙句捕えられてしまった、自分の行為は明らかに騎士の模範を逸脱している。
「俺一人なんかのためにどうして・・・ソランさんは勇者としていだだだだだ!」
何事かと顔を上げるとジュカがジト目でコンラッドの脇腹をつねっていた。
「に〜ぶ〜ち〜ん、何でかわかんない?」
「だだだだだ何でお前が怒るんだ!?」
「同じ女として納得いかないの!」
「や、やめてあげて!?」
「おおっと動いちゃダメだよ♪」
思わず止めに入ろうとするソランを見てジュカはつねっていた手を離し、コンラッドの背後に回り込んで首筋に指先を這わせる。
「おとなしくしててね〜」
「・・・!」
ジュカの見た目からは想像もつかない強さを知っているソランは青くなる、ジュカがその気になれば素手で人間の首を飛ばすことなど容易い。
無論、ジュカはコンラッドを傷つける気など毛頭ないが、魔物は人を害するものと認識しているソランは抵抗できなくなる。
ソランは心を落ち着かせる事に努める
意図はわからないがこの魔物は自分達を傷付ける気はないようだ、今のところは言う事を聞いて隙を伺うしかない、少なく
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