堕落の教会

 
 瞼の裏に日差しを感じ、目を開くと見慣れた天井が目に入った。
木造りの年季の入った天井。
簡素なベッドから身を起こし、ぐぐ、と伸びをする。
ぽきぽきと全身の関節が鳴り、ふわりと香油の香りが鼻をくすぐる。
いい目覚めだ。
頭は澄み渡り、身体は軽い。
ベッドから身を起こし、窓を開けると朝の澄んだ空気と鳥のさえずりが部屋に流れ込んだ。
その空気を大きく吸い込み、コルトーニはしばし朝日を眺める。
ああ、よく寝た。
昨日はーーーーー



コンコン、と部屋にノックの音が響く。
「神父様、お目覚めですか?」
同時に聞こえたドアの外からの声にはっと我に返る。
いけない、朝からぼんやりとしてしまった。
「ああ、おはようマリーニ……すまない、少々寝過ごしてしまったようだ」
「ふふ、ねぼすけさんですね」
急いで乱れた寝間着を整えて部屋を出ると、修道服に身を包んだ少女が笑顔で迎えた。

 ミチッ……
#9825;

「すぐに朝のミサを……」
「その前に、湯あみをしてはいかがですか?準備できていますよ」
「ありがとう、そうさせてもらうよ」
言葉に甘えて浴室に向かう。
朝日の差し込む浴室では浴槽に張られた湯が湯気を立てていた。
昔はこのような贅沢な湯あみはできなかったものだが、少しばかり懐に余裕が出来た時真っ先に浴室の増築を考えた。
何しろこの教会には自分以外は年若い女性のシスターばかりなのだ。
なにより衛生環境を整えてあげたかった。
そして、コルトーニ自身も湯あみは好きなのだ。
ざぶりと湯を被ると、身に纏っていた香油の香りが浴室に広がる。
洗い流すのが勿体ないくらいにいい香りだ。
高級な品なのだろう。
そう、高級な……。
そういえばこの香油はどうやって手に入れたのだったか。
極貧ではないとはいえ、高級品を日常的に使える程ではなかったはず。
それをこんなに贅沢な使い方を……?
昨晩はーーーーーー



 ぴちょん。
首筋に落ちた水滴で我に返る。
いけない、まだ寝ぼけているのかもしれない。
眠気を飛ばそうと、石鹸で身体を隅々まで洗う。
「……ううむ」
コルトーニは視線を下半身に落とすと小さく溜息をついた。
寝起きだから、というのもあるだろう。
だが、いくら何でも元気が過ぎるのではないだろうか。
隆々と天をつく自らの陰茎を極力刺激しないよう洗いながらコルトーニは頭から雑念を追い払おうとする。
自分の中の感情を直視しないように。
朝のマリーニの姿を、思い出さないように……。
「全く、度し難い」
戒めるように呟き、ぴしゃりと自分の頬を張る。
湯あみを終えて浴室を後にしたコルトーニが礼拝堂に向かうと、既に皆が揃って席に座っていた。
「おはようございます」
「「「「「「「おはようございます」」」」」」」
コルトーニの挨拶に応える七人の挨拶。
その全ての声が高い、少女の声だ。
皆の前に立って一つ咳ばらいをするとコルトーニは喋り始める。
「えー、まず、寝坊をした愚かな神父への赦しを神に祈ろうか」
ふふふ
くすくす
軽い調子で言うとそこかしこから笑い声が上がる。
にっこり笑うと、コルトーニはミサを始める。
決して大きくない教会に、少女のみで構成された讃美歌が美しく響き始める。
神聖な歌声に心が浄化されーーーー

 むにゅぅ
#9825;

 コルトーニは素早く少女達から視線を逸らし、教会の数少ないステンドグラスに視線を移す。
少女達を視界に入れないように。
腹の内に滾る、不浄な炎を決して掻き立てないように……。
朝のミサが終わり、朝食の時間になる。
長いテーブルに皆でつき、軽いお祈りの後食事が始まる。
豆のスープにパン、サラダ。
質素ながらちゃんと量があり、滋味のある食事。
コルトーニは感謝を胸に味わう。
そう、食事の時間には過去の厳しい時期が最も思い起こされるのだ。







 よく覚えている。
神父になり立てのコルトーニがまだ業務に四苦八苦していたとある日。
七人の少女達がこの教会に転がり込んで来たのだ。
ぼろぼろのみすぼらしい恰好の少女達を前に戸惑うばかりの自分に、七人を代表するように一人が助けを求めた。
「お願い!助けて!」
皆の中で一番長身の黒髪の少女、マリーニだった。
「いたぞ!」
「こっちだ!」
その声の直後、大勢の男達が教会に押し掛けた。
殺気立った男達と怯える少女達の間に割って入ったのはもはや神父としての使命感以前の感情だった。
詰め寄ろうとする男達を何とか抑えながら事情を聴くと、どうやら少女達は街のストリートチルドレンだという。
徒党を組んでスリや窃盗を繰り返していたのだ、と。
腹に据えかねた住人達が捕まえようとした所、ここに逃げ込まれたという事だった。
言葉を信じるならば、非は彼女達にある。
だが、コルトーニはここで素直に少女達を渡す
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