武運長久

 体と体が触れあう時。
それは常に危険な時だった。
剣の間合いの内側でのやり取りは、最も命がひりついている瞬間だった。
そう。
戦い以外で他人と触れ合う機会などなかった。
全てを委ねていい相手と、身体の温度を伝え合う。
それを想像した事が無いかと言えば嘘だ。
それはきっと幸せで、満たされていて、安らかで……。
そして今、実際にそれを経験して想像との違いを実感した。
それは死に抗う高揚と似て非なる……いや、真逆の高揚。
命の高揚。
生き物の根幹に根付く、死を回避する本能と比肩する程に強い種を残そうとする本能。
しどけなく自分の下になっているディムを見ると、その本能が強烈に脳を焼く。
はあ、はあ、と息が乱れる。
何百何千と剣を振ろうと息一つ乱さない自分がだ。
見ると、薄い衣を纏った彼女の胸元も大きく上下している。
彼女も同じようだった。
生半可な運動ではびくともしない心肺機能を備えている彼女が、息を弾ませている。
その目は大きく見開かれ、自分の顔を脳に焼き付けようとするかのように輝いている。
美しい。
やっぱりディムは美しい。
あの決闘の時に見たディムは死の美しさだった。
自分が死ぬ運命も、自分が死をもたらす運命も等しく受け入れた。
女神のような美しさ。
対して、今は生の美しさだ。
命の希望と喜びに全身が満ちて、きらきらと輝いている。
ただただ、幸福を享受しようとしている。
こんなにも、こんなにも愛しい人を相手にして、こんなにも幸福な瞬間を迎えて。
俺は。
俺は。

 ど、どうすればいい……?

 トエントは固まった。
情熱的なキスの後、勢いに任せてベッドに押し倒したはいいが、そこから動けない。
何しろ初めてだ。
加えて、ディムに対する愛しさが溢れるあまり、逆に怖くなった。
下手な真似をして嫌われないだろうか、呆れられないだろうか……。
ああ、そうこうしているうちに何せずに固まっている自分に変な目を……。
「緊張、してます、ね」
ディムは呆れてはいなかった、怪訝そうにもしなかった。
ただはにかんだ。
「私も、緊張、します……それ以上に……興奮、します……」
下から手を伸ばすと、トエントの髪と頬に触れる。
「何も遠慮はいりません、思うまま、欲のままにして下さい」
「そうでなければ……」
にぃ、とディムの口角が上がった。
「私に襲われてしまいますよ」
優しく頬に触れていた手ががしりと肩を掴み、くるん、と体勢をひっくり返される。
細くも、鍛えらえれた指がトエントの身体の輪郭を確かめるようになぞる。
「ああ……こんなに、練り上げられて……私のために、こんなに……」
恍惚とした表情で呟きながら、トエントの隆起した筋肉にうっとりと触れる。
そう、この一年間、死に物狂いで鍛えたのはあの戦いのため。
つまりこの身体はディムの為に作られたと言って過言でない。
そして、それはディムもそうなのだろう。
改めて自分の上に跨るディムの姿を見る。
一年前よりも明らかに引き締まり、絞られた身体。
それは戦士の身体でありながら、それでも女の身体だった。
そしてその髪。
以前は腰まであって、今は肩までになっている髪。
どんな思いで切ったのかはわからない。
ただ、そこには今から死地に向かう覚悟が絡んでいたのは間違いない。
女の命である髪を落とし、自分と共に命懸けで踊るために作られた身体。トエントの為だけの身体。
そう思うと、細かい考えは脳内から消し飛んだ。
がしっ
「ひぁっ」
どうすればいいかわからず彷徨っていた両手が、ディムの臀部を鷲掴みにした。
柔軟な筋肉が、柔らかくその手を受け入れる。
その弾力をひと揉みふた揉み味わうと、右手が上半身に登って来る。
するりと薄衣の下に入り込み、左の乳房をぎゅう、と揉みつぶす。
「は、ぁっ」
一転して乱暴とも言える動きに、しかしディムは明らかに甘い声を漏らす。
「優しくなんかできんぞ」
その奥に抑えきれない獣性を潜ませた低い囁きが、ディムの鼓膜と子宮を揺らす。
トエントは笑っていた。
しなやかな捕食者の浮かべる狂暴な笑みだった。
金色の髪の下で、爛々と碧い目が輝いている。
ディムはその表情を見た瞬間、ぐじゅりと下半身が溶けるような感覚を味わう。
その一瞬で再び体勢をひっくり返され、組み敷かれていた。
トエントが乱暴に衣を脱ぎ捨てると、神話に出て来るような肉体が露わになる。
それに見惚れる暇もなく、素早くディムの衣も剥ぎ取られる。
鍛え抜かれた雄と雌の二匹がそこにいた。
「ぅ、わぁ……」
ディムが思わず声を漏らす。
トエントの猛々しいとしか言いようのないそこを目にしたからだ。
大きい。
長い。
太い。
あんな、あんなものが……。
ぐい、とトエントがディムの腰を抱き寄せてそれを腹に密着させる。
熱した鉄のような熱さが下腹部に触れる。
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