聡はただ真子に手を引かれるがままに付いて行った。
頭の片隅で実はこのまま警察に突き出されるのではないかという考えもよぎったが、それならそれで構わなかった。
未遂とは言え、自分はもう犯罪者なのだから。
が、予想に反して真子は本当に自分の家に連れて来たようだった。
(ここだったんだ……)
街のどこからでも見えるほど高い高級マンション。
どんな金持ちが住んでるんだと日頃から思っていたが、まさか真子が住んでいるとは。
真子は聡の手を掴んだまま慣れた手つきで暗証番号を入れてオートロックを開錠する。
エントランスの広さに驚いてきょろきょろしている聡を引っ張ってすたすたとエレベーターに乗った。
チーン
「……」
「……」
「……すごいとこ住んでるね」
「はい」
「……」
「……」
チーン
エレベーターの中での会話はそれだけで、手はずっと繋いだままだった。
その手が離されたのは部屋に着いて鍵を開け、「どうぞ」と招き入れられた時だった。
玄関から廊下まで、流石に庶民の住む場所とは違うと感じたが、少し違和感も感じた。
生活感が薄い。
絵や写真の一つも飾られておらず、小物という小物も無い。
モデルハウスだってもう少し生活感を演出するだろう。
その感覚は真子のがらんとした自室に案内されてより顕著になった。
普通は女の子の部屋にお呼ばれなんてドキドキものの体験であろうに、聡の脳裏には先程の真子の話が蘇っていた。
「……では、これからシャワーを」
「ちょちょちょちょちょ、待って!待ってくれ!」
「何ですか急に慌てて」
「何だこれ?どうするんだ?どうする気だ?」
「どうするもこうするも無いでしょう、今から一発キメる以外あるんですか」
ひどい言い方である。
「そ、そんな流れだった?」
「そんな流れでしたよ」
「だって俺……その……男だよ!?」
そうだ、真子は生粋のレズビアンであり、女性以外と付き合った事はないはずだ。
「お兄さんなら何となくいけそうな気がします」
「ええっ」
それは正直に言って嬉しい、嬉しいがおかしい。
「お兄さんは男ですよね?」
「そ、そうだよ」
「だったら男らしく腹を括って下さい、そもそも私みたいな美少女とヤレるんですから有難く思って下さい」
「言い方ぁ……」
「部屋を出て右手にシャワーがありますから使って下さい、私はもう一つの方を利用しますので」
「えっ、シャワー二つもあるの!?」
「あります」
「セレブだなあ」
「セレブですとも」
変なやり取りの後、真子はさっさと部屋を出て行ってしまった。
少しの間唖然としていた聡も仕方なく言われた通りに部屋を出てシャワーに向かった。
ホテルのようなガラス張りの構造に驚愕しつつ、ごそごそと脱いでシャワーを浴びる。
熱いシャワーで体を流すと気持ち良かったが、さっぱりすると同時に今の状況にようやく頭が追い付き始める。
「どうしよ……」
予想外の展開すぎる。
そもそも彼女の考えがわからなすぎる。
何を思って自分と事に及ぼうなどと考えたのか。
自分ならいけそうってどういう心境の変化なのか……。
わからない。
分からな過ぎて、もう考えても無駄な気がして来た。
開き直って役得だと思って楽しんでしまえばいいのかもしれない。
だが、自分は由緒正しき童貞だ。
楽しもうにも緊張が先立つ。
「くそっ」
どうとでもなれ、誘ったのはあっちだ。
彼女は何しろ経験豊富なのだから、きっとリードしてくれるに違いない。
あんな目ん玉飛び出るような美少女に筆おろしをお願いできるなんて幸運じゃないか……。
そう考えようとするが、心臓のバクバクは止まらない。
それはそれとして下半身の方は元気なので、男と言うのは現金な物だと思うのだった。
・
・
・
自分はお兄さんの事が好きなのだろうか?
シャワーを浴びながら真子は自問自答する。
……それほどでもない、と、思う。
少なくとも、奈津美と比べたら明らかに奈津美の方が好きだ。
性的な魅力も圧倒的に奈津美の方に感じる。
なら自分はどうしてこんな真似を?
代用か?
もうどうあっても結ばれない事がわかってしまった奈津美との繋がりが欲しくて、彼女の兄に繋がろうとしている?
それが一番「自分らしい」と感じる。
本質的には卑しい自分が考えたせめてもの妥協案。
男に体を許す事を我慢するだけで、彼女の傍にいられるなら……。
それだけ?
わざわざその手段でなくとも、彼女との交友関係を続ける事は出来るだろう。
もっと効率的な方法がいくらでもある。
そもそも最近の自分の行動はおかしい。
他人の事情に踏み込むのは本来嫌いなはずなのだ。
そんな自分が気にくわないというだけで、聡の母にあのような「私刑」を決行した。
しかも手切れ金まで用意して。
裕福とは言ったって無限にお金があるわけではないのだ。
相当に
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