前編

 「あ、ど……うも」

「お邪魔してます」

夏の猛暑がやわらぎ、虫の鳴き声から秋の気配を感じる季節だった。
学校から帰って玄関で靴を脱いだ中垣 聡(なかがき さとし)はそこで鉢合わせた人物にたどたどしい挨拶をした。
相手は表情一つ変えずに返事をする。
思わず竦み上がる。
別に睨まれた訳でも嫌な顔をされた訳でもない。
前述の通り、相手は無表情だ。
むしろ状況としては相手の方が自分の家にお邪魔しているのだから、こちらが挙動不審になるいわれはない。
だが、それでも気負いを感じさせるのはその少女の顔面偏差値の暴力。
ほっそりとした顎に首、通った鼻筋に小ぶりな鼻梁。
ぱっちりとした目に黒目勝ちな大きな瞳、それを彩る長い長い睫毛。
小さく、リップを塗ってもいないのにほんのり色づいて艶やかな弾力を示す唇。
その小顔を縁どる黒髪は、少しの動きでも天使の輪が輝く光沢と艶を有している
それは例えば女の子が化粧をする時に追い求める「完成形」。
そして過度に完成され、崩れた部分が無いが故の「愛嬌」の欠落。
それが相手にプレッシャーを与えるのだ。
視線を下げて見ると、その黒を基調にしたほんのりゴシック調の洋服に飾られる肉体もそうだ。
華奢な肩に、つんと上を向いて女性を主張する膨らみ。
細く、長く、整えられたネイルが良く似合う指。
日本人離れした高い位置の腰から伸びる長く、ほど良い肉付きのスレンダーな足。
女性の憧れを一部の隙も無く凝縮した存在。
それが白木 真子(しらき まこ)という少女だった。
ぺこ、と小さく会釈すると真子は妹のいる二階へスタスタと上がって行った。
無意識の緊張を解いて聡はため息をついた。
真子は妹の奈津美(なつみ)の同級生で友人だ。
時折こうして家に遊びに来るのだが、その度に聡は奇妙な緊張を強いられる。
それは、彼女の並外れた美貌だけが原因ではない。
聡は部屋に引っ込むとなるべく音を立てないように過ごし、玄関の開閉音で察して部屋から顔を出した。
「……帰ったか?」
「んー、帰ったよ」
「そっか……」
奈津美は部屋から顔を出している兄を不審そうに見る。
「兄ちゃん、もしかしてマコの事狙ってる?」
「何でそうなるんだよ?」
「家来るたびにめっちゃ意識してんじゃん」
「そりゃあ、あんだけ美人だったら思わず見るけど……狙ってるとかじゃねえし」
「そう?ならよかった、あの子兄ちゃんの事なんか完全に眼中にないから」
「言い方ぁ……」
そんな事はわかってる。
それは聡の見た目が冴えないからとか、そういう問題ではない。
学年が違ってもあれだけの容姿だ、下級生に凄い可愛い子がいるという噂は知れ渡っている。
そして、もう一つの噂も。

 白木真子は、同性愛者であると。

 最初に聞いた時には彼女に振られた男がやっかんで根も葉もない噂を流しているのだと思った。
だが、聡はそれを見たのだ。







 「んっ……んん……ん……」
放課後、学校の美術室に忘れ物を取りに戻った時だ。
聡がドアに手を掛けて開ける直前、異変に気付いて手を止めた。
猫の鳴き声かと思ったが、どうも、中から聞こえるのは人間の声のようだ。
たちまち脳内があやしい妄想で満ちたが、まさか、とも思った。
だが、忘れ物は取らなくてはいけない。
正体を確かめるため、窓からこっそり中の様子を伺った。
「……っ!」
息を呑んだ。
中で行われていたのは本当に想像の通りの光景。
ただ、想定外だったのはその二人共が女子の制服を着ている事だった。
一人が机に両手を付き、もう一人がその上から覆い被さっている。
「うっ……くぅぅん……」
その上に覆い被さる方が下から手を回し、服の中に手を差し込んでいる。
その手が蠢く度に下の女の子が子犬のような鳴き声を上げるのだ。
角度から二人の顔は見えない。
しかし責めを受けている女の子の小鹿のように震える膝はよく見えた。
AV以外のリアルで初めて目にする性的な事情としては余りに刺激が強すぎる光景。
聡の頭には瞬時に血が上り、耳鳴りがするほどに顔が熱くなった。
「……っっ!」
と、次の瞬間責めている側の女の子が不意にこちらを向いた。
目が、合ってしまう。
全身に鳥肌が立った。
覗きがバレてしまった動揺より、その少女の余りの美しさと妖艶さに意識を完全に持っていかれる。
少女は明らかにこちらを認識していたが、全く慌てる様子もなくこちらを見つめている。
そしてすぐに興味を失ったように目を逸らし、下になっている少女の下腹部から手を引き抜く。
「あんむ、んむぅ、ちゅ、むんん」
そして、濡れて光るその指先を少女に咥えさせる。
少女は自分の蜜を舐めさせられながらくぐもった嬌声を上げ続ける。
そうして指を舐めさせながら、首筋にちゅ、ちゅ、とキスを落としていく。
その度に嬌声は跳ね上が
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