シングルマザー


 「やっぱり野球部の青山君じゃない?」
「んー、でもちょっといかつ過ぎない?剣道部の横道君の方が……」
 昼下がりの教室。
ざわめきの中で交わされる、あの子とこの子が付き合ってるらしいだとか、あの男子はアリかナシかというような、どこででも交わされる女子達の恋バナ。
それを横目に吉川由美(よしかわ ゆみ)はぼんやりと携帯を弄っている。
「ね、ユミはどう思う?」
「んー……どうかなあ……」
水を向けられても気の無い返事をする由美に友人達は苦笑する。
「ユミっていつもそうだよねー、一番モテそうなのにそういうのに興味ないの?」
「無いって訳じゃないけどお……」
友人が言うように、由美の容姿はかなり男受けのいいものだ。
目鼻立ちがはっきりして気の強そうな美貌に、腰の細さに反してやたらに豊かな胸や尻。
それに続く肉付きのいい太腿からすらりと長い足。
染めずとも少し赤みがかった艶のある髪も、染み一つなくすべすべした肌も、友人からどう手入れしているのかといつも羨ましがられる。
事実言い寄って来る男も相当数いるのだが、由美はどんな相手でもすげなく断っている。
そんな様子から実は女が好きなのだとかの噂が立てられたりしているが、由美にそのケは無い。
「まー、まだいいっしょ、そういうのは」
最初は色々詮索してきた友人達も、恋愛話に関してはいつもそんな調子の由美にはその手の話題は振らなくなった。
ノリが悪いだの、サバサバ気取りだの、裏で色々言われている事も知っているが由美にとってはどうでもいい事だ。
少し退屈で平和な学園生活が乱されない程度の交友関係を持てればそれでいいのだ。







 「ただいまー」
「おっかえりー」
帰宅した由美を台所の母が背中で迎える。
帰って間もないらしく、リビングのソファーの上にスーツが置きっぱなしになっている。
「あーもー、スーツ皺になるから放るなっつってんじゃんもー……」
「あ、ごめんごめん、洗濯機入れといてー」
溜息を吐きつつ洗濯機に放り込む。
どうせアイロン忘れるから干し終わったら後でやっとかなきゃ、と思いながら。
「もうできるよー、久々っしょお袋の味」
フライパンを振りながら言う母の言葉で、卓上に皿を並べ始める。
二人分だ。
「珍しく早かったじゃん」
「今の時期はそんな忙しくないからね、また暫くは作れるから」
「ありがたーい、やっぱ自分だと不味いんだよね」
「練習しな?男捕まえるんだったらやっぱ胃袋からよ?」
「あー、それはそのうちにー」
「んもー、真面目にやる気ないでしょどうせ」
「わかる?」
皿に盛り付け、二人で食卓で向かい合って手を合わせる。
「「いただきます」」







 由美に父親はおらず、デザイナーとして働く母に女手一つで育てられて来た。
小さい頃はその事を少し気にした事もあったが、それによって不自由を感じた事も無い。
それに母と共にその親戚や叔母や伯母も可愛がってくれた。
父の事を聞いた事もあるが、母は曖昧な態度ではぐらかすばかりだった。
娘に言いたくない事もあるのだろう、増して父がいない理由なんて。
離婚かな、と由美は想像し、今ではそれを母に聞かないようにしている。
何より、父親なんていなくても由美は十分に幸せだった。
母は夫がいない事を嘆いたり寂しがったりする様子も見せず、常に懸命に働き、家事をこなしている。
それでいてちっとも苦労しているように見えないのだ。
本当は大変なはずなのだが生活に疲れた様子はなく、常に若々しい。
というより、若すぎる。
そのスタイルは成熟しきっていながらまるで十代のような新鮮さを失わず、自分の方が嫉妬を覚えるほどだ。
一度冗談で学校の制服を着てもらった時は似合いすぎて由美が真顔になるほどだった。
自分も母のようにかっこよくていつまでも若い大人になりたい、と常々由美は思っているのだった。







 「はー……」
夕食を終え、風呂も済ませた由美は髪を拭きながら自室に戻った。
見かけによらず(と言われるのも不本意だが)真面目な由美は少しの間机に向かって予習復習を済ませると、ベッドに横になってスマホを覗く。
「……」
ちょっとゲームをした後、適当なニュースを流し見していると、もう遅い時間だ。
そろそろと思い、充電してから布団を被る。
「……」
「……」
「……」
もそ、と起き出す。
(もう……今日はやめようって思ってたのに……)
消していたスマホをまた立ち上げ、画面を開く。
ネットを検索する。

 「魔tube」

 通常、子供にスマホを持たせる時にはそれ相応のセキュリティを掛けるのが普通だ。
だが、由美の母はそういう方針なのかあるいは無頓着なのか、検索に制限もかかっていなかった。
そうして由美はいわゆる耳年増になったのだが、最終的に落ち着い
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