オギスの目の前にあるのは巨大な門だった。
両端に豊満な女性の像が寄り添うように立つ豪奢な作りをしている。
しかしこの門の向こうにあるのは城でも砦でもない。
地下へと続く通路が真っ暗な口を開けている。
そう、これこそは噂に聞いたダンジョン、「絆の試練」
「よーし、準備はいい?」
東洋の装備で身を固めたオギスは振り返って言う。
「もちろんだ」
「いいですよ」
「おっけー♪」
頼れる三人の仲間が返答する。
実力は頼れるのだが、見た目はすごく頼りない、物理的に。
「よ、よし!行くぞ!」
三人の身体から無理やり視線を引き離してオギスは門を開いた。
ゴゴォン、という重厚な音と共に現れたダンジョンの入口は……。
「うわっ!?」
思わずオギスは身構える。
大広間のような空間の中央に誰かが立っていたからだ。
まさかしょっぱなからボスが現れるはずはないと思っていたが、その立っている人物はどう見ても味方という風には見えない女性型の魔物だった。
恐ろしく整った美貌に、扇情的で禍々しい装いの白髪の魔物。
もっとも、扇情的という意味ではオギスのパーティーも大概だが……。
「いきなりラスボスっぽいの来たぞ!?」
「リリムとはね」
「まぁまぁ」
「まだ心の準備がー!」
慌てて武器を構えるオギス達をリリムは色っぽい佇まいのまま、戦闘態勢を取るでもなくただ微笑んで見つめている。
「……あれ……イベントっぽい?」
「よく来たわね」
「うお、イベントだ」
喋り始めたリリムを見てオギス達も武器を収める。
「喋るモンスターって初めてだな……流石限定……」
「この「絆の試練」は文字通り、絆が試される試練……貴方たちは強い絆を示さなくてはいけない」
脳に染み入るような美声でリリムは語る。魅了を司る魔物に相応しい声だ。
(……聞いたことない声優だ……やっぱり安い新人使ってるのかな?でもすげぇいい声……)
後でチェックしてみよう、とこっそり考えるオギスの前でリリムはふわりと浮き上がった。
「試練を超えた者には報酬が与えられる……このゴージャスな特典を是非ゲットして欲しいわ」
「急にフランクになった」
「これが貴方たちに与えられる試練よ!」
宙に浮いたリリムから眩い紫色のオーラが放たれ、オギス達パーティーを包み込んだ。
「うわっちょっ……何?攻撃!?」
「でもダメージはないね」
「これは……デバフ?でもないようですが……」
「何これー!?何この状態異常!?」
四人の身体にオーラが染み入るようにして消え、ふと見てみると三人のステータスを現すゲージ……体力、魔力、スタミナの下にもう一つのゲージが追加されているのがわかった。
表記の部分にハートマークが記されたピンク色のゲージ……初めて見る状態だ。
「それは「絆」を現すゲージ……これが尽きると貴方たちは寂しさの余り体力と魔力が徐々に減少していく事になるわ」
「うさぎかよ」
「それを回復する手段は……ふふ、貴方たちならばもう知っているはず……そしてそれは扉を開く鍵にもなっているわ」
「もう知っている……?」
「私は奥で待っているわ……豪華特典を隠し持って……!是非倒しに来てね、頑張って♪」
両手でグッとサムズアップし、舌を出してウインクしながらリリムは紫色のオーラに包まれて姿を消した。
「待ってるって事はやっぱあれがボスなのか……すごいファンキーなボスだ……」
「ゲージ尽きたらやばいって言ってたね、どうやったら減るのかな……あれ、これ……」
「あら……もう減り始めていますね、少しですが……」
「え、マジ?」
ミステラに言われて確認してみると、確かにそのピンクのゲージの端に僅かに空白ができ始めているのが見えた。
「時間経過で減少ー?厄介ー!」
「空腹ゲージみたいなもんだね」
「回復手段によっちゃすげえ難易度高くなるぞ……どうすりゃ回復すんだろ」
「えーと、アイテム……?一通り使ってみる?」
「効果なかったら損だなぁ……いや、待て、もしかしてチェックポイント形式かも」
「チェックポイント?」
オギスは広間の奥を指差す。
奥の方には恐らくここを潜ると本番が始まるであろう、ダンジョンの入口の扉があった。
……中央に大きなハートマークの宝石が嵌っているデザインがちょっとラブホみたいだと思ったのは内緒だ。
「ダンジョンの中にこのゲージを回復できる補給所みたいな所があって……その経由地にゲージが尽きる前にたどり着くタイムアタック的な要素かも」
こう考えたのには根拠もある、このブースのプレイ時間が無制限であるという点だ。
補給所が無限に使えるのでなければ、このダンジョンの攻略は必然的にゲージの減少に追われながらのスピードランという事になる。
結局プレイ時間はゲージによって制限される事になるのだから、ブースの回転もある程度読めるという事だ。
「つまりー
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