「いいところですね、ちょっと埃っぽいけど」
「……問題ない」
たどり着いた空家は長く人の手が入っていない様子だったがそこそこに大きく、家具一式も揃っていた。
「それでは手分けしましょう、わたくしはお掃除を」
「……わたしは家に邪魔が入らないように結界を張る」
ベータは魔道具を取り出し、ガンマは箒を探し出す。アルファは……。
二人の視線の先でアルファは椅子に座り、膝の上にモノリスを座らせてしっかりと抱きしめている。
「マスターの確保」
二人の生暖かい視線を受け流してアルファはその大きな体でモノリスを包み込む。
「……別に逃げはしないんだが」
人形のように無抵抗なモノリスが言うが、アルファは腕の力を緩めない。
「……確保」
聞きやしない。
「もう……それではお姉さまはちゃんとマスターを確保しておいて下さいね」
「……」
ガンマは肩を竦めると掃除に取り掛かり、ベータはしばらくジト目でアルファを見つめた後に魔法陣の生成に入った。
「……」
「……」
箒が床を掃く音と図を描くチョークの音が部屋に響く中、アルファはじっとモノリスを抱いて動かない。
「アルファ」
「はい」
「これからどうするつもりだ」
「魔物である私達は教団領である元の場所へ帰る事はできません、よって魔界領の……」
「そういう事じゃない」
「はい」
「今からどうするつもりだ、何故僕が必要なんだ」
アルファは自分の腕の中から見上げながら言うモノリスの髪を撫でた。
「お分かりになられませんか」
「今ひとつわかっていない」
「……マスター、私はマスター以外との交流は殆ど持った事がないので、控えめに言っても人の機微に敏感とは言えません」
「……それはそうだろう」
「ですがそんな私にも言えることがあります」
「……何だ」
「マスターは鈍感です」
「何故だ」
アルファは小首を傾げた。
その顔は無論、普通の女性に比べて表情に乏しい。
しかしそれ以前に比べるとやはり明らかに違う。特に生みの親であるモノリスには顕著にわかる。
ほんの僅かに緩んだ口元によく見ないとわからないくらいに寄せられた眉。
このアルファはいわゆる「苦笑い」のような表情を浮かべているらしい。
「ガンマが何故マスターに口付けをしたとお思いですか」
「……彼女は、魔物だ……魔物は精を必要とする……」
「私も魔物です、そして補足するなら魔物は好いた異性からの精のみを欲します」
「……」
モノリスの目が忙しなく泳ぎ始めた。
「……まさか」
「これからマスターと私達で性交を行います」
「達、というのは」
「ベータとガンマも一緒です」
「ちょっと待て」
「待ちません」
モノリスは身をよじらせてアルファの腕から逃れようとするが、アルファの体は微動だにしない。
しっかり確保したままずい、とアルファの顔が近付いてくる、銀の髪がさらさらと触れる。
「マスターは我々の生みの親ですが、遺伝上の繋がりは無いのでこれは近親相姦にはあたりません」
「論点が違うぞアルファ」
「では論点はどこでしょう」
真珠のように白く光るアルファの目がモノリスを間近に覗き込む。
「何故ぼくなんだ、選んだ理由は何だ」
「理由はありません」
モノリスの目が今度こそ驚愕に見開かれた。
「理由の無い行動などというものがあるか」
「現状、ここに存在しております」
「それは思考の放棄だ」
「マスター、たまには……」
アルファの人形の指がモノリスの頬を撫ぜた。
「思考を放棄してみてはいかがでしょうか」
「何?」
「私はマスターと最も長い期間を共にした意思であると思われます」
「……」
今までの人生の殆どを研究に費やしてきたモノリス、その研究の成果である彼女は確かにどの人間よりも彼に寄り添ってきたと言えるのかもしれない。
「その私から僭越ながら意見させてもらえるなら、マスターに不足しているものはカルシウムと休息と愛情です」
「……カルシウムと休息に関しては不足を自覚しているが、愛情はわからない」
「私は、マスターに不足しているその三つを補う事ができます」
言いながらアルファは片腕を自分の背後に回す。
ぷち
小さな音と同時にアルファの雄大な二つの山がゆさ、と揺れる。
するる…と、背中から黒い物が抜き取られる。
モノリスが作ったブラジャーだ。
片手で器用かつ丁寧に畳んで脇に置く。
つまり、黒衣の中には何も着ていない状態だ。
その状態でそっと胸元をくつろげると黒衣から片方の房がぼるん、と溢れた。
影のように無機質なシルエットの中に真っ白な生々しい女の象徴が浮かび上がる。
「ーー」
何かを言おうとして言葉にならない、抱かれて見上
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