魔物娘は人間との共生を望む生き物である。
しかしその反面かつての魔物としての習性も色濃く残しているが故に人を襲う事が多々ある。
これは魔物の存在が認知されない現代社会においては犯罪行為であり、現代社会に潜んで暮らす魔物達は社会のルールを逸脱しないよう元の世界より一層強く心がけねばならない。
しかしながら本能に負け、大きな事件に発展してしまうケースもやはり存在する。
これはそれらの中でも他に類を見ないほどに凶悪かつ重大な事件に発展したケースである。
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「あ、吉川クンじゃん」
「ホントだーよっしーだよっしー」
コンビニ帰りの吉川典明(よしかわのりあき)に声を掛けたのは同じ学校に通っている女生徒達三人だった。
同じ学校なのは知っていたが、その女子達は正直吉川が最も関わり合いになりたくない手合いであった。
この深夜の時間帯ににコンビニ前にたむろするという素行の悪い生徒の見本のような行動。
それに相応しいだらしない格好。
呼び止めたのは茶髪ロングの少女、何がおかしいのかへらへらと笑っている。
親しくもないのにこちらを気安く「よっしー」などと呼ぶのはツーテールに纏めた赤毛の少女。
もう一人は金髪のショートの少女、無言でただニヤニヤと嫌な笑みを浮かべてこっちを見ている。
総じて制服の胸元はだらしなく開かれ、スカートはやたらと短い。
そして耳に複数のピアスがはまっている。
そういった人種にある種の嫌悪感を持つ吉川にしてみたら同じ学校に通っている自分までそういう目で見られるので勘弁して欲しいと思うのだが……。
「何買ったん?あー、夜食?」
立ち去りたかったが、ロングの少女がこちらに近付いて聞いてくるものだから無視できなかった。
「う……うん……」
足を止めて吉川はぼそぼそと答える。
女子と口をきいた経験も殆どないので緊張して声が小さくなる、それに何だか怖かった。
三人の中で一番背が低いのは赤毛の少女。しかしその少女よりも痩せっぽちな自分は小柄なのだ。
そんな小柄な吉川を他の二人もぞろぞろと囲んでくる。
(う、うわ……)
圧迫感があった。肉の壁に囲まれている、という感じがする。
それというのも三人が三人とも高校生離れした肢体の持ち主だからだ。
開いた胸元の谷間は深く、短いスカートから覗く足はむっちりと太く、長い。
「アハハ、キンチョーしてる?」
「何でよぉ?取って喰いやしないってばー」
「……くふふ……」
それに伴って伝わるむっとした雌の匂い。近づかれただけで下半身が元気になってしまった吉川はしどろもどろになる。
「あっ……あの、あの……ご、ごめんなさい、すいません」
何故か謝りながら吉川はたまらずその囲いから逃げ出した。
「あっ」
ロングの女子が逃げようとする吉川の手を掴む。
その掴む力が予想以上に強い事に驚いて吉川は振り払って走り出した。
必死に走りながら一瞬だけ振り返って見ると、三人はニヤニヤしながら逃げる自分を見ていた。
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被害者の吉川典明(17)が被害に遭う以前、加害者の森本敦子(もりもとあつこ)(17)森本麻里子(もりもとまりこ)(17)高尾千沙(たかおちさ)(17)との接点はほぼなかった。
故に犯行に計画性はなく、衝動的なものであった事がわかる。
誤解を恐れずに言うならばこれは三人の種族が「オーク」であった事も深く関連しているものと思われる。
オークは特色として本能に忠実であるが故に短絡的な行動に出る者も多いからだ。
ただしオークであれば全員がそうであるという訳でない事はここに明記しておく。
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休日の深夜、吉川はまたコンビニに来ていた。
夜に寝付けない時はよくこうしてふらりと家を出てコンビニで立ち読みをしたり夜食を買ったりするのだ。
(今日はいないな……よかった……)
実はあの三人組にまた遭遇するのではないかとびくびくしていたのだが、それは杞憂で済んだようだった。
ほっとしながらコンビニを出て家路につく。
無論、駐車場に停まっているワゴン車に誰が乗っていたかなど気にならない、そのワゴンが吉川がコンビニを出ると同時にゆっくり発進した事も気にならない。
海外ならば少しは違ったかもしれない。だがここは治安のいい日本だった。
通行人の背後からスピードを落とした車が近づくことの意味に考えが及ばなかった吉川を責める事は誰もできない。
ただ、妙に通路側に寄せてくる車にぶつからないように離れて……。
ガララッ
ドアが開いたところでようやく異変に気付いた。そして遅かった。
「なんっんんっ!?」
いきなり口を押さえられ、悲鳴を封じられた。
肩の服が掴まれて物
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