竜話-完

 都から離れた辺境の村。
既に夜の帳が下りているこの村に一人の来訪者がいた。

その人物は細かい傷や凹みだらけの甲冑を身に纏っていて、頭部にもこれまた傷だらけの兜を着用しており、顔は分からない。

身長や体格から二十歳くらいの青年だと言う事が窺える。腰には遣い込まれ、柄の擦り減った幅広の剣を差し、背には大きい革袋を二つ、背負っていた。

その甲冑の青年は村へ向かう街道を真っ直ぐ進んでくる。一見、騎士を思わせる風貌だったが、騎士としては身に纏う甲冑が軽く見え、更に盾も無く、どちらかと言えば傭兵ような実戦的な軽装をしている。その為足取りは思いの外軽く、直ぐに街道の途中から村の入り口を守る門の前まで辿り着いた。

眠気眼の門番が近付いてくる甲冑の青年に気が付き、声を掛け呼び止め、横に置いてあった松明を掴み、甲冑の青年へ歩み寄った。

甲冑の青年は立ち止まり、門番にその顔を向けると静かに右手で兜の隠しを上げ、兜の中の顔を見せる。門番は松明を男の顔に近付け、何者か見極めようと眼を凝らした。

門番は直ぐにその甲冑の青年が誰なのか気が付いたらしく、先ほどまでの警戒した表情を緩めて、今度は嬉しそうな表情になる。打って変って上機嫌になった門番は松明を置き、急いで門の錠を外し、甲冑の青年を村に招き入れる。甲冑の青年は門番に軽く礼を言いながら門を潜って村の中へと入って行った。

村の中は今の時刻も相まって静まり返り、どの家にも明かりは無い。甲冑の男は寝静まっている村民に配慮し、あまり音を立てないように村の外れへ向かって進んでいく。村の外れには唯一、明かりの灯っている建物が見えてきた。

村にある他の家々と違ってその建物だけは石造りになっている。建物自体も幾本もの石柱に支えられ、何本もの松明が際限なくその雄姿を照らすという派手な造形になっていた。

甲冑の青年はその建物の前に辿り着き、内部へ入る為の緩い石段を登り始める。この建物は所謂、神殿や祭殿の役割を持ち、建立されたのは近年だが、今では村の観光名所として有名になり、村の収益の大部分を担っている。石段の途中では参拝者の物と思しき、貢物が置かれたままになっており、甲冑の青年はその貢物を踏み付けない様、慎重に足を進めた。

やがて石段を登った先には本尊とも言うべき巨大な石像が見えてくる。その巨像は巨大な翼に長い尻尾、竜……ドラゴンをモチーフにした物だった。
その巨像の足元の祭壇には美しい深緑色の剣が祀られており、松明に照らされて昔と変わらずに煌々と輝いていた。

甲冑の青年はその巨像の前に進み、ドサッと背の革袋を床に降ろす。そしてゆっくり両手で兜を外した。

「ふぅ……」

少年時代、腕白だった面影を残しつつも立派な青年へと成長したクラウがそこにいた。クラウは軽く頭を振るってから兜も床に置き、改めて巨像の元へ傅く。そして一度祀られた剣へ視線を送ってから、眼を閉じると静かに祈りを捧げ始めた。

「遅かったな……我を待たせるとは、生意気になったものだな、小童」

 祈りを捧げていたクラウに突如、巨像から声が届く。クラウは傅き、眼を瞑ったままの姿勢でその声に応じて答えた。

「悪かったよ、師匠。街道が整備中で遠回りさせられたんだ」

「フンッ……どうせ、要領の悪い貴様の事だ。そのような理由だと薄々感づいていたわ」

 クラウが立ち上がるのと同時に巨像の後からあのドラゴン娘のファムが現れた。腕組みをして相も変わらず不遜な態度をしている。成長したクラウとは対照的にファムの姿は殆ど変化が無く、昔と違う所は黒いローブを羽織っている位の物だった。

クラウは床に置いてあった革袋の一つの封を解き、その中身を取り出す。そしてファムに向かって投げ付ける。ファムは腕を崩さず、尻尾で投げ付けられた物を受け取った。ファムは尻尾で掴んだ物を自分の顔に近づけ、観察する。その表情に軽い笑みが見えた。

「……ほう。やっと手に入れたのか」

 クラウが投げ付けた物はトロフィーだった。金色をしたそれには王都武闘大会優勝≠ニ赤文字で印字されている。ファムはそのトロフィーを持ったまま、神殿の壁際へ向かう。壁には棚が掛けられており、そこには先客とも言うべき王都武闘大会準優勝≠ニ印字された銀色のトロフィーが置かれている。ファムはその隣にトロフィーをそっと置く。金色のトロフィーが松明の明かりをキラキラと反射した

「へへっ……これで師匠も俺を少しは認めてくれるかな?」

「……我が鍛え上げた貴様ならばこれくらいの戦功は当然だろう。全く……本当なら去年に手に入っていたモノを……」

「うッ!? それは……まあ俺にも思う所が無い訳じゃないけど……」

「……貴様の詰めが甘いところは鍛え直しが必要だ
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