目前を過ぎた剣先の風に乗るように右足を踏み込む。
潜り込んだ懐から打ち上げる一撃を放つべく体重を右足に込める。
だが。
振り切られた剣を掴んでいる手首が、すでに返されてる事に気付き重心を左足に移して体を後方に捻じ曲げた。
瞬間、空気が断ち切られた。
引くのが遅ければ俺の体は袈裟から二分されていただろう。
更なる追撃を避けるため、後方に飛び下がる。
同時に牽制のために剣を一閃させるが、虚しく空を斬っただけだ。
「ふ―・・・」
呼吸を一つ。
ようやく息がつけた。
相手は傾けた半身を悠然と戻すと、涼しげな笑顔を浮かべた。
完全に見切られた避けられ方だな。
・・・もっとも当たったとしても振り回しただけの一撃では、あの鎧に傷すらつけられそうにないが。
左の頬に汗とは違う熱が伝わって来る、舌を出して掬いあげると苦い鉄の味が広がった。
血だ、どうやら避け切れなかったらしい。
しかし振り抜いたあの大剣を即座に返してくるとは・・・、それも初撃よりも速く。
魔物は人間より遥かに高い身体能力を持っているのは理解しているが、見た目は自分より華奢な女なのだ。
血とは違う苦い気持ちが心に広がる。
「・・・どうした?随分と必死な様子だが。
いつものふざけた態度をとらないじゃないか。」
白々しく両手を広げレイナがおどけてみせる。
汗一つ浮かんでいない顔を忌々しく睨みつけるが堪える様子はなく、むしろ笑顔を向けてくる。
対するこちらは深手こそ無いものの、既に防具はその機能の殆どを失い俺の体は転げまわって付いた泥で汚れている。
最初の一撃を受けてから、ほんの数合でここまで追い詰められてしまった。
「おふざけってのは真面目にする所を真面目にやるやつに許される美学なのさ。
剣を抜いた以上、ちゃんと剣士らしく振舞わないとなぁ?」
こちらも顔だけは笑顔を保ち、レイナを真似て大仰におどけてみせる。
むこうは俺をからかっているだけだろうが、俺は体力回復のための時間稼ぎだ。
そんな俺の魂胆を見抜いてか、レイナがくっくっと笑いを噛み締めた。
「そんなボロボロな姿で美学や剣士を語られても・・・それこそおふざけじゃないのか?」
圧倒的な実力差を楽しんでいるかのようなレイナの態度に、冷静を努めようとしている俺の頭も熱くなって来てしまう。
ただでさえ、先ほどまでのレイナの攻撃に憤りを感じているのだから。
「・・・剣士として問おう」
「ん?・・・なんだ」
口調を低くした俺の声にレイナも笑顔を消した。
「何故、左手しか使わない?
お前が全力を出していれば俺は今、立っていない筈だ。」
「・・・」
悔しいが俺とレイナとの戦闘能力の差は圧倒的だ。
魔力によるものか、それとも体の組織そのものが違うのか。
力も速さも技も俺はデュラハンの足元にも及ばないはず。
それにも関わらず俺はまだこうして戦っている。
そもそも名乗り口上の一撃を剣で受け止めれた時から違和感を感じていた。
戦いの最中における剣の動きからしても、右手は添える程度の力しか使っておらず、左手だけで剣を振っている。
「・・・・・・これが、全力さ。」
呟くようにレイナが言うと、問答はもう終わりだとばかりに剣を構えた。
・・・重心は左半身にある。
あくまで片腕で戦うつもりらしい。
「そうかよ」
ああ、わかった。
この決闘は、あの時の再現だ。
本来の力なら片腕でも俺に負けたりしないと言う事か。
・・・さっきの呟きに悲しみを感じたのは、あの時の屈辱を思い出しているのだろうな。
だけどよ。
いくら力の差があるにしても。
弱ってる所を打ち負かした俺に恨みを持っているにしても。
わざと片腕で相手にされるなんざ、剣士として――男として――
耐え難い侮辱だぜ。
「・・・決闘なら、こーゆうのは反則かなと思って使わないでいたんだけどな」
俺の言葉に反応することなく、レイナはジリジリと間合いを詰めて来る。
「何が何でもアンタに勝ちたくなったんでね、使わせて貰う」
剣を顔の前にかざし、そのまま額にあてる。
すると剣が淡く光り、その光が次第に俺の体を包んでいく・・・。
「!!・・・魔剣か!?」
警戒するように飛び下がり、レイナがこちらの様子を伺っている。
「そこまで上等なもん、俺なんかが持っている訳ないだろ?」
すっかり光に包まれた体の感触を確かめながら、剣を構える。
「別に火を振り撒いたり、雷を落とせるようになったわけじゃない。
コイツの力を借りて、単純な補助魔法を発動させただけだ」
そう・・・
「肉体強化さ」
一瞬で開いた距離を詰め、潜り込ん
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