その日のドラゴニアの国境は、旅立ちに相応しい抜ける様な快晴だった。
「じゃあ、また、いずれ」
「ああ。いつでも歓迎するよ、ダブルドラゴンキラー」
レオンとピーニャが握手を交わす。
幾つかの波乱はあったものの、結果的にはツァイスとドラゴニアの双方に実りのある一件となった事に、二人とも満足していた。
そして、それ以上に良き知己を得た事が互いに嬉しかった。
「・・・今度会う時には、彼と一緒に来ますから」
イリーナの顔には迷いが無かった。
事件が決着しようとしている中で、彼女もまた自身の中の迷いを決着させたらしい。
「うん。楽しみにしてる」
「イリーナなら絶対に大丈夫だよ〜」
イリーナの恋愛を素直に祝福するラスティにも、既にわだかまりは無い様だった。
終わってしまえば敵味方など無いという心の自在さが、魔物娘の魅力だとレオンは思う。
「・・・それじゃあ、ありがとうございました」
「またね〜」
「また来るからね〜」
見送りの二人に手を降り、レオン達一行はドラゴニアを後にした。
こうしてラスタバン発見から続いた一連の事件は、ようやく落着したのである。
街道を堂々と歩ける帰路は、神経を張り詰めながら来た往路とは段違いに気持ちが良い。
旅路と呼ぶのにふさわしい爽やかさだった。
「レオン〜」
「どうかしたか?」
「ん〜・・・そのね・・・」
ラスティが少し難しそうな顔をして、歩きながらレオンに話し掛ける。
「・・・わたしね〜、なんでこの姿で生き返ったのか、時々考えてたの・・・」
少し伏し目がちにポツリと言葉を口にした。
「多分・・・あのまま死んでいたくなかったんだと思う。悔しいとか、苦しいとか、色々思いながら死んでいくのって、やっぱり辛かったんだと思う・・・死んだ時の事も、生き返った時の事も、よく覚えてないんだけどね〜」
繋いでいたエルの手が、強張る様にレオンの手を握りしめるのをレオンは感じた。
「結局、姿が変わって生き返っても何も変わらなくて、昔の事を思い出すと悲しかったけど・・・」
ラスティは少し自虐めいた笑顔を見せた。
「でも、レオンがあの洞窟からわたし達を連れ出してくれた。わたしを昔と向き合わせてくれて、ドラゴニアに連れていってくれて、いろんな人や魔物と会わせてくれた。だから・・・」
これまでのレオンとの時間を思い出すだけで、今度はラスティの横顔からは本当の笑顔が溢れる。
「レオン、本当にありがとう〜」
「エル〜、なんでママより先に言っちゃうのよ〜!」
娘に先手を取られたラスティが不満げに唇を尖らせる。
「ママの思ってる事は、あたしにも分かるもん〜
#9829;」
レオンの腕に抱き付きながら、エルが満面の笑みで母親に答える。
ラスティの言葉を黙って聴いていたエルも、同じ気持ちだったのだ。
「レオンがあたしとママを全部変えてくれたんだよ〜」
二人のやり取りを見て、レオンはメィイェンが別れ際に残した言葉を思い出す。
「竜が生き返るのは、どんな無念よりも孤独に最期を迎えた事が寂しいからなの。だから・・・彼女達に寄り添ってあげて下さいね」
そう言って頭を下げた彼女の言葉は、ツァイスの主たるエミールの妻としてではなく、二人の幸せを願う魔物娘としての物であった。
「なら・・・きっと、今度は幸せになっていいって事なんだよ」
レオンは運命を信じる様な人間ではなかったが、それでも今は自分が二人に良い運命をもたらしたと信じたかった。
少なくとも自分は二人に良い運命を貰ったと思っているのだから、そう信じてもバチは当たらないだろう。
レオンも二人に応える様に笑顔を返した。
「三人でめいっぱい幸せになろうな」
「はい〜
#9829;」
「もちろんだよ〜
#9829;」
ラスティとエルは愛しいレオンを心のままに抱き締めた。
・
・
・
この一件は直接レオン達から話を聞いた作家の手により、ドラゴニアで絵本にされて長く読み継がれていく事となる。
絵本の何冊かはドラゴニアの外へと流出し、世間のドラゴンゾンビに対する見方を変えたとも言われた。
子供向けの絵本でありながら、節々に見受けられる詳細なディティールから、歴史的な資料としても扱われる絵本の最後は、こう締めくくられている。
こうして さんにんは
すえながく しあわせに
くらしましたとさ。
めでたし めでたし。
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