竜の寝床横町を混乱に陥れた一夜が明け、ようやく事態は鎮静化しつつあった。
混乱を引き起こした者のうち、バノッティは竜騎士団のワイバーンに一方的に犯されている所を確保され、ジュリアンはイリーナによって拘束されていた。
最重要人物であるルイーザとルカの姉弟は現場から姿を消していたが、ドラゴニアを挙げての捜索活動が為されている以上、捕まるのは時間の問題である。
一方、レオン一行が受けた損害については、決して軽いものではなかった。
受けた毒がごく微量のピーニャはすぐに回復したものの、大量の毒に加えて出血も伴ったレオンの意識は未だに回復せず、ラスティとエルが医者と共に付き添っているという状態であった。
媚薬を流された事による混乱は、当の住人達は歓迎していたくらいではあったのだが、その動機と結末が明らかになるにつれて、住人達は複雑な感情を抱く事になったのである。
「これで、とりあえず魔法で傷口は塞いだよ」
レオンの治療を続けていたリッチが、静かに告げた。
イリーナは事の次第を報告する為に席を外しており、部屋にはラスティとエル、それにピーニャが付き添っている。
「彼が完全にインキュバスになっていれば、痺れる程度で済んだんだろうけど」
診察したリッチによれば、レオンの身体がインキュバスになりかけていたが故に、毒の効果が出たのにも関わらず、毒に対する抵抗力は足らなかったのだという。
「稀な例だから僕にもどうなるか予測が付かないね」
「・・・ひょっとして、助からないの?」
レオンの傍らでずっと泣き続けていたラスティが、リッチの方を見る。
リッチはもともと感情表現に乏しい種族ではあるが、事態が事態だけにより酷薄に聴こえてしまうのは仕方がない事だった。
「症状だけ見れば五分五分。・・・八分くらいで助かるんじゃないかと思うけどね」
「・・・医者としての直感?」
責任を感じてずっと黙っていたピーニャが耐えきれずに問い掛けた。
「うん、直感」
リッチが即答する。
「ぼくの直感はよく当たるんだ」
彼女は本気とも冗談とも付かない、フラットな口調で断言した。
「それに、これ君達が贈った物でしょ?」
指差した先にはラスティ達が贈った『番いの首飾り』があった。
「・・・このルーンは『無病息災』かな?」
「レオンが危険な仕事に就いてるのは知ってたから〜」
「彼はこのルーンのお陰で命を落とさずに済んだんだよ」
「え・・・」
リッチの意外な言葉に、ラスティが呆気に取られた顔になる。
「『無病息災』のルーンは毒や病気への抵抗力を高めてくれる。いいルーンを選んだね」
リッチの言葉は相変わらず淡々としているが、今度はそれが言葉に信憑性を与えていた。
「だから彼は助かるよ。竜の爪は大切な人を助ける時に一番力を発揮するから」
その言葉に、自分達の爪が必ずレオンを助けてくれるというハーモアの言葉を思い出し、ラスティとエルは再びポロポロと涙を溢した。
同じ頃、ドラゴニア市街から離れた一軒の空き家を、捜索隊の竜騎士達が取り囲んでいた。
彼女達はようやくティカル姉弟の居場所を突き止めたのである。
居場所を突き止めたのは『プリムローゼス』の通称を持つ第三機動部隊。
隊長のエメリッサは小柄で可憐な見た目に反して、職務に厳格なドラゴンとして知られており、隊員達もまた真面目な者が揃っていた。
相手がドラゴンスレイヤーである以上、その突入は危険極まりない物となる。
ワイバーンの隊員は上空から監視を続け、空き家を取り囲む隊員は、全員がドラゴニウム製の武具で完全武装していた。
「姉さん・・・ごめん、姉さん・・・」
空き家の中ではルカが泣き続けていた。
「ううん、謝ること無いわ。なんで謝るの?」
そんなルカの様子を見てルイーザが首を傾げる。
ルイーザの腰はルカの上で動き続けていた。
腰を振り続けるルイーザの頭には僅かに角が見え、その四肢も硬い鱗に覆われつつある。
何よりもその腰からは隠しようもないほど尻尾が生えていた。
互いに何度目かも覚えていない射精を、ルイーザは胎内で受け止める。
ルカの精を受ける度に、ルイーザは竜としての快感にも身を震わせた。
その度にルイーザはドラゴニアの魔力に浸食されていたのである。
腐敗のブレスを受けた直後、ルカは咄嗟に姉を抱えてその場を逃げ出していた。
なぜ理性を失っても姉と共に逃げ出す事が出来たのかは、ルカにも分からない。
あるいはそれこそが、ルカの内に長年潜んでいた願望であったからかもしれなかった。
そして、ルカが正気を取り戻した時には、ルイーザがルカを組伏せていたのである。
人間離れした力と熱っぽい口づけ。
それだけで、ルカは正気を失った自分が何をしたのか悟った。
もう取り返しが付かない事が許せず、自責の涙と言葉だけが漏れ続ける。
そんな弟を犯し続けなが
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