「・・・これがわたし達の爪?」
「あたしの爪ってこんなだった〜?」
ハーモアの店で完成した『番いの首飾り』を見たラスティとエルは、その仕上がりに驚いていた。
二本の爪は申し訳程度に魔界銀で装飾されていたが、美しく磨きあげられた爪は魔界銀に負けないほどの存在感を見せている。
少し小さめのエルの爪には躍動感に満ちたルーンが刻まれているのに対し、大きめのラスティの爪には静をイメージさせるルーンが刻まれている。
対称的なルーンの意匠でありながら、字体その物が統一されているので、二本の爪が対になっている事は一目で分かった。
「親子の爪だけあって、見た目も魔力もぶつからない物に仕上がったねえ」
ハーモアが満足げに首飾りを眺めている。
ベテランの職人である彼でも、ドラゴンゾンビの親子の爪を一つの首飾りに収めるという仕事は初めてだったが、それを上手く纏められたのは、彼にとって十分に満足が行く仕事だった。
見事な仕上がりと言えたが、それだけにラスティは気にかかる事がある。
「これ、高いんじゃ〜・・・」
「手間賃ならルーンを刻んだ時に出た爪の削り屑で十分だよ。ドラゴンゾンビの爪は薬の材料として高く買う奴が大勢居るからな」
ハーモアとしては一生物の話の種になる仕事なので、タダでも構わないくらいなのだ。
「こんな珍しい物を身に付けられるのは、世界広しと言えどもあんたくらいなもんなんだ。粗末に扱うなよ?」
ハーモアの言葉を受けて、レオンは首飾りをそっと手に取ると、それを静かに首に掛けた。
竜の爪には魔力が籠っていると言われてはいたが、身に付けたレオンには、特に何かが変わった様な感覚は無い。
ただ、自分の首に下がっている二本の爪は、間違いなく見慣れたラスティとエルの物であり、それを身に付けている事は、二人の存在の一部を共有している様だった。
その感覚は、二人に初めて教われた後の、三人で寝ていた時の感覚になぜか似ている様に思える。
そう思うとその二本の爪がたまらなく愛しい。
「ラスティ、エル、本当にありがとう。大事にする」
そう言ってレオンは爪をそっと握りしめた。
「ところで、このルーンってどんな効果が刻んであるんだ?」
注文の内容を伏せられたレオンは、刻まれたルーンの効果をまだ知らなかったのだ。
「そんなに大した意味は無いんだけど〜」
「・・・待って、何かおかしい」
ラスティがルーンの内容を伝えようとした時、イリーナがそれを止めた。
ピーニャも違和感を感じたのか、微かな匂いを嗅ぎとる様に小鼻を動かしているが、なぜかその表情には困惑が混じっている。
「なに?この匂いは・・・」
「匂い?匂いなんてしないけど・・・」
「ランプの油の臭いじゃないか?」
ピーニャが今まで嗅いだ事が無い、奇っ怪な匂いが店の奥側から流れてきているのだが、不思議な事にレオンやハーモアにはそれがまるで分からない様にしか見えない。
しかし、ピーニャもイリーナも、その匂いによって自身の内側から沸き上がってきた、不自然な衝動を自覚していた。
これといった理由も無く、まるで、その方向に自分が求めている物があるかの様に、臭いがする方へと向かいたくなってくる。
しかも、下腹部が男を求めている様にズクズクと脈を打っている感触まである。
それが異常な欲求であると二人とも自覚していたので、その衝動を否定する事に辛うじて成功していた。
同時にラスティとエルにも異変が現れ始める。
二人とも心ここにあらずといった風で、フラフラと店の奥へ向かおうとしていたのだ。
「ラスティ、エル、二人ともどこへ行くんだ?」
「あれ〜?・・・あっちの方にレオンが居る様な感じがしたんだけど・・・」
「レオンが二人になっちゃった〜?」
有り得ない事を口にする二人の様子に、レオンも困惑せずにはいられない。
「・・・二人とも何を言ってるんだ?」
「まあ〜いいわ〜
#9829;レオン〜
#9829;首飾りも出来たし、ここでしよ〜
#9829;」
「あたしも我慢できなくなってきちゃった〜
#9829;」
二人はレオンに左右から抱き付くと、レオンの指を自分達の秘所へと導いて、ローブの上から擦り始める。
いくらドラゴンゾンビが好色であっても、この発情の仕方は異常としか言えなかった。
その姿を見て、レオンも異変が起きている事を認識した。
「ここにいるのはマズイ!とりあえず移動しないと!」
レオンの言葉にピーニャが入口の扉を開くと、彼女は街が異常な状態になっている事を知った。
ざわめきの様な嬌声が、辺りの小路を満たしているのが聞こえてきたのだ。
まるで、この区画そのものが発情している様に、絶えず魔物娘達の喘ぎ声が続いている。
「なんて事・・・」
表に出たピーニャは、罠にかけようとした追っ手達が自分の想像を越えた手段に出た事を、認めざるを得なか
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