白狼山地での会見からしばらく後。
レオン、ラスティ、エルの三名は身を潜める為にツァイスを離れていた。
今はと言えば、ドラゴニアの入国監理局の一室で、ドラゴニア側の人間を待っている最中である。
エミールは三人のセーフハウスを用意する為に、ドラゴニアへ協力を要請し、ドラゴニアの女王デオノーラもそれを受け入れていた。
「木の葉を隠すなら森の中」の格言の通り、三人が一番目立たないのは竜の国との判断である。
「確かに、竜の国ならわたし達は目立たないかもね〜」
「本当にドラゴンばっかりなんだね〜楽しそう」
「ここには観光で来ている訳じゃないんだけど・・・」
旅路の間は深いフードのローブで顔を隠してきた二人も、竜の国という事でフードを開け、ドラゴニアという国への興味に眼を輝かせている。
そんな二人の様子とは対称的に、レオンは疲れた様な顔で、やんわりと二人を嗜めた。
生前も現在も他人と接さずに生きてきたエルの目にとって、外の世界は何もかもが新鮮に写り、ラスティも魔物娘として生まれ変わって以来、人里へと降りたのは初めてである。
そんな世間知らずの二人と共に人目を避けて進んだ旅路は、目立たぬ事を仕事としてきたレオンと言えども、中々に気苦労が絶えない物だった。
とは言え、緊張感に満ちた往路(主にレオンにとっての話だが)を終えた事もあり、一行にはどこかホッとした空気が流れている。
そこへ部屋の扉を開けて入ってきたのは、一人のリザードマンだった。
「ラスタバン様の御一行ですね?ドラゴニアでの警護を務めさせていただくイリーナ・ダシュカです。よろしくお願いします」
そう言って一行の皆と握手を交わす。
武人気質のリザードマンの例に漏れず、腰には剣を帯き、よく引き締まった身体には幾つもの傷痕が窺える。
裏表の窺えない態度は、レオン達にとっても安心感を与えるものであった。
その後はイリーナと今後の話を詰めたのだが、レオンにはどうにも腑に落ちない点が一つある。
国外の要人であるラスティ達に対して礼儀を取るのは当然と言えば当然なのだが、どうもイリーナの態度には礼儀の枠に収まらない、なにがしかの敬意の様なものが窺える。
警戒感を抱かせる様な物ではないが、レオンはどうにもそれが引っ掛かっていた。
「それにしても、『ダブルドラゴンキラー』の方の護衛を任されるのは光栄です。ドラゴニアでも見た事が無いですから」
「・・・ダブルドラゴンキラー?」
イリーナの発した聞き慣れない物騒な響きの言葉に、レオンが僅かに眉をひそめる。
「ええ。このドラゴニアでのドラゴンゾンビは、革命以前の不幸な時代に命を落とした竜達が生き返った方々です。そんな彼女達に寄り添って幸せな夫婦となった男性は、ドラゴンキラーと呼ばれて尊敬されているんですよ」
「そんな〜
hearts;夫婦だなんて〜
hearts;」
「そうなったらレオンはパパでダーリンになっちゃうし〜
hearts;」
夫婦という言葉にラスティとエルが顔を赤らめて恥ずかしがる脇で、レオンは言い様の無い危機感を感じていた。
「・・・すると、俺は」
「親子のドラゴンゾンビを一度に救った英雄ですよ。デオノーラ様も竜殺しが建てた国から大した男が出てきたものだと、大変に驚いていました」
既に尊敬を隠さないイリーナの言葉に、レオンは態度の理由を理解した。
それと同時に、「竜を隠すなら竜の国」という当初の計算が、最初から破綻していた事も悟ったのである。
イリーナにセーフハウスへと案内される道中の竜翼通りは、ドラゴニア一の目抜通りだけあって活気に満ちていた。
竜達の滑走路も兼ねた道路は、一行の誰も見た事が無い程に広く、その広さであっても閑散としている様には見えない程に、通りには人が絶えない。
意外な事にドラゴン以外の魔物娘の姿も目につくのだが、そこはやはり竜の国である。どこを見てもドラゴンやワイバーンといった、ドラゴン属の魔物娘達が生活していた。
見た事も無い産物や大勢の同族達の姿に、ラスティとエルの好奇心が動いているのがレオン達にも伝わってくる。
とりわけ、エルは感心しきりであった。
「凄いや・・・本当にこんな国があったんだ〜」
目深に被ったローブに遮られて表情は伺えないが、言葉の弾み具合で目を輝かせている事はよく伝わってきた。
さすがに衆目の真ん中で身元を晒す訳にも行かないので、レオンは繋いでいる手を離さない様に気を使う。
「今まで嗅いだ事の無い、いい臭いがする〜」
「ドラゴニアの料理にはスパイスが利いた物も多いですからね。どれも精力が付きますよ?」
「あそこの首飾り、ドラゴンの爪で出来てるの?」
「ドラゴンの爪は強力な魔力を持ってますから、魔法の道具を作るのに丁度いいんです」
エルの好奇心に対してイリーナは丁寧に答えてくれる。
生真面目
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