――騎士団長・デュラハンの朝は、早い。
団長の仕事は多量、かつ多様である。
仕事は待ったを受け付けず、手を抜けばその分だけ積み重なっていくのだ。
「おはようございます。朝食をお持ちしました。入っても宜しいでしょうか?」
「やあ、おはようアヌビス補佐官! 構わんよ、入りたまえ」
「では、失礼します。……団長、今朝も早朝から鍛錬をなされていたのですね」
「はは、日課だからな! とはいえ、すぐに分かってしまうとはもしや、顔に出ていたか?」
「いえ、そのようなことは」
「そうか? まあ、鍛錬程度で疲れが顔に出るようなヤワな鍛え方はしていないからな! はっはっは!!」
「はい。ただ、服を着ていただければと思います」
「……服? おおっと! 鍛錬の後に身体を水で拭い、そのまま戻って来てしまったようだな! これは失敬!」
「いえ、お気になさらず」
「そうか? ならばこのまま朝食を」
「いえ、服は着てください」
「む。そうか。よし、ならば首から下が取りに行こうッ! ああ、精気が漏れると困るから……これだな。茶汲み用の盆でも首に載せておこう」
「…………」
「さあゆくぞッ! 待っていろ衣服!」
そうして、首から上がお盆になった裸体が胸を激しく揺らしながら走り去っていった。
執務室で頭部だけが残った騎士団長は、手運びの介助で朝食を摂ることとなった。
あーん、である。
――朝食後、間を置かずに団長の職務は始まる。
デュラハン団長は、魔界軍第三騎士団の長。
そして第三騎士団に課せられた任務は周辺の治安維持、ならびにこの魔界の1都市で起きた不和や争いの審理を行うことである。
「それでは、審理を始めるッ! 各人、私の前に来たまえ!」
「わ、わかったわ!」
「……は、はいっ…………!」
「ラミア君と、バジリスク君だな。両名とも、まだ年端もいかない子ではあるが……今日この議場に連れてこられた理由は把握しているかな?」
「…………その、わ、私が、あのっ……ひぅ」
「――ば、バジリスクは悪くないわ! 全部私が悪いのよっ!」
「ふむ?」
「だから、罰するなら私を罰しなさいっ!」
「ラ、ラミアちゃんっ……! ……そ、そのっ、あのっ、ラミアちゃんは悪くありませんっ! わ、私のせいなんですっ!」
「両人とも、落ち着きたまえ。ここは話を整理しよう。アヌビス君ッ」
「こちらが調書です」
「うむ、ありがとう…………事件が起きたのは昨日の夕刻。街の広場で突如として通行人男性や屋台の店員達がその場で発情、夫婦や恋人同士だけでなく、1人で来ていた者もすぐさま帰宅し家で伴侶と長時間の行為に及んだと……。くッ、大変じゃないか!」
「事態は場に居た者が多くなかったこと、またそれぞれすぐに帰宅したことから、大事には至りませんでした」
「それは朗報だ。だが……被害の程度は?」
「異常に気付いて駆けつけた騎士団の調べでは、被害を受けたのは伴侶と来ていたインキュバスが6名、屋台の店員が3名、そして旅行客の独身男性が2名でした。この2名はその場で近くの魔物娘と良い雰囲気になり、その日のうちに恋人となった模様です。被害届は出ておりません」
「くそっ、なんという事だッ……! なんと、なんと大変うらやましいッ……」
「団長?」
「ゴホンッ! ……人間男性及びインキュバスに影響を与える媚毒か。バジリスク種の有する魔眼の効果と合致するな」
「はい。当直の騎士も同様の考えに至り、広場中央の噴水辺りで気絶していた彼女と、隣でオロオロしていた彼女の2名をこちらに移送しました。そして、昨日から今日にかけて宿舎で介抱を行っておりました」
「むっ!? 怪我はなかったのか?」
「ありませんでした。気絶の原因ですが……」
「……そ、そのっ、私っ、オトコの人が全然だめでっ……! この仮面がないとっ、は、恥ずかしくてっ…………!」
「騎士の1人が発見した時には、彼女の仮面が外れておりました」
「なるほど。制御の利かなくなった魔眼を周囲の者が浴び、バジリスク君自身もその、なんだ、男性恐怖症から正体を失ってしまったと。そういう事だな?」
「そうよっ! でも、バジリスクの仮面は私が外してしまったのよ! だからバジリスクは悪くないわっ!」
「ふむ……ラミア君はこう言っているが、バジリスク君はどうなんだい?」
「あ、あのっ……でもっ、違うんですっ! ら、ラミアちゃんは、噴水が見づらいからって外してくれただけで、悪気はなかったんですっ……!」
「そんなことないわ! 私が、私が勝手なことをしなければっ……」
「ら、ラミアちゃんっ……!」
「……団長。いかが致しましょうか」
「そうだな……。ほら2人とも、泣く
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