歴戦の勇士であったが、めでたく夫を手に入れてからは寿引退していたハンター・クノイチ。
しかしある朝、起床した彼女は自宅の様子に微妙な違和感を感じ取った。
「ムッ……!?」
机に無造作に置かれていた一枚の手紙。
それに気づいたクノイチは短く声を発し、一瞬で目つきはハンター時代を彷彿とさせる鋭さに。
体幹をブレさせない、モーションパターンも少なめな動作で手紙に歩み寄り、躊躇なく開封。
その、内容は――――。
『フハハハー! クノイチちゃんの大事な物はわらわが貰った! 返してほしければ我が城にて取り戻してみせよ! このわらわと優秀な配下達が盛大に出迎えてやろうじゃないかー! ――高貴なるヴァンパイアより』
短い文章を読んだ後、彼女の眼光はさらに鋭利なものに変化した。
魔物娘にとっての大事な物、それは夫に他ならぬ。
クノイチは黒いジャケットを胸サラシ一枚の上体に羽織り、長髪を一本にまとめて後ろに流す。
それが彼女の、ハンター時代の戦装束だった。
そして外へ飛び出し、魔界の霧深い道を走りだす。
彼女の唯一無二の宝を、かの邪智暴虐な吸血鬼の魔手から取り戻すために――――。
後ろに2人分ほどの残像を生じさせるような勢いで疾駆し、跳ね上げ式の木橋を渡って城の入り口へと辿り着いたクノイチ。
「あ、クノイチさん。ようこそ〜」
「ムッ……!?」
正面に立ち塞がれ、足が止まる。
そこにいたのは、吸血鬼の配下たるメイド、キキーモラであった。
キキーモラ、一礼の後にコホンと咳払い。
そして。
「えー、お嬢様からの伝言です! 『フハハ、よく逃げ出さずに来たな! しかしこの城ではお菓子で雇った凶悪なスケルトンやリッチ達が門番として次々に立ちはだかるだろう! 階ごとに控えた彼女達を退けることができなければ、わらわの元へと辿り着くことすらできぬぞ!』……だ、そうです!」
その凄まじいまでの棒読みな言葉を聞いたクノイチは、それでも恐れることなく再び歩み始める。
「ではクノイチさん、頑張ってくださ――ぶぇっ!」
キキーモラの横をすり抜け城の玄関口に到達した途端、間髪入れずに床を高速で滑走し始めたクノイチ。
メイドのスカートが風圧でめくれ上がるのを遥か後方に、次の部屋へと侵入。
「――――ホアイッ!」
そしてあろうことか、一声叫ぶとスライディングの姿勢のままに飛び上がり、弾丸が如き勢いでシュンシュンシュンと部屋の窓ガラスから外に飛び出した。
場所は変わって、城の一室。
高笑いするのは、ドレス姿の妖艶な美女。
「フハハハ! まさかクノイチちゃんも実はわらわが城の最上階ではなく、地下を経由しなければ入れない小部屋に待機しているとは思わないでしょうね!」
見上げればそこには、全裸に剥かれたうえで亀甲縛りにされて丸められ、体育座りの姿勢で天井から吊られている男の姿があった。
「さあ、早くしないと愛しの旦那様がどうなるか分からないわよ、ハンターさ…………ん!?」
ドレスの女性、ヴァンパイアが思わず目を見開く。
理由は一つ。
部屋の中央の床が開き、下からスーッと不吉な黒い影が上がってきたからに他ならない。
まさかのニンジャの、高速エントリーであった。
「えっ、ちょ、ちょっと速すぎないかしら!? ええい、頼りにならない部下だこと!」
この場に居ない者に怒りをぶつける城の主人。
だが、目の前に現れた半裸革ジャンの魔物娘は、そもそも城内の部下など誰一人として相手にしていない。
一度城の外に出て、この部屋に回り込んできただけであった。
「かくなれば、わらわ自身が相手よ!」
ヴァンパイアがそう叫ぶと、その威圧感に心なしか辺りを流れる音楽すらおどろおどろしい曲へと変わる。
対してハンター・クノイチは微動だにしないままに、何やらもごもごと口の中で呟いた。
次の瞬間。
「ギャーー!! なにこれ!?」
ヴァンパイアが驚いたのも無理はない。
なにせ、突如として無数のクノイチが部屋の至る所から湧いたかと思うと、全員脇目もふらずに彼女の元へ押し寄せてきたのだから。
デヤァとか、ホァイといったような掛け声を各々が発しながら、分身達が寄ってたかってドレスの女性にくすぐり攻撃を仕掛ける。
「ひ、それダメっ! わらわ、コチョコチョだけは弱っ――――はひ、ひゃ、ひゃはははは!! あひゃははははひゃひゃひゃ!! う、ヴォーーーー!!」
最後に2人のクノイチによるトドメの電気アンマを受け、断末魔の声を上げるヴァンパイア。
彼女が床に崩れ倒れると、タイミングよく上に吊られていた男が落ちてきた。
ちょうど真下に居
[3]
次へ
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想