魔物娘掛け合い漫才:『目黒のサンマ』

「海だー! 海だよ!!」

「アリスお嬢様、走ると転んでしまいますよ。あとそこはまだ河口ですよ」

「ダメだよ、ダメダメそんなんじゃ! キキーモラもせっかく来たんだから! 盛り上がらないと! ほらっ、海だーー!!」

「海だー」

「ねえ低くない? テンション低くない?」

「いえ、そのようなことは決して。河口だー」

「ウチのメイドさん、クール過ぎるよ……。ほら、キキーモラもさ、楽しまないと! ビー・ハッピー!!」

「ええ、そうですね。お嬢様の言う通りです」

「でしょ?」

「非番だった今日の朝にお嬢様にいきなり起こされたあげく午後の『大好評! 稲荷先生の花嫁修行講座 〜お料理編〜』の貴重な予約を血涙まじりにキャンセルさせられたこのキキーモラも、実は海に行きたかった気分でございます」

「ねえトゲがない? 言葉にトゲがない?」

「いえ、そのようなことは決して。ヤッホー」

「山じゃないよ!?」

「まあ、いいでしょう。私も久しぶりに海に来ましたから」

「しかも魔界じゃないふつーの海だからね! 青いね、すっごく青いね!」

「アリス様の館の前に流れる川はドドメ色してますからね」

「ねえやめて? さも当たり前のように風評被害バラまくのやめて?」

「でもたまにピンク色っぽくなるのは本当です」

「それはまあ、魔界だからね! そういう時期はお母さまの鼻息もなんだか荒くなる時期だからわかりやすいよね!」

「いえそれは、鼻息が荒くなるというよりは、単に発情してるだけですね」

「はつじょう?」

「お嬢様にはまだ早いかと。せめて想い人でもできてから出直しやがれください」

「ねえなんで? なんでたまにキキーモラは尖ったナイフみたいになるの? ……もういいもん! こうして来たんだから、ステキなお兄ちゃんでも見つけちゃうんだから!」

「そうですね。私も良いタイミングです、ここで花嫁修行の成果を見せるべきでしょう。殿方へのお声かけはお任せください」

「そんなことも花嫁修行で練習するの!? 大丈夫? いろいろとブレてない?」

「ブレてません!! 完璧ですッ!!」

「そんなところでキリッとしちゃうの……?」

「お嬢様、見ていてください。このメイドが殿方の1人や2人……いえ、忠臣二君に仕えず。私が真に仕えるべき殿方を我が物にしてみせます」

「ねえ私は? キキーモラの中で私の扱いはお嬢様(仮)とかそんな感じなの?」

「今こそ、我が物にしてみせますッ……!」

「無視かな?」

「いえ、そのようなことは決して」

「あ、そういえば、確かキキーモラ前も社交会で同じこと言ってたよね、でも狙ってた使用人さんに声もかけられずに結局ワイトさんに取られやめて? 私を掴んで海に投げ込もうとするのやめて?」

「お嬢様(笑)。言っておきますが今の私は以前の私ではありません」

「うん。いちいちツッコミは入れないけど、そうなの?」

「はい、おっしゃる通り以前の私は、花も恥じらう乙女特有のシャイな性質から、殿方に話しかけることが難しかったのは事実です」

「シャイかなぁ……」

「しかし乙女な私はくじけませんでした。なぜなら、『大好評! 稲荷先生の花嫁修行講座』があったからです」

「広告の成功談みたいな語りになってきたね」

「その講座の1つ、『花嫁修行講座 〜腹式呼吸と発声編〜』によって私は変わりました」

「応援団かな?」

「さあ行きましょうアリスお嬢様! 素晴らしいとのが……海は待ってくれませんよ!」

「いいよそこまで言ってから直さなくても!!」

「お嬢様の理想のお兄様も見つかるかもしれませんよ?」

「そ、それは…………えへへ……。ホントに見つかるかなぁ? 私をおひざにのせてくれたり、腕まくらしてくれるお兄ちゃん……。ねえねえ、キキーモラはどんな人が好みなの?」

「四回り以上は年上のナイスシルバーか、もしくは法に触れるくらいの幼女ですね」

「え、振れ幅大きすぎない!? というか後半は何がおきたの!?」







「あ、キキーモラきた! おかえりー!」

「…………フッ」

「やさぐれてる!!」

「衆目の中でイチャつきおってからに……いやむしろこの場では独り身の方が少数…………つまり私の方がつまはじき者だった…………という笑い話なのでしょうね………………ははっ、滅びよ」

「だからなに!? こじらせすぎたウィル・オ・ウィスプみたいになってるよ!?」

「アリスお嬢様。見てください、周りを」

「たくさん来てるね、人も魔物も」

「ですが、夫婦や恋人同士、あるいは家族連ればかりでしょう?」

「あー……あまり1人で来てたりとか、男の子同士でとかはいないねー、残念だけど」

「もう帰りましょうか」

「早くない!?」


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