『始動』の1〜10日

 《1日目》


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 ※『サバト』を名乗る宗教団体に御注意を!!※

 年明けから先月にかけて、未成年者を含む男女が自宅帰りや登下校時に行方不明になり、当日から数日後にかけて保護される事件が複数件発生しています。

 これらの一連の拉致事件では、全て『サバト』を名乗る宗教団体が関与しているとの疑いがあります。

 万が一『サバト』関係者が身近に現れた場合には、当市の皆様は決して慌てず騒がず、彼女らを刺激することのないようにお願いします。

 『サバト』は危険です。皆様の健やかな発達に害を与える可能性があります。また、『サバト』での活動は青少年保護育成条例に違反が報告されており、男女を問わず意識や嗜好にも重篤な悪影響を及ぼしかねません。

 市民の皆様の御協力をお願いします。

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「くそっ! また来たのか――サバトっ!!」

 その日、大学の掲示板に張り出された1つの告知。

 地元の市議会名義で書かれたやる気の欠片もない文書。
 
 それを上から下まで何度も何度も読み返してから、僕は足元の小石を力の限りに蹴り飛ばした。

 小石は地面を跳ねて近くの池に落ち、わずかに波紋を立てただけで沈んでいく。
 それがまるで自分の無力さを暗喩しているようで、一層苛立ちが募った。

「あっ、イズミ兄さん! こんな所にいたんだ?」

 走り寄ってきたのは僕の妹、イマリだ。
 この子とは1歳差の兄妹で、大学生としては1年後輩にあたる。
 よくできた妹である彼女は、僕が見ていた掲示にもすぐ気がついた。

「ああ……またこの時期が来たんだ。前は5年前だったっけ?」
「いや、違う。あいつらがこの街に大々的に来るのは、およそ4年周期と決まってる」
「よく調べてるねー、兄さんは」
「当たり前だっ。何度サバトの奴らに煮え湯を飲まされたと思ってる!」
「そ、そんな大げさな」

 大げさなものか。

 決してこれは誇張ではない。

 これまでのことを思い出す。
 サバトによって虐げられてきた痛ましい記憶を。

 小学校。
 運動会の日、他の親御さんらと同様に、僕と妹の両親も応援にと小学校にやって来ていた。
 そしてその年度の運動会からは、生徒とその保護者が協力して走る『親子で二人三脚リレー』という競技が新設された。

 しかし、僕の母はサバトの『魔女』だった。

 元から心も身体も若々しかったと自慢する母親は、妹が産まれたすぐ後、何を思ったのかサバトに加入してしまったのだ。
 そのせいで、あの人はその当時ですら二児の母親のクセにちびっ子……じゃない、若々かった体躯がそれで固定され、僕と妹が小学校の頃にはもはや妹のほうが背丈で親を上回っているいう始末。
 父親はごくごくノーマルで上背がかなりあったこともあって、両親2人が並ぶとギャップがとんでもないことになっていた。
 開会時の全生徒の行進に母親が普通に参加させられそうになっているのを発見した時の僕の驚愕は、誰にも理解してもらえないだろう。

 そして、『親子で二人三脚リレー』に行われた際に起こった狂乱、そのカオスっぷりについてはもう語りたくもないレベルだ。

 というか母よ、なんであの時超絶ノリノリで参加したんだ。
 そこまでの流れで、あんたが参加したらどうなるかくらい想像がついただろうに!
 親父も親父で!! 何を間違えばGOサインが出せるんだ!! あんたが出ろっ、あんたが!!
 しかも優勝したんだよ! 僕と母さんがMVP取っちまったじゃないか!!

 そして運動会が終わった翌日、僕には『ロリママに愛されて夜も眠れないイズミ君CD』という限りなく意味不明かつ長すぎるアダ名が付いていた。CDがどこから来たのかは謎だ。

 その当時小学校近辺では魔物娘の中でも魔女は数が少なく、『小学生よりも小柄な母親』というのが珍しかったのだろう。そんなアダ名が生まれるくらいには注目度は非常に高かった。

 運動会の後、母親はサバトの支部から教徒としての存在感を示したという名目で表彰されたらしい。まさかの折り紙で作られた金メダルを見せびらかして、妹と嬉しそうに話していたのを僕も見たから知っている。サバトが熱心に活動を始めたのもその頃だ。
 もう当時の僕には、笑えばいいのか悲しめばいいのかすら分からなかった。

 そして、中学校。
 ある日クラスメイトの石丸くんが3日程原因不明の欠席をしたかと思うと、明くる日に登校してくるなりこう言った。

「なあイズミ、オレ気づいちゃった! ランドセルの背中が当たってる部分のシワになって少し黒ずんだ場所、すごく興奮すると思わないか!?」

 思わない。

 そう断言したが、彼は聞く耳を持たなかった。

 それど
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