「ねえ、もう起きてるんでしょ?」
そう言われて、今起きたばかりだという感想が頭に浮かんだ。
気づけば目を閉じていたようだ。
違う、目を閉じていたことにようやく気づいた。
眠っていたのだろうか?
何が起きたのか、いや、俺は放課後になってからは自分の家に白蛇さんを呼んで、一緒にメシでも食って、それから…………。
それから、告白、こくはく、を。
「ここは…………おれ、はっ」
自分のかすれた声が、もやがかかった自身の頭に響いた。
少しホコリっぽい空気に喉がつかえ、言葉の端まで言い終わる前に咳き込んでしまう。
なんだか自分の腕の位置が不自然だ。
どうやら両腕は紐のようなものでがんじ搦めにされ、上に向かってくくり付けられているらしい。
身体は床にあお向けの体勢で倒れており、上には薄暗い天井が見えた。
そうして身じろぎしていると、腹にかかっていたブレザーがバサリと落ちた。
俺のものではない。自分のは今も着ている。
「そんなキョロキョロしなくても、ここにいるよ」
「ここ、って……」
暗い。が、差し込む夕日で周りが確認できた。
教室だ。
普段のホームルームの教室とは違ってかなり狭い。
そうだ、俺は放課後になってから誰も使っていなさそうな教室を探して……そして、この少人数用の狭い教室を見つけたんだった。
そうなると、腕がくくられているこの支柱のようなものは、ここからは見えないが教室の机の脚だろうか?
「ここって、ここだよここ。ほらこっち」
天井に固定されていた視界の下のほうから、ひょいっと人影が映りこんだ。
「…………おいっ」
「どうしたのさ、そんな人を初めて見るみたいな顔して。ちょっと変な顔になってるよ?」
その気安い風な物言いは、間違いない。
幼馴染みのものだ。
しかし、ブラインドの降りた窓からわずかに入り込む夕日に照らされたヤツの姿は。
なぜ。
どうして。
「お、おいっ、いや…………どうしたんだよお前、何があったんだよそのカッコ」
「気づいてくれた? ぼくだよ、ぼく」
答えになってない答えを返される。
だが、それを聞き直す余裕はなかった。
いきなり起こされて、目の前の状況に自分の頭の理解が追いつかない。
そこに居たのは、幼馴染みだった。
幼馴染み、だったはずだ。
見れば確かに、そいつにヤツの面影はある。
柔らかい印象を与える顔立ち、どちらかと言えば華奢よりの身体つき。
しかし、醸す雰囲気が普段と全く異なっていた。
「お前……なんだよな?」
「うん、もちろん。というか2人でここに来たのに、他の人と入れ替わってたりすると思う?」
実は、他の人と入れ替わっているんだ。
そう言われていればどんなに良かっただろうか。
ヤツの顔。
温和な印象はそのままだが、こんなにアゴの線は細かったか? 言葉を発している口は、以前からあんなに柔らかな造形だっただろうか?
ヤツの身体。
元から線の細かった身体は、しかしこうも細身だっただろうか? シャツだけになった姿が、腰に向かうにつれくびれているのはどういう理屈だ?
いつの間にか、見知ったはずの友人は別人のような雰囲気に変化してしまっていた。
これでは、まるで……。
「お前…………お前っ……!?」
「もう、起きてからそればっかりだね?」
どうしたの、と言って幼馴染みが顔を寄せてくると、ふわりと良い匂いがした。
ハーブや薬品とは違う、ただ『良い匂い』としか表現できない甘い香り。
同時に、男にしてはやけに赤く色づいて、透き通った唇が近づいてくる。
口元に浮かべた蠱惑的な笑顔に、思わず意識が引き込まれそうになった。
これでは、まるで。
こいつ、まるで――――――女じゃないか。
「そうか、アルプ…………!」
「ありゃ? もう分かっちゃったんだ。きみってたまーに鋭くなるよねぇ」
アルプ。
男が女の身体になり、サキュバス化する現象。
いや、現象だっけか?
詳しいことは知らないが、この学園には人とともに、たくさんの人でないヤツも通っている。オトヒメさんだってクラスの一部の女子だって、あの女子たちはみんな魔物娘だ。
だから、アルプという魔物についても聞いたことはあった。
去年だったか、当時のバスケ部の主将であった男子が、ある日登校してみればまるっきり女子の体つきになっていたらしい。
俺もウワサが気になって遠目から覗いてみれば、元は男だったという事実のほうがウソだと思うほどに普通の女子になっていた。
……いや、普通じゃないな。
すげぇ美人だったのを覚えている。
そして、目の前のこいつも。
「……いつからだ? 小学校は違うし、中学校も水泳
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