前編


「おい、聞いてくれ。俺、オトヒメさんに告白することにした」

 春の陽気の下で睡魔と激戦を繰り広げた授業後の昼休みという、高校生活において一、二を争うほど生徒が活気づく時間。

 もちろん自分もその例外ではない。
 待ちに待った昼飯の時間なのだから。

 購買で蛮族の略奪じみたパンの争奪戦から帰ってきた俺は、自分の席のイスをそのままに身体だけ反対に向け、後ろの席のヤツと二人して昼飯を食っていた。

「オトヒメさんって、隣のクラスの?」

 そう答えたのがヤツだ。

 虫どころか草すら引っこ抜くのをためらうような温和な性格。
 そんな内面が外にそのまま出てきたかのような、毒気がいっさい感じられないへにゃっとした表情。

「おう、B組のあの子な!」
「……確かに、あの子キレイだよねぇ」

 そう賛成してくれた。
 こいつから見ても、やはりオトヒメさんは美人にカテゴリされるらしい。

「だよな? でもちょっと話した時すげぇ気さくだったし、髪長くてキレイだし、料理上手そうだし、大和撫子な美人って言葉がしっくりくるよな!」
「うん。ぼくもよく合同授業の時とかに話すけど、なんていうか人を惹きつける的な高貴なオーラが出てるよね。もわぁっと」
「そのオトマトペ、なんかヤダな……。ってか、お前オトヒメさんとそんなによく話すのかよ! やめろ、お前は近づいたらアカンやつや!」

 野菜が多めの弁当箱を箸でつついているそいつの発言に、慌てて牽制を入れる。

 あれだ、こいつはマンガだったら目が線になっていつもニコニコしてる系のヤツだ。
 怒った姿もこれまで見たことがない。
 優男って言葉がこいつ程に似合うヤツは、俺は他にはTVに出てくるような某事務所の男性アイドル軍団ぐらいしか思いつかない。

 ハッキリ言おう、だからこそ危険なのだと。
 こいつと俺だったら世の女性はどちらを選ぶか?
 非常に悲しいことに、答えは決まりきっていた。

「アカンってなんだよー。別に同じ学年なんだから、少し話すのくらい普通でしょ?」
「うるせぇ! そのキレイな弁当をケチャップまみれにしてやる!」
「わー!? ……あ、丁度ブロッコリーに味付けが欲しかったところなんだった」

 腹いせに購買産のフランクフルトのおまけで牽制を図ってはみたものの、むしろ喜ばれてしまった。
 それどころか、お礼にとヤツの手持ちのハンバーグをくれる始末。
 なんて懐の深いヤツなんだ。
 くそ、超うめぇ。

「ありがとね。まさか、ぼくにくれるためにケチャップとっといてくれたの?」
「そ、そんなことないんだからねっ! 余裕かましやがって、この幼馴染みめ……。おいお前、今まで受けてきた告白の数を覚えているか?」
「え? いや、あんまりそういうのは相手の迷惑になっちゃうし、他の人に言うものじゃ……」
「うわ、良いヤツだ!! 良いヤツかよちくしょう! 俺は悪いヤツだから言えるね! 相手の迷惑なんて考えないで声高に言っちゃうね! ゼロだよ!!」

 すると、今まさにうるさいし迷惑だろが、と周りのクラスメイトどもから食い終わりの箸やらペットボトルが玉入れのごとく投げこまれた。
 誰だよ、中身少し残ったアイスのカップ投げた奴。

 しかし周りのその暴挙を止めたのも、ヤツだった。

「あっ、こら、それぐらいで許してあげてよ!」
「くぬぅっ、優しい! 敵に塩を送ったつもりか!」
「敵って。でもぼくに話したってことは、何かアドバイスが欲しいとか、手伝ってくれってことだろ?」
「はっ!! やべ、そうだった! 教えてくださいオナシャス! シャーッス!!」
「すごい手のひら返しだね……」
「いや悪い、ほんとこの通りだ!」

 苦笑いの友人を拝み倒す。
 そうだ、元はそのつもりで話題を振ったのだった。
 こいつの『オトヒメさんとよく話す』発言で要らぬ動揺をしてしまっていた。

「……まあ、全く構わないんだけどね。いいよ、ぼくで良ければ力になるよ」
「ヒュー!! さすが幼馴染み!」

 よっ、優しいイケメン! モテ王!!

「はいはい。ムリにおだてなくて良いからさ。じゃ、ここだとなんだし後でそっちの家で作戦会議でいい?」
「もちろん!」

 快諾してくれた幼馴染みは、やっぱりこちらが危機感を覚えそうになる程の優男スマイルを浮かべていた。
 くそう、同性なのに思わず見とれちまうってどういうことだよ。

 だがしかし俺は、頼れる仲間を得ると同時に手強い敵を減らすことに成功したのだ。

 クラスの騒がしい女子グループにこの前教えてもらった。
 女子の「わたしぃ、あの人のコトが気になってるんだけどぉ」という会話には、自分の独占販売経路を確立し、近隣の潜在敵の芽を摘む意味合いがあると。
 その時はなにその企業間戦争と思っていたものの、試し
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