俺は、人間が嫌いだった。
だから俺は、”魔物娘”という人間を軽く凌駕する、未知の存在が現れたときにとても喜びを感じた。
そう、これで愚かな人間共はこの世界からいなくなるのだ。
今日は記念すべき、魔物娘たちが大々的に存在と思想を表明した日。
七月二十一日だ。
自宅にある古いパソコンを使い、魔物娘に関するネットの記事を読みながら、俺はにやにやしていた。知性を持った集団ゆえか、魔物たちにも色々な派閥はあるようだが、その中でも”過激派”はとにかく人間を魔物にしていっているらしい。
以前から魔物娘たちは人間社会の中に潜伏していたらしく、世界が魔に包まれる日はそう遠くないだろう、というのが人間と魔物との共通見解だった。
「きっと、俺のところにも魔物娘が来るんだろうな」
そのあと、ネットに転がる女性や魔物の痴態を映した画像や動画を見る。中には違法アップロードされた物もあったようだが、俺に損はないので関係ない。それを見ながら、ただ一つ昔から続いていた趣味ともいえる自慰をしていた。
絶頂による疲れのあと、カーテンが閉まり長年掃除もせず散らかり放題の部屋の中、俺はかろうじてまだ汚れのマシなベッドに寝転がった。
ここで寝ていれば魔物たちがやってきて、世界を変えてくれるだろう。
そして、俺も。
魔物たちに救われるのだ。
三日が経った。
あれから俺の日常はいつもと変わらず、ネットの記事を読んだり最寄りのコンビニに出かけたりはしているが、まだ魔物娘たちは俺の所に来ていない。
まあ、流石にそこまで早く来るわけでもないだろう。
アングラな掲示板やチャットで適当な書き込みをしたり読んだり、ネットで違法アップロードされていた動画やゲーム、アニメを見たり、また女たちの痴態がふんだんに盛りこまれた画像などを見ながら自慰をして、暇を潰す。
一週間も経てば周りに変化が起きるだろう。
一週間後。
まだ魔物娘は俺の前に現れていない。
コンビニの店員や客も傍目には普通の人間に見えるので、普通の人間女性なのか魔物娘なのかは分からない。魔物娘たちの殆どは人間に化ける魔法が使えるからだ。これはネットの記事に書いてあった。
声を掛けたところでそう簡単には何者か教えてくれないだろう。魔物娘たちは好意を示した相手や、伴侶となった男性以外にはほとんど興味を持たないということらしいので、なおさらだ。
おおよそ褒められたことのない俺の醜悪な顔を見たからか、何かそいつにとって不都合なものを俺に感じたのか、通りすがった女性が嫌そうな顔をしたように見えた。つまりあいつはきっとまだ人間女性なのだろう。
これだから人間は嫌いなんだ。
二週間後。
まだ魔物娘は来ないのか、と苛々する。
周りの変化としては、すれ違う人間の中、稀に人外だとはっきり分かる女性を見る程度だ。
ただ、暴走族とでも言うべき深夜にうるさく走り回る車やバイクの音は聞かなくなったが、それが魔物娘たちによるものかどうかは分からなかった。
代わりに、かすかにだが男女の情事のような甘い声が聞こえるようになって、俺はそれを自慰のレパートリーの一つにした。
そういえばコンビニの商品を見て思ったが、物価も多少だが安くなっていっている気がする。
あとは、ネットやテレビのニュースを見ても、陰惨な事件の報道がほとんど流れない。ただ報道規制がなされているだけかもしれないが。
三週間後。
もうそろそろ何者かが俺の所に来てもいいはずだが、やはり魔物娘は現れない。魔物娘たちが己の存在を大々的に公表した七月二十一日――いやもっと前からそうだが、俺が誰かと会うのは自宅に宅配しに来る配達員か、コンビニで見る店員や客か、たまに外出した時に通りすがる人間だけだ。
見かける女性の数が多くなった気はするが、やはりほとんどの女性は傍目では人間か魔物か分からない。
ごく稀にはっきりと人外だと分かる風貌をしている者はいるが、何らかの用でならともかく、”そういう意図”で俺に声を掛けてくる魔物はいなかった。
大体の女性や魔物には、その傍にかなりの確率で男がいた。
さすがに不安になってくるが、きっと大丈夫だろう。
魔物娘たちはすべてを救ってくれるのだから。
四週間……いや、もう一か月以上が過ぎた。
あれから俺に好意や興味を持って話しかけてくる魔物も、それらしき言動をする女性に見える奴もいない。
不安は日に日に増していく。
どうして誰も俺の所に来ないのか?
まだこの一帯は魔物娘たちに支配されていないのか?
いや、ネットの書き込みもニュースも周囲も、もう以前とはあまりにも違いすぎる。
不幸な事故や陰鬱なニュースはどこにも見なくなり、
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