草木も眠る丑三つ時……ってなにかの本で見たけれど、何時ぐらいのことなんだろう。
ともかく今は深夜で、僕の両親も、村の皆も寝静まっている。
僕だけはこっそりと起きて家を出て、すぐ近くの森へ行く。
仄かな月明かりしかない外は真っ暗闇のようだけれど、持っていくのは魔法石を使った小さなカンテラだけ。
十分も森の中を歩くと、あのフクロウさんといつも待ち合わせをしている場所に着く。
短い草が絨毯みたいに生え揃う、木々が離れて少しだけ開けた所だ。
石も転がっていなくて、座っていても寝転がっても痛くない。
僕がそこに着くと彼女はそこにもう居て、じっと黙って立っていた。
ほとんどが黒に包まれた景色の中で輝く、二つの黄金色(こがねいろ)。それを見れば、彼女がいることがすぐ分かる。
「こんばんは、フクロウさん」
「……ん」
挨拶をすると彼女は少しだけ頷いて、その黄金色の瞳を僕に向けてくる。
とても綺麗な眼だけれど、暗闇の中だとさらに際立って、星のように美しく見えた。
瞼が少しだけ閉じていてじとっとした目つきにも見えるけれど、怖さは全く感じない。
それによく見ると、左目の下には人間みたいに泣きボクロがあって、それも魅力的に見える。
「……今日も、来てくれた」
「うん。……本当はもっと一緒にいたいけど、お昼は勉強があるし、お父さんの仕事も手伝わないといけないし、フクロウさんも眠ってる時間だよね」
「……そう」
僕がカンテラを向けると、彼女の身体がぼんやりと見えてくる。
口元はよく羽毛で隠れていて、あまり表情は変わらないけど綺麗な顔立ちだ。
頬を包むような長さの、ふんわりした白と茶の髪の毛。その隙間から覗く黄金色の瞳。
そして大きくて分厚いけど見るだけでも柔らかそうな、もこもこの白と茶の羽毛が全身のほとんどを包んでいる。
人間にはまず見えないけれど、僕には普通の女性よりも綺麗に思える。
そして僕よりも遥かに体が大きくて、僕の背丈は彼女の胸ほどの高さしかなかった。
「……じゃあ、いつもの……する?」
「え……えっと」
そう言うとフクロウさんは僕の返事を聞く前に、その大きな身体をこてん、と地面に横たわらせた。
仰向けになった彼女は長い羽をばさっと広げ、ゆらゆらと翼を揺らして僕を招く。
僕がカンテラを地面に置くと、こっちをじっと見つめる黄金色の瞳と視線が合う。
すると、いつものように僕はふらふらと彼女の方へ近づいていってしまう――。
「あ、あ……」
もちろん拒むつもりなんてなかったけど、その瞬間に風邪を引いたみたいに頭がぼーっとして、難しい事は考えられない。
ただ思うのは、フクロウさんの柔らかな羽と身体に包まれたいという気持ちだけ。
「フクロウ、さん……」
「……ん。そうじゃない……ちゃんと『お姉ちゃん』って、呼んで……?」
彼女……いや、お姉ちゃんの眼を見てしまった僕には、やっぱり断る気なんて一切起きない。
「え、あ……お、お姉ちゃんっ……」
仰向けに寝転んだお姉ちゃんに覆いかぶさるようにして、身体を重ねる。
「……ん♪」
お姉ちゃんの首や胸元、足にあるふわふわの体毛が肌に触れて、とても気持ちいい。
顔がむにゅっとした二つの大きな胸に埋もれて、温かさと水風船みたいな柔らかさにとろけそうになる。
「ああ……お姉、ちゃっ……すごいよぉ……」
「わたしの、おっぱい……気持ちいい?」
僕はその柔らかさをさらに味わいたくて、ぎゅうっとお姉ちゃんを抱きしめる。
身体の大きさが全然違うので、僕の全身が毛に埋もれていくような感覚さえあった。
「……わたしも、ぎゅって、する」
ゆっくりと両方の翼が僕の全身を包むように閉じられていく。
僕の小さい身体はすっぽりとその羽毛の中に閉じ込められた。
それは今まで使ったどんな布団や毛布よりも優しい肌触りと柔さで、まったりと僕を包み込んでいく。
「すごい……何回してもらっても、お姉ちゃんに包まれるの……気持ちよくて、とけちゃいそう……」
「……んん……
#9829;」
少し肌寒かったはずの夜の寒さはもう感じない。
じんわりとした温もりの中、ふわふわの羽毛とむちむちした肉付きに心から癒されていく。
ときどきお姉さんが僕の頭をさわさわと撫でるように羽根を動かしてくれるのも、たまらなく安心してしまう。
「君はなにも……心配しなくていいよ……。
わたしが包んで……じーっと、見ててあげる……
#9829;」
「あ……あぁ……お姉、ちゃん……
#9829;」
ぼんやりと霞む思考の中、日々の疲れや将来への不安が水に入れた雪のように溶けていく。
睡魔に襲われ、僕が眠ってしまうのに、もう大した時間は掛からなかった。
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