「……あの国と同じくらいの領土なのに、活気が段違いだ。
ただ眺めているだけでも、皆が安泰な暮らしをしているのが見て取れる。
それに人間のような、そうでないような姿の者がたくさんいるが……」
「そういえば、オマエは親魔物領に来たことがないんだったな。
魔法道具、いや魔術を志す者なら避けて通れる道じゃあない。
なにしろ魔の物と書いて”魔物”だからな」
荷物を載せた大きな馬車の中、景色を眺めながらオルビアとファクティスは話していた。
彼らが向かうのは親魔物領の中でも魔術に精通した国である。
反魔物領でも魔術について学べないわけではないが、それは表層を知る程度にしかならない。そう考えたオルビアは、自分とも関わりがあり、さらに組織からも斡旋を受けた国へファクティスを移住させる事にした。
「ここなら魔術大学もギルドもしっかりしてるし、魔道を追及する”シロクトー・サバト”の支部もある。そこにはもちろん魔物ではあるが、魔法道具を作ってる職人もいる。
丁度よくアイテム作りの後継人を探しているヤツを知ってるからな」
ポケットからお気に入りの飴を取り出し、舌で転がしながらオルビアが言う。
「……ああ。面倒を掛けてすまない」
「気にすんな、人助けの一環だ。
それもゲイザーであるアタシを、多少なりとも自分の魔法でぐらつかせたんだ。
オマエの才はアタシが保証してやる」
「そう、か」
複雑な心境のファクティスは、ぎこちなく返事をした。
「ふむ、なるほど。
マジックアイテムの制作を学ぶために我がサバト支部へ入りたい、と」
「はい」
魔道サバトである”シロクトー・サバト”支部の特別応接室。
怪しげなインテリアの並ぶ異様な部屋の中、毒々しい色だが柔らかいソファに二人と一人が向かい合って座っている。
せいぜい十歳ほどにしか見えない少女風貌で、その外見には不釣合いなほど大きい緑帽子を被った”魔女”が、ファクティスとオルビアに面会していた。
この魔女は魔道技師であり、魔道サバトの中でも魔法道具の生成に着手し、重きを置く者である。
「しかして、その動機は?」
「人々のために、皆の暮らしに貢献できる物を作りたいんです」
「却下」
「えっ?」
「おいおい!組織から嘆願書まで送ってんのにいきなりそりゃねェだろ!」
オルビアは喚くように声を荒げる。
ちなみにオルビアはこの魔女と知人であり、組織を通じて互いを援助しあう関係だ。
そして魔女は落ち着き払った態度で二人に言う。
「その心構えだけでは駄目だ、と言っているのだ。
道具を見るのも、試すのも、使うのも、誰より先に自分がすること。
その自分の為に貢献できるものが作れてようやく、他人に貢献できるものが作れる。
違うかな?」
「……その通りです」
「オルビア君の組織、”フレンド・ブック”を通じてまで私達の所に話を持ってきたのだから、凡庸な人材でないことは認めよう。
しかしどんな素晴らしい才があったとしても、必要のない道具を作ることに意味はない、と私は考えている。
私は芸術家でも学者でも研究者でもなく、職人だ。
理と利を持って道具を作り、事を成すのを信条としている。
分かって頂けるかな?」
「はい」
「相変わらず堅苦しいな。職人ってのはこんなのばっかりなのか?」
オルビアが冗談交じりにそう言うと、魔女は自嘲するように笑った。
「ははは、すまないね。ごしゅ……夫以外の相手にはどうも口うるさくなっていけない。
彼を目の前にすると不思議なくらい無口になってしまうのにな。
こんな偏屈者を傍に置いてくれる彼と出会えたのは本当に僥倖だよ。
あれは今から三十六――」
「ノロケ話はいい!コイツに技術を教えてくれるのか、どうなんだ?」
こほん、と一息置いてから、魔女はまた話しだす。
「それはもちろん、快諾しよう。
私の伴侶は道具を活用する側で、中々後継人がいなくて困っていたからね。
とはいえ、生易しい道ではないと思うが……その覚悟はあるかな?」
「……もちろんです。よろしく、お願いします」
「こちらこそ。では、改めて自己紹介させてもらおう。
この国における魔道サバト支部の幹部、魔道技師の”トゥール”だ。よろしく頼む」
それからこの国へ移住したファクティスはトゥールの指導の下、一日の半分近くを魔術道具作りの学習に費やしていった。
「この魔力変換方法は良くないな。いざ改良しようという時に拡張性がない。
完璧な道具は存在しないが、それに近づける為の努力を怠ってはいけないよ」
「はい、先生。では、少し時間を貰っていいですか。
十五分でいいアイディアが浮かばなければ、ご指導していただきたいです」
「分かった。だがもう遅い時間だ、今回の課題は次までの
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