2 だれが付き人 つとめるの?

「――ひぃっ?!なっ、ばっ、バケモノぉ!」
「あんた、毎っ回同じ驚きかたするねぇ。ゴツい見た目のワリに臆病すぎんじゃない?」
「く、来るな……こっちに来るな……やめろ、やめてくれぇ……!」
「まあいいじゃんか、知らない仲でもないんだよ? あんたは覚えてないだろうけど」
「お、お、お前みたいなバケモノ、知るかぁっ!」
「だからそう、何回も言うなよ――”バケモノ”、”バケモノ”ってさあ――!」


”こっちの世界”に来てからというもの、あたしは用が無いとほとんど洞窟から出歩かない。
その用というのも、精を吸いに行くか、夜の散歩ぐらいだけど。
ともかくあたしは、この洞窟を見つけてからはずーっとここを根城にして住んでいた。

するとラッキーなことに、『ドウロ』とかいう道を整備するらしく、近くに男が溜まる場所ができた。
工事現場、とかいうらしい。
しかもその場所があたしのいる洞窟からは遠くもなく近くもなく、実に絶妙な場所だったので、精にはますます困らなくなったというわけだ。
ついでにあたしの力でそこにいる人達を操って、色々と遊んでみたり、そこにある物を拝借したりした。
なのでこの洞穴も、人間たちの家ほどじゃないだろうけど、わりと快適な環境にできたわけだ。
この前持ってこさせた『でぃーえす』とかいうキカイはけっこう面白かったなぁ。
ニンゲンの作るモンも中々バカにできないって、ちょっと感心しちゃったよあたし。


「んっ、あっ、ったく、あたしがっ、あっ、魔法掛けて、やんないとっ、触っても、くれないんだからさぁっ……!」
「――うっ、くっ、で、出るっ!」
「はぁっ、はぁっ……あんがとさん。トシのわりに元気じゃないの?」
「はは……最近、カミさんとご無沙汰だったからな……」
「……あ、そ。あんたもイロイロあって疲れてんだろうけどさ、たまにはちゃんと構ってやんなよ。
 ま、あたしが説教したってどうせ忘れちゃうから、意味ないんだけど」


『元の世界』にいたときも、あたしを自分から押し倒そうだなんてヤツに会った事はなかった。
それどころか、たまにあたしが近寄ったって邪険にするヤツばっかりだった。
出会ったそばからバケモノだなんだのと罵って、無暗に怯えたり、あるいは怒ったりで、あることないこと言いやがる。
もちろん、そうでないヤツだって確かにいた。
けど、あたしが仲良くしてると「どうせ魔法を使ったんだ」なんて言うヤツもいて、あたしはますますやり切れなくなった。
ま、確かにあたしは何度も魔法を使って男を犯していたから、その辺はお互い様だ。
自分が憎たらしいヤツだなんてこと、あたしが一番よく分かってる。
――いつからかあたしは、身体を重ねた相手の記憶はみんな消すようになった。
これでよかった。
あたしと関わったって、ニンゲンには何の得もない。覚えてたって、逆恨みされるだけ。
これでよかったんだ。

そんな時、あたしに声を掛けてきた魔物がいた。
詳しい素性は聞かなかったが、どこにでも転がってるようなタマじゃないのは分かった。
そいつが言うには、『別の世界』の扉を開けたから、そこにこっそりと潜り込めるヤツを探してるんだ、と。
話を聞くだけだとマユツバものだったが、色々あってあたしも心を許してしまったし、説明を聞くうちにその世界へ興味が出てきた。
そんで、『こっちの世界』に来ることを選んだわけだ。
ここの世界じゃ魔物も魔法も、存在しないものみたいに扱われている。
おかげで、あたしみたいにこっそり生きられる魔物には住み心地がいい。
バケモノ扱いは変わらないけど、そういう知識がニンゲンにない分、暗示も魔法も効きやすいからだ。
ただ、潜り込めとは言ったくせに、何か報告しろとか、こういうコトをしろとかは言われなかった。
せいぜい「出来るだけバレないようにな」と言ったぐらいだろう。
どうもこの異世界に忍び込むという案は、あたしに話を持ちかけたソイツが、ぜんぶ一人で企てた話らしい。
てっきり組織的なものだと思っていたから驚いた。
あたし以外にも送り込んだ連中はいるらしいが、そこんとこは聞いていない。
もしかするとそれは、他人と馴染めないあたしへの、あいつなりの贈り物だったのかもしれない。
「もし帰ってきたくなったら、いつでもあの店に戻るといい」って言われたっけ。
そういや、ひとり洞窟で暮らしていたあたしに『レティナ』って名前を付けたのも、ソイツだったな。
でも結局、その名前を使った相手は、名づけ親のソイツと、カナメというニンゲンだけだった。

あたしはまた、『こっちの世界』で出会った、あいつのことを考える。

……カナメ。

自分でも不思議だけど、あいつを思い出すたびあたしはぼーっとしてしまう。
工事現場でオトコを襲って洞窟に帰る所だったあたしが、一人で山道を歩いてたあい
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