『貴方をあまやかしてくれるけものさんはいりませんか?』
珍しくとても早い時間に起きた、出勤前の朝。
暇つぶしに触っていたパソコンの画面に現れたのは、そんな触れ込みの広告ページだ。
「変だな、こういうのは自動的にブロックされてたはずだけど」
訝しみながらも僕はついその広告に目が行ってしまう。
そこに映っていたある女性に目を奪われてしまったからだ。
凛々しい狼のような顔をしていて、しかし体毛がある以外は均整の取れたプロポーションの、獣人とでも言うべきその姿。
色々な獣人……なぜか特に幼く見える子が妙なほど多いが、僕はその中では浮いた存在に見える、凛々しい狼獣人の姿にくぎ付けになっていた。
「たぶん着ぐるみ……だよな? すごい、今だとこんな高いクオリティのがあるのか」
思わず見惚れてしまうぐらい妖艶なスタイルと美貌に、気高い狼のような瞳と人間の混ざり合った風貌。
実家で犬と暮らしていたことのある僕はもちろん、動物に愛着のない人間でも振り向かせてしまいそうだ。
そしてその狼が自宅までやって来て、あなたをあまやかしてくれる、という紹介文。
「い、一回目は完全無料……か。それなら、ちょっとくらい試してみても――」
一度ページをクリックしてしまったら、後は流れるように。
自分が呼びたい”けものさん”の選択、日にちの設定、利用規約、会員登録。
安全のために確かめたが、驚くことに国の認可まで貰っているようなので、まるっきり詐欺ということもなさそうだ。あの狼女性はともかく、他の幼く見える子たちは法令的に大丈夫なのだろうか。
具体的に何をやってくれるかはほとんど書いていないが、一目見るだけでも価値がある。
すると早速、明日の土曜日の朝からあの狼がやってきてくれるという。
「ま、まあ。フォトショ加工とかもしてるだろうし、こんな綺麗な子は来ないだろうな」
心の中で予防線を張りながら、その日もいつも通り仕事へ向かった。
玄関のチャイムの音で目が覚める。
……時計を見ると、朝八時だ。
昨日は飲み会帰りで、先輩たちに呑まされすぎてしまったせいか、頭が痛い。土日と続けて休みを貰えた日だから、先輩方も分かっててやったのだろう。
重い身体を引きずりながら、覗き窓も使わず玄関扉を不用心に開ける。
「はい、どなたで……」
扉の前に立っていたのは、女性の身体をしたとても背の高い獣人だった。
「おう、おはよう。『あまやかすおおかみ』の天音(あまね)だ。
今日はよろしく頼むぜ、優太(ゆうた)さん」
「……へ?」
彼女の豊かな胸がちょうど僕の頭に来る所を見ると、その身長は2m近いかもしれない。
しかし不思議と恐怖や威圧感をあまり感じさせない、独特な雰囲気があった。
「昨日申し込んでくれただろ、忘れたのか?」
女性だと分かる程度に低い、ハスキーな凛とした声。
獣っぽい匂いと、女性特有の石鹸のようなほのかに甘い香りが混ざって鼻をくすぐる。
そして狼らしいマズルと、その特徴的な精悍さのある顔つきで、昨日の自分がしたことを、自分が選んだ狼のことをようやく思い出した。
「……ぐるる、あまり顔色が良くないな。さっそくだが上がらせてもらうぜ」
「え、あ、あの」
止める隙もなく、その女性は家の中へ入ってきた。
「おいおい……こりゃひどいな。家の中がごちゃごちゃじゃないか」
「す、すみません。最近仕事が忙しくて」
今回の休みで片付けようとは思っていたのだが、昨日はいつ寝たかも覚えてないぐらい酔っていたので、掃除する余裕すらなかった。
洗濯物や空容器の詰まった袋、読んだ本などがそこかしこに散乱してしまっている。
「まっ、そういうヤツのためにアタシらがいるわけだからな。
とはいえ、少しだが片付けさせてもらうぜ。
こんなんじゃリラックス出来るモンも出来ねえだろ」
「ご、ごめんなさい」
僕が何か言うより早く、天音と名乗った狼女性は床に落ちているものを片し始める。
手伝いながら、僕は不自然にならない程度に彼女の外見を眺めた。
「これはここに置いていいか?」
「あ、はい」
全体的に黒い身体と体毛に包まれ、燃えるような赤い瞳をしている。
もさもさとした狼耳や毛皮はぶ厚くも柔らかそうで、触り心地が良さそうだ。
手足には大きな爪があって物々しいが、怖いという程ではない。
毛皮のない剥きだしになった部分の肉体は、有名モデルのように整った美しさがある。しかし、下着すら履いていないので破廉恥この上ない。
「まあ、大ざっぱだがこんなモンか……次は朝飯だな」
「朝ごはん?」
「当然だろ? 朝食はエネルギーの源だ、ちゃんと食ってもらう。
……とはいえ、バリバリ自炊してるって
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